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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
参―見守る者―
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死神少女と二つの巨影

【ブラウェイン王国 港町スレイル】

エミリアはクラーケンに近づき足に乗った。

意外にも滑らないが弾力で若干不安定だ。


足の感覚は鈍いのかクラーケンはエミリアに気づかず前進している。



エミリアは足を速め顔付近まで一気に近づいた。


さてここからどうしたものか、ロープのような都合の良いものは下がってない。



陸の方からエミリアに離れるような声が聞こえるが無視した。

クラーケンを掴んで登ろうとしたが濡れていてうまく掴めない。





そうだ、前に読んだ本に書かれていたことを試してみよう。

これは岩盤でも氷でもないからいけるだろう。


エミリアはナイフを二本取り出すとクラーケンの顔に突き刺した。


クラーケンが痛みに驚いて動きを止めた。


エミリアは次々にナイフを突き刺し登り始めた。

ナイフはうまいこと刺さり即席の足場として機能した。


クラーケンが暴れ始める。

エミリアを振り落とそうと身体を激しく揺らし、足を振り回し始めた。

落とされまいとエミリアは突き刺したナイフに力を込めた。


と、足の一本がエミリア目掛けて叩きつけられた。

誰のものかわからない悲鳴が港町からあがる。




だがエミリアはまだナイフを掴んでいた。

衝撃で下がり、クラーケンに切り傷ができあがった。














気が気でなかった。

エミリアは一人で巨大な魔物に立ち向かっていた。

無謀とも思える挑戦、しかしそれをやってのけるほどの度胸があった。


彼女は間違いなく少女にとって英雄だった。

自分を助けてくれたその時から彼女のために命を捧げる覚悟はできていた。

そしてそれを彼女は望まないことも知っている。

自分がここにいる人に何者か知られたら一緒にはいられないかもしれない。

それを恐れて少女は動けないでいた。



エミリアがクラーケンの頂上付近に来たとき、待ち構えていたサハギンチーフがエミリアを突き飛ばした。









少女はただ夢中になってクラーケンへ向かい走り出し、そして飛んだ。





















頂上付近で待ち構えていたサハギンチーフは待っていたと言わんばかりにエミリア目掛けてトライデントを突いてきた。

足場がほとんどない場所でエミリアはかろうじて避けるがそれが精一杯だった。


焦れたサハギンチーフはエミリアではなく、彼女がぶら下がっているナイフ目掛けてトライデントを突いた。

エミリアは突かれたトライデントを掴みそのままよじ登りら。


「あ、ダメだ。」


気づいた時、エミリアはサハギンチーフの水鉄砲を顔面に受けた。

サハギンの水鉄砲は威力自体はかなり低い。

本当に恐ろしいのは吐かれた液体の粘性だ。


一度付着したねばねばは乾燥しないとなかなか取れない。


それを顔に受けたエミリアは視界を奪われ、思わず手を離した。



落下する感覚しかわからない。


方向的に海かクラーケンの足に落ちるだろう。

海に落ちたら骨の二、三本は覚悟をするべきか。

こんな状況で治療費のことを考え始めた。











やがてエミリアはごつごつとした場所に背中から落ちた。

思っていた感覚と違う、海でもなくクラーケンの足ではない。

そして感じる強い風、浮遊感。



久しぶりに触った暖かい感じから、エミリアは何に落ちたのかすぐ理解した。

エミリアはそれに顔を付けて粘液を拭き取った。

部分的に高温になったそれは粘液を溶かし、エミリアは視界を取り戻した。


エミリアは空を飛んでいる。






「ありがとうね。」


エミリアは撫でながらお礼を言うと唸り声が帰ってきた。













港は再び騒然とした。


クラーケンから落ちたエミリアを巨大な飛行物体が拐った。

そしてその巨影はクラーケンの側に降り立つと凄まじい咆哮をあげた。


「ドラゴンだ!!」

「なんてこった、クラーケン以上にやばいのが来たぞ!!」

「ありゃ、フレイムドラゴンだぞ………おい!ドラゴンスレイヤーはいないのか!?」


大量のサハギンやクラーケンに手を焼いているところにドラゴンまで現れたのだ。


「倉庫に予備の大砲があったはずだ、急げ!!」


二つの巨影が港に現れ、対峙した。


先に動いたのはフレイムドラゴン、クラーケンに向かい低空飛行で突っ込む。


港に乗り上げたクラーケンを押し退け、海へ放り込んだ。

ドラゴンは港町には目もくれずクラーケンに再び接近した。



「……様子がおかしい。ドラゴンの奴、クラーケンを狙ってるのか?」

「ドラゴンが……俺たちを助けている?」

「そんなバカな?!」

「デカブツは放っておけ!残りのサハギンを殲滅だ!」



港の海賊、冒険者たちは再び奮起した。

サハギンは徐々に数を減らしていった。



「あんなにちっちゃいのがでっかいのになるんだ。レイラって凄いなぁ。」


一部始終を見たハンナは見た目で判断するのはやめることにした。


「しばらく魚肉は控えようかな、思い出しちゃう。」


先程エミリアに踏み潰されたサハギンをちらりと見て殲滅作戦を継続した。









ドラゴンがクラーケンを掴みあげた。

巨大な足を叩きつけるがドラゴンはびくともしない。


エミリアはこの間にクラーケンに飛び移った。

サハギンチーフはエミリアにトライデントを突き刺そうと躍起になった。


揺れ動く足場でうまいこと戦う少女と魔物。


ドラゴンはクラーケンを仕留めず、迫り来る足を爪で少しずつ切断していた。


足が半分以下になってクラーケンはドラゴンにしがみつく。

そして至近距離でイカスミを放った。

ドラゴンは一瞬怯みクラーケンを離してしまう。




突然の浮遊感に襲われエミリアとサハギンチーフは海に落ちた。



エミリアはプレートナイフを構えて目を閉じた。

あいつは海の中にいる。

選択を間違えたら自分は死ぬ。

レイラが頑張ってくれたのだから必ず止めをさす。






殺気。


振り向きプレートナイフで受ける。


「じゃあね。」


サハギンチーフの喉にナイフを突き刺す。

魔物の悲鳴があがる。

エミリアはサハギンチーフの腕を掴み引き寄せる。

ヒレが少しあたり指から血が出てしまうが気にしない。


突き刺さったナイフを抜き、もう一度刺す。

左右にナイフを動かし傷口を広げた。


エミリアは宿で読んだ本に書いてあったことを覚えていた。


サハギンは乾燥に弱い。



じゃあ炙ってしまおうか。


「レイラ。」


クラーケンを肉塊にしていた赤いドラゴンは小声にも関わらず反応しエミリアを見る。


「燃えるゴミ、お願い。」


淡々と処刑法を伝えた。














ドラゴンはクラーケンとサハギンチーフを海の藻屑にするとそのまま飛び去り姿を消した。

便宜上、竜化したレイラは『ドラゴン』『フレイムドラゴン』と呼んでいます。

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