狩人少女は凶鳥に挑む
【砂漠の町ゴドゴゴ】
町の闘技場に突如現れた魔物の群れ、それに加え砂漠の主とも呼べる魔物ズーまで現れた。
ズーのつんざくような雄叫びに恐怖心を煽られた住民達はパニックを起こし、逃げるのに夢中になり別の魔物の犠牲になっていた。
「ハンナ様、あれはどの位で仕留められますの?」
「私なら二日はかかる。今は撃退で精一杯かな。」
魔物狩猟の専門家が言うほどの相手だ、まともに戦っていい存在ではなかった。
それにあんなのを倒す必要はない、今はエミリアの救助が先決だ。
「私が引きつける。その間にエミリアをお願い。」
「気をつけて下さい。」
ハンナは片手だけ上げるとズーへ走って行った。
向かってくるハンナに気づいたズーが大きく羽ばたき、勢いのまま嘴を突き刺す。
地面を簡単に抉る嘴を難なく躱して数発クロスボウで応戦。顔付近に命中しズーの標的がハンナに絞られた。
ズーの猛攻を凌ぎつつハンナはずっと隙を窺っていた。
この巨鳥を退散させるには幾つか手段はあった。
一つは満足いくまで食事をさせること。
町中におびき寄せれば食糧はいくらでもある。意外にも巨体の割りに食が細いので砂漠の民が飢餓に襲われることはない。
デメリットとしてズーが餌場と認識してしまう危険性がある。
もう一つは二度と来たくないくらいのトラウマを与えること。
大抵の魔物は顔に急な刺激を与えれば逃げるが今回は相手が相手だ。失敗はできない。
ズーの攻撃手段は見た目通り嘴で地面ごと抉り、足爪で切り裂き、一瞬羽ばたいて風圧で怯ませる。
大抵の鳥型生物に当てはまる行動だが、圧倒的な巨体に耳をつんざく雄叫び、更に翼爪と呼ばれる翼の突起で腕のように殴りつけてくる。
翼爪は竜種に備わっていることが多いため一時期はドラゴン扱いされていたらしい。
ズーが首を震わせ雄叫びを上げた。
「今!!」
懐から袋を取り出しズーの嘴目がけて投げつけた。
「キエェェェゲヘェッ?!」
雄叫びの最中に喉に異物が入り咽せた。
「ギャァァァァ!!」
口内に広がる刺激に我慢できず暴れ出した。
ハンナが投げたのは赤煙玉と呼ばれる物で、唐辛子の成分が混じったそれは効果範囲内の標的に地獄のような刺激を与え続ける。
これには堪らなかったのかズーは大きく羽ばたくと飛び去ってしまった。
一先ずこっちの用事は済んだ。
徐にハンナがクロスボウを構えた先には未だ倒れるエミリアを挟んでナタリー達と、知らないローブの集団が対峙していた。




