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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾弐 ―嫉妬の果てに―
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死神少女の秘密

半年以上も放置?

【ベルセイン帝国 小さな村リネ】

時刻は真昼、太陽が真上に昇った頃にエミリアは家の裏で短い棒を構えていた。


ナタリーが試行錯誤を重ね『魔力無しでも魔法が使える杖』を作り上げたらしい。

エミリアは早速使おうと無表情で目をキラキラさせた。

魔力無しは自覚しているとはいえ魔法には憧れがあったのだ。


試験用に作られた藁人形にエミリアが杖を向けた。


「念じてくださいませ、お姉様の手に流れ込んでくるのがわかるはずですわ。」

「ん~~っ。」


ナタリーが杖を握るエミリアの手にそっと添えてアドバイスする。

魔法初心者への定型文だがエミリアにはしっかり伝わっていた。





家のキッチンでクリスティアナはホットケーキを焼いていた。

エプロン姿が様になっている彼女は聖女ではなく村人にしか見えない。


「うん、いい出来です。」


今日はハンナとレイラが二人で魔物討伐に向かっている。人数が多いとバレやすい為エミリア達はお留守番だ。

ティア活火山を越えた先の森が目的地なので、そろそろ戻ってくる時間だろう。

ホットケーキは五人分用意できた。

これを特別な障壁で覆えば出来たてのまま鮮度を保つことが出来る。

聖女の力をこんな事に使うのは後にも先にも彼女だけだろう。


ボンッ!!


と庭で爆音がしたのはその時だ。


「今のは!?」


ホットケーキに障壁を展開させ家から飛び出す。




そして彼女が見たのはナタリーを下敷きにして倒れるエミリア。

エミリアが持ってる棒と文字通り尻に敷かれたナタリーを見て大体の事情を悟ったクリスティアナは一先ずエミリアを起こした。


「あまり心配をさせないでください。」


「ごめん。」


爆発により半分消し飛んだ杖を持つエミリアの右手を軽くチェックして怪我が無いことを確認。


「心配しなくとも私はまだ死なないから大丈夫。」


「そうは言いますが………」


自分はまだ死ぬ気は無いからといって何でもしていい訳ではない。

何度も瀕死にはなっているがその度にクリスティアナは泣きながら回復魔法をかけ続ける。

愛する親友の怪我は見たくないのである。




「ホットケーキを焼いたのですが食べますか?」

「食べる。」


色気より食い気を地で行くエミリアは即答した。


「レイラとハンナが戻るのを待ってくださいよ?」

「ん。」


エミリアが家に入るのを見届けるとクリスティアナはナタリーを起こす。


「で、何故魔法なんかを?」


「前からお姉様が魔法を使いたいと。同時に確認したいことも。」


そう言うと爆発した杖の破片を拾って眺める。


「魔力無しでも魔法を使う………不可能ではないのですわ。予め魔力を込めた魔道具があれば良いのです。ただ………」


杖の破片が一瞬で燃え上がり消し炭と化した。


「お姉様は魔法そのものに強い抵抗力がありますわ。」


「魔法に抵抗力?」


「えぇ、それもほぼ全ての魔法が。」




ナタリーは自分の魔法には自信があった。

元々の素質もあったが努力を積み重ねることで才能を限界まで開花させた。

故に魔法が失敗など有り得ない。


しかし以前エミリアと共に帝国へ逃げ延びる際に支援魔法を使ったことがあった。

本来1時間は持つ身体能力強化魔法が数秒で切れたことになる。

以来、ナタリーは研究し続けた。

さり気なく拾ったエミリアの髪を実験に使用して魔法への影響を記録していく。

多少の罪悪感はあったが全ては敬愛する姉の為だった。


幾度も、何本もの髪を犠牲に辿り着いた答え。

それが魔法への異常な抵抗力だった。



魔法で身体をを燃やされようが、逆に強化されようが効果は即座に消えてしまう。

少しはダメージは有るだろうが、普通に殴られるよりは遙かに少ないだろう。





「ただし聖女の力は例外のようですわ。回復魔法は普通の魔法とは違いますもの。」 


「なるほど………」


随分都合の良い話な気がするが概ね事実であろう。


「歴史上例を見ない事ですわ。こんな事、魔法学界に知られたら研究対象になって…………」


その瞬間、寒気が訪れた。


「うふふふ、私のお姉様を連れて行くのでしたら容赦しませんわ。私からまた奪っていくのでしたら全てを凍らせて見せましょう。永遠の氷雪世界も美しいことでしょうねぇ。」


冷気を漂わせ黒い笑みを浮かべるナタリーは悪い魔王のような事を言い始めた。


「やめなさい。」


「あだっ!」


気持ちはわかるがいい加減寒いので黙らせる。


「そんな心配はいらないでしょう。現皇帝夫妻は貴女達の両親と仲が良かったのは周知の事実です。下手な事をする者は居ないですよ。」


「まぁ……そうですわね。」


それと同時にナタリーを怒らせてはならないことも周知の事実となっていた。





「お姉様が使える魔道具は必ず完成させてみせますわ!」


「それはご自由に、エミリアが怪我しなければ。」





















【ブランウェル王国 某冒険者ギルド】

「帝国だって?」


夜、王国のとある冒険者ギルドで初老の男性と若い冒険者が話をしていた。


「やり残していた事を思い出したんだ。依頼とは別の案件なんだけどね。」


「ふむ。」


目の前の男は冒険者歴17年の若きベテランだ。

ランクはA、腕前はますます伸びている。

近々Sランクに行くのではないかと言われている。


「お前は今までギルドや国民に尽くしてきた。なに、少しくらい席を外しても良いくらいだ。」


「ありがとうございます。」


「ただし半月だ。それ以上の長居は認めんぞ?」


「勿論、必ず戻ってきます。」


そう言うと冒険者はギルドから立ち去った。






「僕が一番なんだ………誰にも譲らないっ。」


紫色の瞳が闇に光る。














ライル・プロデンシアは所謂異世界転生者だ。

異界のコンビニ帰りにワゴン車に轢かれ絶命、だが気がつくと生まれたばかりの赤ん坊になっていた。


異世界転生に気づいた彼は前世でよく読んでいた主人公無双物を目指すべく、幼い頃から剣術を学んだ。

更に運が良いことに魔法の才能もあった彼は魔法剣士として活動することになった。


この世界では魔法剣士は珍しく、彼のように膨大な魔力を持つ剣士は数百年に一度とまで言われ忽ち人気者になっていった。


その頃から彼は何でも一番にならなければ気が済まなくなっていた。

魔物討伐数、ダンジョン攻略数、夜盗成敗数と次々記録を打ち立て王国最強の冒険者となった。


ところが世界は広い。

冒険者ギルド主催の闘技場で彼は初めての敗北を喫した。

相手は自分と歳のそう変わらない女性、美しい青い髪の彼女は両手に剣を装備した二刀流、双剣使いだった。

僅差だったものの女性の方が上だった。


更に数週間後、再び闘技場に現れた彼はまたも敗北してしまう。

相手は見た目は軽装剣士だが帝国皇太子の知り合いらしく、よく話をしていた。


彼はライル同様の魔法剣士だった。

剣はこちらが上だったが魔法は向こうが上手だった。


短期間で二度も敗北した彼はプライドをズタズタにされた。



しばらく気を紛らす為に魔物討伐を遂行していたある日、彼は新聞に見覚えのある顔を見つけてしまった。


帝国騎士団長とAランク冒険者結婚の一面。

その二人は紛れもなくライルを負かした二人だった。


荒れに荒れた彼にはいつの間にか殺意が芽生えていた。  





数年後、準備に準備を重ねた彼は帝国へ入ると真っ先に例の二人の住居へ向かった。


家からは楽しそうな声。

数人だが使用人と思われる声も聞こえた。



彼が何かを呟くと家から一切の音が聞こえなくなった。





強力な睡眠魔法。

広範囲の標的を眠らせるが数分で起きてしまう。


彼には数分もあれば十分だった。




家を囲うように油を撒くと躊躇なく火を放った。





焼け落ちていく家、それは彼にとって新たな道の始まりに見えた。

扉や窓には封印の魔法が施されているため脱出はできない。


こうして彼は名実共に世界一の冒険者となった。


















「お父様とお母様が………そんな………」


一人の………いや







「みんな………燃えていく………」



二人の少女の未来を犠牲に。

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