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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾肆―静かな聖戦―
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伝説の正体不明

【ベルセイン帝国 幻影屋敷】

「「レギオンっ………」」


アンからその名を聞いたクリスティアナとナタリーの表情が変わった。


「クリス、ナタリー。知ってるの?」

「えぇ。教典でしか記されてない存在です。」

「詳しくは知りませんが、勇者ユウキを最も苦しめた何からしいですわ。」





かつて邪神がこの地に現れた時、勇者ユウキが決戦前に対峙した正体不明の存在。

邪神が『レギオン』と呼ぶそれは単体で一軍団分の力を持つとされ、それ故勇者ユウキを苦しめた数少ない一体と呼ばれている。


レギオンに関する詳細は一切分かっていない。同行した大魔導師アネットと大神官フルールは旅の手記を残していたがレギオンに関する事柄のみ記述されていない。


後世に知られてはいけない、秘匿すべきだと二人が判断したのだろうか。






「勇者は辛くもレギオンを倒した。そして呼び出した邪神も封印され全て解決。世間ではそうなってるけど物語には続きがあるの。」


アンの左手が薄く光ると分厚い本を持っていた。


「魔界でレギオン召喚の魔導書が見つかったの。」

「レギオン召喚ですって!?」


ナタリーが叫び、クリスティアナがひゅっと息を吸った。


「魔界には物好きな連中が沢山いるの。今回はその物好きが偶然にも禁忌の召喚陣を再現してしまった事故のようなもの。」


その物好きの現在地はケルベロスの胃袋である。


「しかも何の因果か召喚陣を載せた魔導書がこの世界に転移してしまったの。魔導書自体は回収できたわ、それがこれ。」


アンの小さな左手に納まるのは例の禁忌の魔導書だった。


「ただ…………魔導書は既に使われてた。」

「まさか………」



「そう。この世界にレギオンがいる。」





勇者ユウキを圧倒したレギオン。

それが既に世に放たれていたのだ。


「私は魔王デスロード様からレギオン召喚の魔導書の回収を命じられて人間界にやって来た。でもまさかレギオンを召喚する馬鹿がいるとは思わないじゃない?だから予定を変えて各地を転々とした。そして最終的にこの町に絞り込んだ。」

「レギオンがこの町にいるということですか?」

「そういうこと。だからレギオンをどうにかするまでは町からは出て行けないの。ここの人間が不気味がる気持ちはわかるけど。」





それからレギオンに関する話をしていると空が明るくなってきた。いつの間にか日の出を迎えていたのだ。


「時間はあっという間に過ぎるのね。間もなく屋敷は朝日と共に消える、町に戻った方がいいわ。」

「あの、最後に一つだけ。」

「何かしら?」


「どうして朝になると屋敷は消えるのですか?」


クリスティアナはずっと気になってることを聞いた。するとアンはくすりと笑う。






「だって、その方がかっこいいじゃない。」


実にくだらない理由だった。














【ベルセイン帝国 巨大湖の町レキノ】

日の出を迎えた町は再び活気が戻る。

だが一夜を徹夜した一行は朝から寝るという昼夜逆転の生活を取らざるを得なかった。宿屋のおばさんは不思議な顔をしながらも少女達に部屋を用意してくれた。



一行が起きたのは夕方だ。エミリアは例の如く寝ぼけた状態だが一度町長に報告するべきだろうと屋敷にやってきた。


「なるほど。つまりその吸血鬼さんはレギオンとかいう化け物を探しにやって来たわけか。」

「そうです。何か心当たりとかありませんか?」

「うーん………」


タックは考え込む。レギオンは古い文献にしか書かれていない、正体も分かっていない存在だ。心当たりも何もないだろう。


「すまん、俺には見当が付かん。」


予想通りの返答が来た。









結局レギオンに関しての情報は得られなかった。だがタックも独自に調査をしてくれるそうだ。


アン達の事はまだ住民には伏せることになった。吸血鬼が居るとなるとブルクス教団が黙ってないからだ。余計な騒動を引き起こしかねない。




「あら?貴女ナタリーさんでなくて?」


屋敷の門に来た辺りで貴族令嬢らしい人が話しかけてきた。金髪縦ロールに嫌でも目立つ赤いドレスはまさにお嬢様な見た目だ。後ろには付き人らしい女性、女性騎士と侍女が二人控えている。


「お久しぶりですわ、アンジェリーナ様。」

「知り合い?」

「学生時代のお友達ですわ、お姉様。」


ナタリーは魔法学園に居た頃にいじめを受けていた。アンジェリーナ・モルテン侯爵令嬢はいじめに加担しない数少ない一人でナタリーの心の支えになっていた。



「お噂は聞いてますわ、帝国一の冒険者パーティーとは大出世ですわ。」

「アンジェリーナ様にそう言っていただけると嬉しいですわ。」


片や本物のお嬢様、片やお嬢様っぽい口調の平民という奇妙な会話が続く。


「わたくし、そんなナタリーさんに憧れまして冒険者になりましたの!」

「えっ?!アンジェリーナ様が?!」


貴族が冒険者になるのは帝国では珍しい事ではないのだが、アンジェリーナは侯爵令嬢と高位貴族なので簡単になれるものではないのだ。


だが父親であるモルテン侯爵は娘の熱意に負け、条件付きで冒険者活動を許した。


『三年で成果を出せ』


具体的な事は言われてないが、沢山活躍しろと言うことだった。仮にも貴族だから平民連中に後れを取るのは許されない。実力主義の帝国では生き残るにはとにかく成果を出すのが第一だ。



「そうですわ!わたくし『名乗り』も考えましたの!」

「名乗り?」

「アズマのブシドーセーシンによると戦う前や挨拶の時に『名乗り』をするのが礼儀らしいですわ。」


どうやら変な知識を入れ込んでしまったらしい。


するとアンジェリーナは待機していた付き人二名を自分の前に立たせた。



「天才魔導師アンジェリーナ!」


口元に手を添えお嬢様ポーズ。


「護衛騎士のポーラ。」


剣を突き立て仁王立ちの銀髪の騎士。


「侍女のタバサです。」


いつの間にか持っていたナイフを両手に一回転してお辞儀する黒髪の侍女。






「「「三人揃って『アンポンタン』!!」」」


何処かで吹き出す声がした。

美人のお姉さんや美少女が真面目な顔してトンチキな行動や発言するの大好きです。

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