死神少女は未知の驚異に遭遇する
【ナーガ海】
エミリア達三人の少女は巨大な軍船内を徘徊していた。
道すがら襲いかかる海賊やゴーレムは全てあの世へ送っていった。
探知能力にかからないゴーレムはハンナの耳が存在を感じ取ってくれる。
「ボスはどこにいんの?」
「た、多分船長室だ!」
「ありがと。」
ズバッと首が飛ぶ。
残った死体をレイラが火葬する。死体の臭いがハンナの邪魔になりかねない。
尋問はしているものの船長室とやらがどこにあるのかは全く分かっていない。
エミリア自慢の探知能力にかかった気配の元に突撃しているだけだ。
「?」
ふとエミリアは何か違和感を感じた。
「お姉ちゃん?」
「どうしたのさ?」
「うん……なんかその部屋変なの。」
通りすぎようとした部屋からは気配を感じない。
だが気配のような物を一瞬感じたのだ。
「私が先に入るね。」
ゴーレムかもしれないとハンナは躊躇無く扉を蹴破り部屋へ入る。
遅れてエミリアとレイラ。
中は更衣室なのかクローゼットが大量に並んでいた。
いくつかのクローゼットは壊れているのか外から板が打ち付けられ開けられないようになっていた。
エミリアが死角からクローゼットを開ける度にハンナが正面でクロスボウを構える。
しかし何もいない。
封印されていないクローゼットは全て開放したが何もいなかった。
エミリアは首をかしげた。殺気を感じたという事は何かが居るはずだ。
ゴーレムからはそもそも気配を感じさせなかったからゴースト的な何かが居たのかもしれない。
あれは壁をすり抜けるから違う場所に移動したのだろうか。
「何もいなかったね。」
「うーん………気のせいかな。」
自分の探知能力には自信があった。
今までこんな事態は無かったから困惑していた?
「お姉ちゃん疲れてるんだよ。」
「ん………そうかな。」
レイラの言うことも一理ある。
慣れない船上での戦いはエミリアの体力を余計に奪っていた。
それが探知能力の低下に繋がったのかもしれない。
「じゃ出ようか。なんか気味が悪い。」
再びハンナを先頭に今度は部屋から出る。
その時凄まじい音が鳴り響いた。
振り替えると開いたクローゼットから何かを突き出す少年と胸から血を流して倒れるエミリア。
即席で作り上げたクローゼットの中に入ったケンジは更に外から空かないように板で封印した。
更に認識阻害の魔法をかけてクローゼットに気が向かないようにした。
扉には小さいが覗き穴が空いており外の様子が少しわかる。
万が一の時用に手にはお手製の拳銃。この世界には存在しないがなけなしの鉄素材で作ったのだ。
その時足音がして一度息を止めた。
何かが扉を蹴破り部屋へ侵入してくる。
咄嗟に離れて息を殺す。
一瞬だったが先頭で入ってきた黒髪の女の子が見えた。
クロスボウを構えてた彼女はまるで特殊部隊のように様になっていた。
他にも女の子らしき声が二人分。
そしてクローゼットを次々と開けていく。
やがてここから離れるような流れになったらしく彼は安堵した。
少女が三人覗き穴から見える。
何れも中々の美少女に見えた。どうせだったらあんな娘達と冒険したかったなぁと後悔していた。
黒髪の大きな少女を先頭に赤い髪の少女、そして青い髪の少女。
ケンジはこの時覗き穴を覗くべきで無かった。
視界に捉えた青い髪の少女………エミリアを真っ直ぐ見てしまった彼はエミリアの探知能力に捉えられてしまった。
エミリアが青い瞳を見開いて振り向くと
「いた。」
そこからは早かった。
斧状に変型したグリムリーパーを片手に近づくのが見えたケンジは破れかぶれに扉を開けた。
そして斧を振り上げていたエミリアに向けて発砲した。
「う゛っ!?」
エミリアの胸に命中。
しかし痛みに構わず斧が振り下ろされケンジの意識は二度と戻ることはなかった。
「なに………これ………。」
斧が振り下ろされ頭が砕けた青年が何をしたのか全く理解できていなかった。
胸から背中へ突き抜けていくような痛みは初めてだ。
エミリアは銃という物を知らなかった。知らなくて当然だ、この世界には本来存在しないものだからだ。
「エミリア!!しっかりして!!」
胸から血を流すエミリアをハンナとレイラが思わず支えた。
「…………大丈夫。」
スカートからポーションを取り出して飲み干すと空瓶は投げ捨てる。
飲んだ後に腹から何かが上がってくる感覚には未だ慣れない。そもそも普段は怪我をしない上、クリスティアナがどんな軽傷でも瞬時に回復してしまうから飲む機会が訪れないのだ。
「ん…………ちょっと楽になったかも。」
ポーションを飲んだが傷が深くて治りきらなかったらしい。
出血は治まったが傷はまだ残っている。
「エミリア、一旦戻ろうよ。」
「せーじょ様に治してもらお?」
エミリアの負傷で二人は半泣きだ。
二人にとってエミリアは居なくてはならない存在になっていた。
特に自分の知らない所で傷つき、死ぬようなことが起きたらもう何をしてしまうかわからなくなるだろう。
エミリアの能力は沢山の気配を感じ取っているがほぼ全てが飛行騎士か海軍の物だとわかった。
二人をこれ以上心配させないため、渋々港へ戻ることにした。
クリスティアナなら例え死にかけでも全快させてしまうだろう。
甲板に出た三人が目にしたのは港で戦っているはずの巨人だった。
「何であいつが?!」
巨大魔導人形ギガントに気をとられていたツヨシは海賊の惨状に気づけなかった。
相手は痛覚のない機械のような物だ、殴っても関係なく殴り返してくる。
ふと後ろを向いた時には全てが手遅れとなっていた。
怪獣のような咆哮をあげたツヨシは海賊船に向け進撃を始めた。
ギガントの攻撃で障壁は失ったがもはやそんな物は関係なかった。
巨大化している限りは負ける気はしなかった。
そして海賊キャプテンが乗っていた巨船の甲板に少女が三人出てきた。
最初の標的が決まった。




