死神少女は称えられ恐れられる
【ブラウェイン王国 港町スレイル】
夜が明けて、キャプテンフェイズはエミリアの奮戦を称え、労おうとしたが何故か姿を見つけることができなかった。
同様に残りの二人の少女も姿を消した。
「そういう所まで親父に似たのか。」
フェイズはにやける。
亡き友の忘れ形見はどこまでもそっくりだったらしい。
「セリカ、リリノア。ご苦労様だな。」
振り帰ると額に絆創膏をつけたビキニアーマー。
ビキニアーマーの後ろには怯えるように隠れる銀髪ツインテールがいた。
「凄かったね、私の目に狂いはなかったよ。強いねあの子。」
「そりゃあそうだ、エリオット・ルーベンスの忘れ形見だ。」
「え?!あの荒神様の?!」
「間違いない。あの顔つきに非情な戦い方、それ以外考えられん。」
「うぇーもっと仲良くしておけば良かったなぁ。」
「そのことで頼みがある。」
フェイズは改まる。
「あの子……いや、あの三人に付いていてほしい。」
「んー?別にいいけどなんでまた?」
「あの子達の力は本物だ、それこそ人間にも通用するくらいに。」
「……ねぇ、まさかだと思うけど。」
「王国に目をつけられたら間違いなく軍事利用される。勝手な話だが俺はあの子達にそんな未来を歩んでほしくない。」
「それに、あの子は帝国生まれだ。」
「帝国嫌いの貴族にバレたらきっと録なことにならない。あの子達を帝国に連れていってほしい。危険だと思うが」
「なーに、言ってんのっ。危険を恐れてたら冒険者なんてやってないよ。」
「すまんな。」
「天下の海賊フェイズ様が頭なんかさげないでよ。調子狂うし。」
「そうか、じゃあ頼りにしているぞ。」
フェイズがセリカの肩に手を置く。
「ところで…………なんだ、仮面でもなくしたか?」
「う、うん。」
「皆復興作業だ、ここには俺しかいない。」
「そうだけど…………。」
リリノアは仮面を無くし、セリカが来るまで物陰に隠れていた。
それを見つけたセリカが背後から胸を揉み、かなり情けない悲鳴をあげたのだ。
と、セリカがフェイズに背を向けリリノアに向き合う。
「んんっ?!」
突然口づけをした。
リリノアは顔を真っ赤にして引き剥がす
「ばっ、何するのよ!?」
「なんかしてほしそうな気がして。」
「キャプテンがいるのよ?!我慢しなさい!!」
「それに……」
「美人なリリノアの顔が見たかったし。」
「へ…………?あっ、やだぁ!!」
キスをされて顔のガードが完全に無くなっていた。
リリノアがあわてて顔を隠す。
一瞬見えた瞳は左が青く、右が金色だった。
この世界ではオッドアイは忌み嫌われる。
家族はこんな自分を愛してくれたが、周囲は家族に侮蔑な目を向けているように見えた。
家族に迷惑をかけたくないリリノアは仮面を被り冒険者になった。
自分に手を差し伸べてくれたセリカとフェイズには感謝していた。
セリカは時々意地悪するが。
死霊術は家族に悪さをした人に使うため習得した代物だ。
それを使う日が来ないことを望んではいるが。
「馬鹿っ!セリカの馬鹿っ!!」
「あはは、ごめんごめん。」
リリノアが顔を隠しながら器用に頭突きする。
とはいえセリカは普段からこういうことはしない。
事情を知る人の前でしかやらない。
ただリリノアの悲鳴が聞きたいだけなのだ。
港町ではエミリアの話題で持ちきりだった。
小さき英雄を称える声。
クラーケンに挑んだ英雄…
サハギンを圧倒した猛者…
それと同時に恐れる声。
多くの魔物を惨殺する死神…
人の心を持たない怪物…
彼らは少女の行く末を案じる。
【ブラウェイン王国 シルフの森】
あれからドラゴンはかなり遠い場所まで飛んできた。
幸いにも竜化の瞬間は誰にも見られなかった。
サハギンを一番倒したのは紛れもなくエミリアだ。
エミリアは目立ちたがらない、それを考慮して港町から飛び去った。
いい感じの場所で降り立つ。
するとハンナが尻尾から降りた。
ドラゴンが飛び立つ際、ロープを繋いだ矢を尻尾にうまく絡めたらしい。
エミリアを背中から降ろすとドラゴンは少女の姿に戻った。
……スカートにロープが絡まっていた。
「うぅ~……」
レイラがロープと格闘している間にエミリアを自分の膝に寝かせた。
ここ数日色々なことがありエミリアの身体は限界だった。
更に寝不足なこともあり眠りは深かった。
ハンナはエミリアの髪を撫でて寝顔を満喫した。
レイラは諦めてハンナにロープを切ってもらった。
「お姉ちゃん、ぐっすりだね。」
「うん、疲れてたんだよきっと。」
エミリアはこれまで二人のために沢山動いてくれた。
二人は世話になりっぱなしだった。
ゆっくり休ませてあげよう。
疲弊した小さな死神は深い眠りにつく。
竜と狩人は死神が起きるまでひたすら見守った。
眠りから覚めたら再び死を振り撒く未来がやってくるだろう。
それでも私たちはついていく。
どんな日が来ようとも見捨てたりはしない。
自分たちが死ぬか、見捨てられるその日まで…………
そういえばレイラとハンナはエミリアより年上でした。




