賢者は姉の真似事をする
少女は彼女を崇拝していた。
彼女は少女にできないことを全てやってくれた。
留守にしがちの両親に代わり世話をしてくれた。
いじめられてた少女をたった一人で守ってくれた。
恋に破れた少女を慰めてくれた。
いつしかその感情が愛に変わっていった。
これが悪いことは知っていた。
それと同時に彼女に依存していった。
あの時までは。
エミリアの妹ナタリーは姉探しの旅に出ていた。
将来を約束されたも同然の彼女は、姉のいない人生が考えられないくらいに依存しきっていた。
連れてこられた帝国の魔法学園ではうまくやっていた。
彼女は貴族ではないから、多くの嫌がらせを受けた。時には死を覚悟したこともあった。
だが彼女は乗り越え、遂に帝国一の魔法使いの証である『賢者』の称号を得た。
全ては離れ離れになった愛する姉と再会するために。
【ブラウェイン王国 辺境の村テルカ】
「この人を探しているのだけれど。」
「いんや、見たことねぇなぁ。」
ナタリーは帝国に近い村を訪れていた。
取り敢えずしらみ潰しに探すことにしたのだ。
ちなみに今のナタリーは黒いローブに黒い三角帽子のいかにもな魔女ファッションをしていた。
賢者ナタリーは有名だが王国民に顔は知られていない。
故に服装を変えればたいてい気づかれないのだ。
「悪いなぁ姉ちゃん、こんな子がいたら覚えてるはずなんだ。」
「そう……ありがとうございます。」
帝国の有名な画家に今の姉の姿を想像して描かせた絵を見せて回っている。
昔の話だが姉と自分は髪の長さしか違いがないくらい容姿がそっくりだった。
それをヒントにして描かせた。
賢者様の為ならばと随分張り切ってくれた。
「こういうのどかな村で過ごすのも、悪くないですわね。故郷もたしかこんな感じでしたし…………うふふふ………」
傍から見れば空に頬笑む美女。
しかし脳内では姉との新生活。
外面と内面の差が激しいのがナタリーである。
「子供たちに聞いてみましょう。」
農作業の手伝いの傍ら遊んでいる子供たちがいた。
「こんにちは。」
「こんにちはー。」
あどけない笑顔は幼い頃の姉を思わせる。
にやけるのを我慢しながら聞いてみた。
「この絵の人を探してるの。しらない?」
「んー……あれ、お姉ちゃんかな?」
知っているのか!?
姉が近くにいるのか!!
「お姉ちゃんが僕たちを助けてくれたんだ!」
子供たちによると人攫いの盗賊からたった一人で助けてくれたようだ。
怪我をした件で思わず悲鳴をあげそうだった。
そして盗賊の残酷な処刑…………姉は変わっていなかった。
【ブラウェイン王国 黒の森】
村を出たナタリーは日没したにも関わらず森に入った。
早く姉に会いたい、その思いだけで危険な夜の森を歩いていた。
器用に杖を回していた。別に杖がなくとも魔法は使える。彼女曰く「格好が大事」らしい。
回っていた杖が止まる。
ナタリーの前には柄の悪そうな男が三人。
下品な笑みを浮かべていた。
「綺麗な姉ちゃんだな、痛い目見たくなけりゃついてきな。」
ナイフをナタリーに突きつける。
「まぁ怖い、私はどうなってしまうのかしら。」
「へへへ、悪いようにはしないさ。」
男達はナタリーを囲んで何処かへ連れていった。
数分後、森に二体の氷像が出来上がった。
「あっははははははははは!!」
ナタリーは笑っていた。
目を大きく見開いたその笑いは狂気を感じる。
男は下半身だけ凍らせられ、身動きがとれなかった。
ナタリーは杖で顔を殴る。
「期待外れだわ、やっぱりごろつきじゃ相手にならないわね。」
「頼む…………許してくれ!!」
「だーめ、喧嘩を売ってきたのはそっちよ?決着がつくまで戦うのが帝国流よ?」
言っている間にビンタ。
男の口から血が出る。
「貴方は特別な作品にしてあげる、じゃあね。」
ナタリーは風の刃を男に向けて放つ。
男の体は二つに別れた。
「ふふふ、お姉様ならこうしますよね?」
賢者の処刑は魔法が使える分残虐さが増していた。
ごろつき程度では彼女を止めることは不可能だった。
焚き火の跡を見つけたナタリーはそこでテントを張った。彼女は知らないが以前エミリアが夜営した場所である。
空間魔法で収納していたメロンパンを食べる。
悪くない味だった。
神官のように祈りを捧げつつ眠りにつく。
女神様なんて信じていないが姉に会えるのなら神頼みをしよう。
いつか会える日が来ることを願って…………




