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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾参 ―黒き神の子―
153/174

死神少女は砂漠の脅威に遭う

【ベルセイン帝国 小さな村リネ】

ギルドマスターに砂漠へ向かう為、しばらく戻れないことを伝えた。エミリアへの指名の依頼は沢山あるが期限の近い物は消化済みだ。


「あの町は危険だ、絶対に一人にならないように。」


とはフローラのたった一つの忠告である。

知らない町、しかも後ろ暗い連中が屯する場所に向かうのは難色を示した。

だが聖女の勘とやらは馬鹿に出来ない。


実質的に他国のような場所なので帝国騎士団は動けない。

だから聖女自ら向かわなければならないのだ。








出発の前にエミリアがハンナを呼び出した。

手に持っているのは行商人から買ったモフモフ耳当て。


「私に?」


「うん、付けてみて。」


言われるがままに耳当てを付けた。

モフモフが耳に触れて心地が良い。


「失礼いたしますわ。」


ドカァァン!!


ナタリーが言った直後に爆発が起きた。

突然のことにクリスティアナは尻餅をついた。



「……どう、ハンナ?」


エミリアに問われたハンナは違和感を感じた。

耳の良すぎるハンナは至近で爆音が生じるとショックで気絶することが多い。


だが今は普通に立っていられた。

それどころか爆発音が小さく感じた。


「凄い………私、立ってられている!」


子供のようにはしゃぐハンナ。

昔からの弱点の一つがようやく克服できたのだ。


「ありがとうエミリア!」


「ひゃあっ!?」


感謝の気持ちかエミリアの薄い胸に顔を擦りつけた。

いつものことだが突然やるので変な反応をしてしまう。

そしてそれを仲間達が見守るのまでが流れだ。




会議室等に使われている『防音魔法』を応用した物をナタリーは耳当てにかけた。

本来は音が漏れるのを防ぐ上位の生活魔法だが、それを『着用者に危害を及ばす爆音を小さくする』ようにした。


彼女の超人的な聴力を阻害せずに爆音をシャットアウトするのは難解な注文だった。

それをやってのけるナタリーは賢者と呼ばれるだけのことはあった。




ハンナの聴力に関してはナタリーも考えていたが、エミリアによって実現できた。


こうやってハンナに擦りよられ声をあげるエミリアを見られるのが何よりの報酬だ。

頑張った甲斐があった。






超小型の撮影魔道具を連射で姉の痴態を撮影していなければ完璧な賢者だった。














【バナス砂漠】

見渡す限りの砂漠。

少女達はまさに砂漠のど真ん中を進んでいた。


最初はフレイムドラゴンで飛んでいたのだが砂嵐に遭ったのだ。

クリスティアナの障壁により被害はないが地上が全く見えなくなり、迷いそうになったので仕方なく歩いて行くことにした。


上空では相変わらず砂嵐が吹き荒れるが地表付近は意外とそうでもない。

とは言え低空飛行なんかしたら砂が舞い上がり視界が遮られてしまうだろう。


エミリア達が歩いてるのは砂漠に作られた道。

町へ向かう人のために道だけは整備されていた。

一本道で迷うことはないが外れたら最後、同じ景色の砂漠を彷徨い続けることになる。





「あっづ………」


砂漠を歩き始めて数十分、エミリアは暑さでダウンしそうだった。

いつものブラウスは半袖だ。

しかし砂漠がため込んだ熱は想像を超えていた。


暑さに無縁なレイラとラバダは平気らしく頻繁にエミリア達を見ていた。


ナタリーが全員に微弱な冷気魔法を絶えずかけててこれである。強すぎるとレイラに影響を与えてしまうため微量な調整が必要だった。

おかげでナタリーは歩くエアコンのような役割をする事になり戦闘に参加できなくなっていた。

今のところ大きな戦闘は起きていないのが幸いだ。



「あっ。」


暑さに耐えられなくなったのかクリスティアナが躓いた。


「少し休むか?」


顔が砂にダイブする直前にラバダが支えた。

重厚な鎧は暑苦しい見た目だが冷気魔法の影響かひんやりしていた。


「あそこの木陰にいこっ……。」






道から少し外れた場所に数本の木が生えていた。

濁った水もあり小さなオアシスのようだ。


流石のエミリアも堪らず日陰で溶けていた。

普段涼しい場所で過ごしているからか反動が大きい。


「一応半分は来たようですわね…」


ナタリーが地図を確認した。

僅かな手懸かりから自分達の居場所を特定したらしい。


「夜までには着きたいよね。」


「えぇ。砂漠で野宿なんて考えたくありません。」


目的地はまだ見えない、夜までに付くとなると少しペースを上げる必要があった。

太陽は少しずつ下がってきている、時間は確実に経っていた。






突然エミリアが立ち上がった。


手にはナイフと逆手の闇剣。




「水に何かいる!」


その瞬間、泥水が盛り上がって黄色い物体が姿を現した。


「凍れ!!」


ナタリーによってそれは瞬時に凍り付いた。


「ふんっ!」


「死ねっ。」


ラバダとエミリアが魔物を叩き割った。




「こんな場所にスライムが?」


砂漠とは無縁であろう魔物の出現にクリスティアナは絶句した。


「イエロースライムだね、オアシスにたまに潜んでるって聞いたけど随分大きかったなぁ。」


暑さにやられたエミリアの探知能力は機能していなかった。

気づくのが遅かったら身体中の水分を奪われていただろう。



「急いだ方がいいですね、あんなのがまだ居るとなると厄介です。」






オアシスから出発したエミリア達だったが再び暑さにやられてペースダウン。


町に着いたのは日の入り直後だった。

名称:イエロースライム

系統:スライム

全長:13m

ランク:B


砂漠のオアシスや稀に浜辺で見つかる大型スライム。

水を求めてやってきた獲物を砂中に潜んで待機し、その場から立ち去ろうとした瞬間に襲いかかり水分を吸収する。

粘液には神経性の麻痺毒が含まれており、一度覆い被されると自力での脱出は不可能。

粘性の強い粘液は刃を通しにくいが冷気に弱いので凍らせてしまえば叩き割ることが出来る。

非常に危険な魔物だが、水辺から離れることができないので手に余るようなら逃げることを推奨する。

ただし雨が降っている場合はどこまでも追いかけてくる。



『魔物生態報告書』 著:アリス・ヘッセンベルク

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