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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾参 ―黒き神の子―
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邪教団との死闘

【砂漠の町ゴドゴゴ】

突然鳴り響いた聞き慣れない銃声に全員が思わず手を止めた。


見慣れぬ緑の和服の女性………明日香と呼ばれた人物が長い筒、火縄銃でチャクラムを撃ち落とした。


「…皆こっちを見てますね。火縄の装弾は時間がかかりますし、その間に襲われたら一溜まりもありませんねぇ。」


顔を青くしながら銃口に棒を突っ込み装弾作業をし、再び射撃体勢に入る。


ドキューーン!!


火縄銃の射程は約100mとされているが、明日香の射撃技術かこの世界の火縄銃の出来が良いのか300mは離れている黒ローブの眉間を撃ち抜いた。

新たな脅威と判断したらしい黒ローブの一部が狙撃手に向かった。


敵が迫っているというのに明日香はその場で装弾作業をして射撃体勢に入る。


ドキューーン!!


銃弾が貫通したらしく、黒ローブが二人並んで絶命した。


いよいよ明日香の真下に黒ローブが迫った時である。

明日香を飛び越えるように三つの影が飛び出し、



ズドォォーン!!


その内の一人、アズマの巫女桃江が薙刀を叩きつけて黒ローブの集団を吹き飛ばした。


「情けは無用、狼藉者を討ちエミリアちゃん達を助けます。」


桃江がそう言うと背後から青い着物のサムライと、猿を模した面を付けた黒装束のニンジャが現れた。


里見(さとみ)乃々(のの)。参りましょう。」


「我等はご主人に従う。」


「にん。」


里見と呼ばれたサムライ、乃々と呼ばれたニンジャが走り出し黒ローブを各々のやり方で排除し始めた。


「明日香、銃弾は?」


「えと……あと二十発です。」


「あの娘達の危険を優先して対応を。可能であれば隊長格の撃破をお願いします。」


「がっ、頑張ります!」


明日香に指示を伝えた桃江は懐から能面を取り出し顔に付けた。


「少々手荒になりますが、お覚悟を。」


桃江の身体が青く光った。






「あれは、桃江様?!」


砂漠に似つかわしくない巫女装束で直ぐに知り合いだと分かった。


「ギルドマスターが密かに付けてくれたのでしょう、心強い助っ人です!」



身体を青く光らせた桃江は舞うように黒ローブを倒していった。

アズマ製の薙刀は人間が作ったとは思えない代物で複数の人間の骨を容易く切断した。

斬る度に刀身が青白く光り、桃江を纏う青も強くなっていく。身体強化の一種なのかもしれない。


里見と呼ばれたサムライはギリギリまで黒ローブを引きつけると目にも止まらぬ速度で刀を振り回すとそっと鞘に刀を納める。

直後、里見と対峙していた黒ローブ達が血飛沫をあげて倒れた。


「……くだらんものを斬った。」



乃々と呼ばれた猿面のニンジャは腕を組んだまま黒ローブに囲まれていた。

少しずつ距離を詰める黒ローブに一切動じてないのか全く動く気配がない。


やがて黒ローブの一人が毒ナイフ片手に襲いかかる。

その瞬間、乃々は高く飛ぶと突っ込んで来た黒ローブの真上で半回転し頭をグリンッと捻り着地。首が真後ろに向かされた黒ローブは何が起きたが分からず絶命した。


黒ローブの集団がチャクラムを取り出すと乃々は何かを呟いた。

すると乃々の背後からもう一人、いや十数人の同じ姿の分身が現れた。


「にん。」


人数差が同じくらいになった黒ローブに分身と共に襲いかかる。

ある者は刀で、ある者は体術で、またある者は忍術で燃やされ絶命していった。


桃江達が黒ローブを始末したことで明日香も射撃に専念する。


今度は思い切って大将首を狙ってみる。


ドキューーン!!


射程ギリギリの弾丸は曲線を描いてグラズの脳天を目指す。


が、見えない壁に防がれた。


「やっ、やっぱり簡単にはいきませんよね……」




「えぇいこれだけの人数が居ながら制圧できんとは!!」


グラズは押されつつある戦場に苛立っていた。

これでは折角砂漠の主を連れてきた意味が無くなる。


「忌々しいあの障壁を打ち壊せ!それで聖女は無力化できる!」




多数の魔法や飛び道具を防いでいたクリスティアナの障壁は限界近かった。


「……っ。」


「クリスティアナ様、障壁は消しましょう。貴女が倒れてはなりません。」


「……申し訳ありません。」


クリスティアナの展開していた障壁が消えていく。

そして完全に消え去ると黒ローブは無防備なクリスティアナに襲いかかる。


ギィン。


「お前らの相手は俺だ。」


クリスティアナを襲う刃を身体で受け止めたのはラバダだ。そして大剣で黒ローブをまとめて始末した。


「ラバダ!」


「怪我は無いか?」


「私は大丈夫です、しかしエミリアが!」


そう言われラバダは戦場の真ん中で未だ気を失うエミリアに視線を向けた。


「状況はわかった、だが数が多いな。」


いかにラバダが鉄壁の守りを持っていようと限度はある。魔導師もいるとなると厄介だ。

無理矢理エミリアを担いで来るにしてもグラズが何をしてくるか分からない。

桃江達によって黒ローブの一部が気を取られているものの、数的不利は変わっていない。


「私は構いません、彼等の排除を優先してください。」


「承知した。」


クリスティアナの命令を受けラバダが黒ローブに挑む。


ラバダはまず魔導師から片付けることにした。

フレイムドラゴンに冷気魔法を放つ集団にズンズン近づくと大剣で一掃した。

これでフレイムドラゴンへの脅威は消えた。

さっきから大量のチャクラムが当たっているが軽く弾かれるだけでラバダを止めることはできなかった。


「グォォ………」


冷気魔法が止んだ時フレイムドラゴンは弱々しく唸った。

長時間冷気魔法に晒されたドラゴンは大きなダメージを受けていた。


クリスティアナの元へ後退すると人型に戻った。


「レイラちゃん!!」


「ごめんなさい……私、役に立てなかった。」


寒そうに身体を震わせるレイラをクリスティアナは抱きしめ、回復魔法を使った。

致命傷とまで行かないが、この様子ではしばらく動けないだろう。


「もうレイラに無理はさせられない、直接あいつらを仕留めるよ。」


「しかしハンナさん、ここには隠れ場所がありません。」


クロスボウを使うハンナの戦いには遮蔽物が不可欠だ。

遮蔽物がない場合は先程のようにフレイムドラゴンの頭上で陣取るのがセオリーとなっていた。


「危険かもだけど、少しでもあいつら減らさないとエミリアを助けられない。」


「ならば拙者も奴等を引き受けようぞ。」


ラバダとは違う男声。

クリスティアナ達の背後には意外な人物、大柄な体格に全く見合わない着物のミノタウロス、猛一郎だった。


「貴方は確か……エミリアと戦った?」


「目が覚めて闘技場から去ろうとしたら騒ぎが聞こえた故、ここにやってきた。」


「エミリアと殺し合ってたのに助けてくれるの?」


「一度刃を交えた戦友(とも)の危機ぞ。それ以外に理由はあるまい。」


独特な言い回しはよく分からないが、決勝でエミリアと死闘を演じた猛一郎の強さは間違いない。


「拙者が露払いいたす、戦友(とも)の救助はまかせた。」







数的優位のアサシンと魔導師が次々とやられていく状況にグラズは苛立っていた。

フレイムドラゴンにダメージを与えたものの、アズマの連中が参戦してから形成逆転されつつあった。


こうなったら仕方が無い、これ以上戦力は出せない。


幸い奴らは教団の兵士に気を取られている。

邪魔は入らないだろう。





ふと、先程まで倒れていたエミリアがいないことに気づいた。









気絶していた少女の身体をルールーは無理矢理動かしていた。

キングとの戦いで血を流しすぎたエミリアの意識は深く眠っていた。

普通なら死んでも可笑しくない重傷だ、ルールーが取り憑いても身動きが取れなかった程である。


何とか黒ローブの集団がエミリアから目を離した隙を見てその場から離れることにした。

この怪我では真面に戦うこともできないだろう。


「エミリア、こちらへ」


「何処へ行くのですか?」


「ぐっ?!」


クリスティアナの手を取る前にグラズがエミリアの髪を掴んで持ち上げた。


「お姉様から離れろ!!」


ナタリーが氷柱を飛ばしてくる。


「やってみなさい。」


「っ?!」


グラズはエミリアを盾にした。

氷柱はエミリアに当たる直前で軌道を変え、黒ローブに突き刺さった。


「最初から私が動くべきでした、無駄に兵士を失ってしまいましたがいいでしょう。」


グラズの足元に魔法陣が出現した。


「転移魔法陣ですわ!」


「そうはさせん!」


異常に気づいたラバダがグラズに斬りかかる。

障壁で防がれるがラバダは魔法陣の内側に入った。

転移魔法陣は長距離の移動に便利だが発動に時間がかかること、範囲内のあらゆる物を一緒に転移させてしまう弱点がある。

ナタリーはラバダが踏ん張っている間に転移魔法陣に干渉を始めた。転移先を弄って妨害するつもりのようだ。


「こざかしい真似を!」


グラズが手をかざすと強い衝撃波が放たれた。


「ぬっ?!」


重騎士のラバダですら大きく弾かれた。


「ちょっ……ぐぇ?!」


バランスを崩したラバダがナタリーを下敷きにした。これによりナタリーの妨害が無くなってしまう。



グラズはエミリアの首根っこを掴むとじっと顔を見つめた。そして魔力を込めて胸を強く叩いた。


「うっ!?」


瞬間、エミリアに憑いていたルールーが引き剥がされた。グラズは精霊の気配を感じ取っていた。


「では諸君、記念すべき瞬間を見せられないのは残念だが私は行かせてもらおう。」


そう言うとグラズはエミリアを抱えたまま姿を消した。





「あぁ………そんな…………」


目の前で姉を連れて行かれたナタリーは、ただ力無く呟くことしか出来なかった。

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