死神少女と森の異変
【ブラウェイン王国 シルフの森】
泉の畔にはオークだったものが隅に片付けてあった。
「助かった、小さいのに強いんだな。」
リーフと名乗った女性が礼をする。
セミロングの金髪から出ている尖った耳は彼女がエルフだと物語る。
「オークは昨日嫌いになりましたから。それに私たち、まぁまぁ強いですから。」
「まぁまぁか…………」
元オークの残骸を見て苦笑する。
「里でお礼したいのだけれど、族長から戒厳令が出てね。エルフ以外は入れないんだ。代わりに……」
リーフは液体の入った小瓶をエミリアに渡す。
「エルフ族のポーションだ。人間にはかなり高価な物らしいからあげよう。」
「…いいの?」
「気にするな、あのままだったら私とルーザざは…………いや、なんでもない。」
リーフとエルフの少女、ルーザは森の奥へ向かった。
リーフはエミリアの戦いを思い返した。
あれは一方的な虐殺だった。
オークは身体の脂肪により力が弱いと物理ダメージが通りにくい。
よって魔法や毒による討伐が一般的だ。
だがエミリアが行ったのはナイフの投擲、しかも的確にオークの目に当てていた。
三体のオークが怯みその間に一体を絶命、残り二体も暴れる内にナイフの餌食となった。
惨たらしく顔を何度も刺すその様には助けてもらった安心感よりも恐怖を感じた。
ハンナと呼ばれた少女はクロスボウでオークを相手した。
クロスボウの矢には何らかの毒が塗ってあったのか被弾したオークはもがいてそのまま動かなくなった。
レイラと呼ばれた少女はただただオークを炎魔法で焼き、灰にした。
だがリーフはレイラが加減していることに気づいていた。きっと本気を出したら森の半分は焼失するだろう。
それを考えたのだろうか?
そして一番気になるのはエミリアの頭にいた妖精達だ。
妖精は綺麗な魂に惹かれる。エルフの間では常識だった。
リーフにも妖精は時々寄ってくるが、あの数が集まった人間は初めて見た。
正気と思えないオークへの仕打ちをする人間、もしかしたら本来はまともな子なのか?
一体何があったのか?
何故あんな残忍な行為ができるのか?
少なくとも妖精が集まるということは悪人ではないのだろう。
あの子の将来に光があることを女神様に祈る。
シルフの森は想像以上に広く、エミリア達は今日も森で一夜を明かすことにした。
ここに連れてきた責任を感じ始めたらしく、レイラは少し泣き顔になっていた。
エミリアとハンナはレイラを撫でてあやす。
白い光もレイラを慰めるように側に寄ってきた。
レイラが泣き疲れて寝てしまった。
エミリアは自分の外簑をかけてあげると、
「ハンナ、お願い。」
「任せてよ。」
クロスボウとマチェットを携えてハンナは森へと消えた。
エミリアはレイラを撫でながら子守唄を歌う。
母が妹をあやす時に歌ったものだ。
うろ覚えだが最後までは歌える。
レイラの周りにいた白い光の動きも鈍り、やがて止まった。
この子達も寝たのだろうか。
「ふぁ………」
眠気がうつったのか欠伸がでた。
レイラに寄り添うように寝転がる。
ブラウスとスカートが土で汚れるが気にしない。
自分も寝よう。
開けた場所でハンナはオークを相手していた。
毒矢で的確に数を減らしていった。
「あなたたちに恨みはない。ただエミリアの邪魔はさせない、それだけだよ。」
マチェットを肩に担いで絶命したオークに告げる。
目の前には倒したオークを積み上げてあった。
最後の一体を掴もうとした時、
「フゴッ?!」
オークの額に毒矢が刺さり本当に絶命する。
「死んだふりするならせめて血糊くらい身体に付けなきゃダメだよ。臭いに敏感な魔物には通用しないよー?」
けらけら笑いながら蹴りを入れる。
そして趣味の悪い山が出来上がった。
「じゃ、後は専門の方々にっと。」
どの場所にも『掃除屋』と呼ばれるナニかは存在する。
ハンナは直接見たことない。しかし森で魔物の死骸や骨が二日以上残ってないことから、ヤバイ奴なのは理解していた。
闇夜に紛れて活動し、死の臭いを的確に嗅ぎ当て、『掃除』をする。
生きている間はまず見ることはないだろう存在。
ハンナはエミリアの元に戻る。
後ろから何かを貪る音がするが聞こえないことにする。
そうあるべきなのだから。
森の奥深く。
オークの集落は存在する。
最近オーク達は動きが活発化していた。
普段の彼らは集落の周辺くらいしか活動しない。
しかし最近、彼らには強大なボスが現れ行動範囲を広くしていた。
オークよりも大きな身体を持つ、オークキング。
彼は己の欲望のまましもべを周囲に遣わせていた。
「オークキング様、バンザーイ!!」
「バンザーイ!!」
オークは動き出す。
彼に気に入られるための供物を探しに。




