死神少女は部族長を訪ねる
【砂漠の町ゴドゴゴ】
翌日、安宿を出たエミリア達は遺跡に関する情報を集めることにした。
昨晩の静けさが嘘のように人が賑わっていた。
昼食はゴドゴゴ特有のスパイスで味付けられた『カリー』と呼ばれる物だ。
暑い中で食べる絶妙な辛さのカリーは癖になるらしい。ハンナとレイラは三回くらいおかわりしていた。どこにそんな量が入るのだろうか。やはり胸なのか?もげちまえばいい。
カリーはそのまま食べても良いが『ナン』と呼ばれるパンに付けて食べるか、アズマの『コメ』と一緒に食べると更に美味しいらしい。
エミリアはカリー入りのパン『カリーパン』を食べた。
辛いのが苦手なエミリアには丁度良かった。
本来の目的である遺跡の情報収集は思うようにいかない。
砂漠は広く、単に遺跡と言われても遺跡自体無数に散らばっており特定は難しかった。
「むぅ………。」
「申し訳ありません、こんな事に付き合わせてしまい。」
「クリスは悪くない、やるって決めたことだし。」
夢で見た遺跡はほとんどの遺跡に言えるくらい平凡な見た目をしていた。
岩場に囲まれているのが恐らくポイントなのだろうが残念ながら特定には至らない。
砂漠の事に詳しそうな人、部族長の家にやってきた。
他の家より大きいから直ぐに場所はわかった。
門の前には色黒の屈強な男が三人立っている。
多分真ん中が門番の隊長か何かだろう。
「我ら砂漠の民の部族長に何の用か。」
「急な訪問申し訳ありません、部族長様とお話がしたいのです。」
門番とクリスティアナがやり取りを始めた。
隊長らしき男は真面目そうだが左右の門番はクリスティアナの全身をじっくり観察していた。
その後エミリア達を眺めながら嫌な笑みを浮かべていた。
「っ。」
視線に気づき怯えたレイラを隠すようにエミリアが威嚇代わりにグリムリーパーを構える。
何時でも三人は殺せる体勢に入った。
しばらくすると門番達が門を開けたのでクリスティアナに続いてエミリア達も入った。
勿論警戒は解かない。
あの笑みには何かあるはずだ。
家の中は貴族屋敷と変わらない豪勢な作りになっていた。
権力者が住む家は大体そうだ。
奥の大きな扉からオーク並の巨大が姿を現した。
「門番が失礼した。俺が砂漠の民の部族長『セルジオ・ラダラール』だ。」
色黒で太り気味でデカい、体型は以前処刑したオークに似ていた。
パワーだけはありそうだとエミリアは偏見で部族長とやらを分析した。
「遺跡に関する本なら俺の部屋にある。案内しよう。」
クリスティアナとラバダはセルジオに着いていく。
他の四人は別の部屋に案内された。
「机の上の物はご自由におつまみ下さい。」
召使いの女性はエミリア達を部屋に入れると自分の仕事があるのか部屋から出て行った。
机の上には見たことのないお茶菓子が並んでいた。
豪華な部屋はところどころ光っていてどうも落ち着かない。
何やらお香のような物も置いてあり独特な臭いもする。
「随分趣味の悪い部屋ですこと。帝国貴族だってもう少し良い部屋を用意してますわ。」
文句を言いながらナタリーは椅子に乱暴に座る。
「クリスティアナさんだけ連れて行くってのも何か気になるね。長く居ない方がいい気がする。」
「ここ、あんまり好きじゃない。」
人の家では基本的に黙っているハンナとレイラも何か感じるのか出たがっている。
「クリスを置いていけない。でも私も何か嫌な感じがする。」
気配から察するにクリスティアナとラバダは真上にいるようだ。同じ部屋に部族長と数名がいるらしい。
「考えすぎても仕方ありませんわね。今はクリスティアナ様を待つしかできませんわ。」
行儀悪く足を組むと懐から魔導書らしき本を取り出した。この町へ来る時に使った冷気魔法の改良を今からやるようだ。
ハンナもクロスボウの部品を弄りだした。
「クッキーと………ジュース?」
「見たことない色してる。」
暇潰しのできないエミリアとレイラはお茶菓子を堪能することにした。
ゴドゴゴのお茶菓子は初めて見る形状で興味深そうに眺める。
お腹は空いていないが暑さに慣れてないエミリアは喉が渇いていた。
「んぇっ、ちょっとしょっぱい。」
「まぁ何て物を出すのでしょう。一人くらい凍りづけにしなければいけませんわ。」
予想外の味に顔をしかめたエミリアとレイラにナタリーが召使いに抗議しようと席を立つ。
その瞬間ナタリーが突然倒れた。
「ナタリー?!」
ナタリーを起こそう椅子から降りたエミリアもバランスを崩した。
強烈な眠気が襲いかかった。
レイラとハンナは机に顔を伏せて眠っている。
既に部屋の外に自分達以外の気配が集まっていた。
「クリス………」
階下での出来事を知らないクリスティアナはセルジオが持ってきた遺跡の資料に目を通していた。
時折セルジオも助言を出しながら彼女に協力した。
「ここです………夢で見た物とそっくり。」
クリスティアナが目を止めたページの遺跡。
過去の事故により調査が進んでいない『グシュ遺跡』だった。
町からはそんなに離れていない場所にある。
「ところでクリスティアナ殿。」
一通り調べ上げたところでセルジオが声をかけた。
「協力の見返りと言っては何ですがお願いがございまして。」
「何でしょう、私が力になれるでしょうか?」
「えぇ。実に深刻な問題があるのです。」
「この町の大闘技場は目にしましたか?」
「遠目ですが人が賑わっていましたね。」
町の中心地に建つコロッセウムは町に入る前から見えていた。
連日派手な闘いで盛り上がり町の端にまで歓声が届くらしい。
「我々砂漠の民の象徴にもなっている大闘技場で問題が起きました。それは戦士達のマンネリ化です!」
大闘技場の参加に制限はない。
しかし元々アクセスの悪いゴドゴゴに態々来るような輩は国に帰れないような後ろ暗い者か砂漠を行き来できる商人くらいで、砂漠の民である彼等と真っ向勝負できる人間がいない。
たまに興味を持った流れの亜人や外国人が参加するも『大闘技場の王者』に敵う者は居なかった。
大闘技場の勝者は最近は固定されつつあるので少しずつ低迷しつつあるのだ。
「事情はわかりました。具体的に何をいたせば?」
「いえ、貴女は何もしなくて構いません。」
「へ?」
ガシャーーン!!
セルジオが机から離れるとクリスティアナとラバダを囲うように檻が落下してきた。
「なっ?!」
「戦士達のやる気を上げるためにもその身を景品として捧げていただきたい。」
机を破壊した檻は入口のような物は見当たらない。
「こんなもの!」
ラバダが檻の無理矢理こじ開けようと試みる。
クリスティアナも色々試してみるが効き目はない。
「あまり抵抗しない方がいい。貴女のお友達が痛い目を見るだけです。」
その言葉にクリスティアナが青くなった。
「エミリア達に………何かしたのですか?」
「今は眠っているが、貴方達次第で痛い目を見るかも知れませんな。」
「そんなっ………。」
その場に崩れ落ちたクリスティアナに選択肢は無かった。
宿屋の主人から話を聞いていたセルジオは早朝から屋敷に大量の罠を仕掛けていた。
五人の少女は奴隷として高価で売れそうだが、彼は大闘技場で未だかつてないイベントを開催することにした。
それは大闘技場史上最多の参加者が集まることになったのだった。




