死神少女と海賊
【ブラウェイン王国 港町スレイル】
ハンナに叩き起こされ不貞寝したエミリアが再起動するのに二時間かかった。
その間ほっぺたを弄くり回されたのは覚えていない。
昨日良さそうな喫茶店を見つけたので行ってみることにした。
気に入るパンはあるだろうか。
「あ、昨日の子達だ!おーい!!」
「………う゛っ。」
昨日の赤いビキニアーマーが声をかけてきた。どうやら目をつけられたらしい。
セミロングの緑髪に赤い瞳は何となく活発な印象に見える、悪い人ではなさそうだがその格好のせいでエミリアは苦手意識を持ってしまっていた。
後ろには紺のフード付きローブを纏ったなんとも言えない幾何学的模様が描かれた仮面が佇んでいた。
見た目の情報量が多すぎる。
「セリカ、怯えてるじゃない。」
「あぁごめんごめん。昨日から気になっちゃってさ。」
幾何学仮面は声から察するに女性のようだ。
腕を組み相方を注意。
「あたしは冒険者のセリカ。こっちは連れの」
「リリノアよ。……これは気にしないで、顔を見られるのが苦手なだけだから。」
色々と訳ありのようだが深くは聞かないことにする。
お互い自己紹介をしたところで
「これからあの喫茶店でご飯食べるんだけど、そこでお話しましょ?」
ちょうどエミリア達が行こうとしていた場所だった。
断る理由もないし一緒に行くことにした。
後ろ姿も目のやり場に困るので幾何学仮面………リリノアの背中だけをみることにした。
「じゃあ貴女達三人で旅してるんだ?」
「うん。」
クロワッサンを食べながらエミリアは答える。
向かいのセリカは魚介のスパゲッティ、リリノアは仮面の下から器用にアップルパイを食べている。
……どうしても顔はNGらしい。
「立派だけど危険じゃない?最近人攫いが多発してるでしょ?」
「大丈夫、私はまぁまぁ強いから。」
「微妙な自信ね。」
レイラはロールパンを栗鼠のように少しずつ食べている。
「どこから来たの?」
「んー…ガンダル村。」
「うっそ!?あんな場所から!?」
少し悩んだがエミリアはレイラと出会った場所からやってきたことにした。
間違ってはいないはず。
ハンナはブラックピッグのバラ肉を食べていた。
……朝から重そうなチョイスだ。
「ガンダルからここまで結構あるわよ?あれかな、王都の聖なる祭典に行くの?」
「そんなところかな。」
「……開催一週間くらい前からあそこは人混みで凄いわよ。」
いつの間にかアップルパイを食べ終わったリリノアも話に参加する。
最後に運ばれたのに一番早く食べ終わっていた。
顔を晒さないよう器用に仮面の下から口元を手拭いで吹いている。
……仮面には穴が見えないがよく前が見えるものだ。
談笑?していると賑やかな団体がやってきた。
格好からして海賊だった。一人は黒い海賊帽子をしてるからきっと船長かなにかだろうか。
船長風味の男がやってきた。
「なんだセリカいたのか。」
「珍しいじゃん今日はこっちでご飯?」
「気分なだけだ。」
どうやら知り合いのようだ。
リリノアは軽く会釈した。
「こっちの子供は?」
「町で見かけたから一緒にご飯。ガンダルから来たんだって。」
「ふん?ずいぶん遠くから来たな。」
船長風味がエミリアをじっと見つめた。
「キャプテンのフェイズという者だ。騒ぎを起こさなければ自由にしても構わない。」
そういうと海賊が確保していた席に向かった。
「愛想は悪いけど悪人ってわけじゃないからね。悪人顔だけど。」
「一言余計だセリカ。」
喫茶店を後にしたエミリア達はセリカ達に町を案内してもらった。
キクス並に広く、昨日だけでは回りきれなかったのだ。
「あの顔つき…………まさかとは思うがあいつの?」
【聖都ラ・ブランダス】
聖都。
勇者が邪神を封じたとされる地。
邪神の復活を妨げるべく日々僧侶や神官が封印の結界を維持している。
中でも『聖女』と呼ばれる女神から祝福を受けた存在は別格で、彼女がいなければ封印の維持はできないとされている。
今代の聖女は若年ながら最も力が強く、邪神封印の結界は更に強力な物へと進化させた。
「毎度思うのですが別に私でなくとも問題ないのでは?」
「そう仰らないでください、気持ちはわかりますが。」
聖都の中心部に存在する巨大な建造物、大聖堂の一室に聖女と大神官は話していた。
大神官は白の法衣を着た黒い短髪、黒目の男性。
この大聖堂で聖女と話を許される数少ない一人だ。
聖女は薄い青フード付き法衣に身を包んでいた。
顔は白いベールで覆われ見ることができないが声は幼く感じる。
「女神様も別に許してくれると思います。わざわざ王都へ行かず孤児たちのお世話した方が国のためになります。」
「しかし殿下は聖女様の存在が感じ取れますよ。」
「はぁ………面倒ですねぇ。」
毎年祭典が近づくと必ず行われるやりとりだ。
聖女は行きたくないが王子がごねるのだ。
「今度神託として聖女を呼ぶなとでも伝えましょうかね。」
「絶対に嘘だとバレますよ。」
この聖女、力は強く民からも慕われているのだが王族貴族と絡むことを嫌がるのだ。
大神官としては彼女の境遇を知っているため強くは反対しない。たまが拒否できない相手でもあるため板挟みになっている。
結局聖女自身が折れるしかないのだ。
「祭典の台詞はいつもどおり考えておいてください。どうせ詳しく聴いている輩などいませんよ。」
聖女はそう言うと部屋に戻っていった。
聖女は自室に戻るとフードとベールを外した。
綺麗な長い金髪が靡き、金色の瞳を持つ幼い顔つきが露になる。
聖女はベッドに倒れこむと写真立てを手に取る。
幼い日に撮影された色褪せることのない写真。
親友とその妹と撮った大切な思い出。
「エミリア、ナタリー。元気でいますか?」
聖女クリスティアナ…………今日も彼女は女神に願う。
親友にまたいつか会えるその日がくることを。




