死神少女はコーディネートする
【ブラウェイン王国 王都近郊の町キクス】
宿に戻ったのは夜だった。
傷だらけの三人を見た宿のおばちゃんはかなり驚いていた。
宿代をもう一人分追加してハンナも同じ部屋に泊まらせた。
「取り敢えずまずは服装かな。それ着たままだと多分貴方は捕まる。」
「なんで?というか私これしか服ない。」
「夕方に冒険者の誰かと戦ったよね?多分その時の服装覚えられてるから見つかると面倒。」
「あ、そっか。」
エミリアはハンナの服装を気にしていた。
毛皮を被っていたというから顔は見られていない。
しかし服装で気づかれたら早々ハンナとお別れだ。
「明日は私が戻るまで二人は留守番ね。」
翌日、レイラに起こされてエミリアは行動を開始した。
ハンナはとっくに目覚めていた。
「おか……エミリアって寝坊助なんだね~。」
克服しようがないし、否定ができないのが辛かった。
二人を宿に残し町へ繰り出す。
昨日痛めた足は歩けるまで回復したが走るのは無理だった。
せっかくだしレイラとハンナを仲良くさせてみようかとレイラも残していった。
多分ハンナは表裏ないタイプだから打ち解けるとは思う。
服屋に着てハンナの身長、体つきをイメージする。
ハンナが狩人生活していたことも忘れない。見た目よりも動きやすい服装を好みそうだ。
そうなると候補は限られてくる。
やはりオーソドックスに?
途中で店員も真剣に考えてくれた。
思ったより時間がかかった。だがきっと似合うはず。
自分へのご褒美にあんパンを買う。
パンに入っている『アンコー』と呼ばれる物体は海の向こうにある島国【アズマ】から伝わったものらしい。
以前から興味はあったし、いずれ三人で行ってみるのもありかもしれない。
ただあの国の言葉はどうも発音しにくい。
同様に向こうもこちらの言葉を発音しにくいらしい。
前に父が連れてきた『ケンゴー』という人からは『えむるあ』と呼ばれた。
……しばらく渾名が『えむちゃん』になってしまったのはいい思い出だ。
買い物袋を下げて宿への道を歩くと昨日スラム街で追いかけてきた人がこちらを見ていた。
気配から察するに10人はいる。よっぽど逃がしたくないらしい。
エミリアはため息を吐くとスラムへ通じる路地へと入る。後ろから数人の男も入っていく。
翌日、スラムのごみ捨て場にバラバラになった死体が複数発見されることになるとは誰にも予想できないだろう。
「わ、私だってお姉ちゃんにあんな抱きつきしたいもん!」
「だーめ!お母さんのお胸抱っこは私の専売特許!」
「うぅ~お姉ちゃんが汚されていく……」
「楽しそうね。」
部屋に戻るとレイラが跳ねた。
心なしか顔を赤らめている。
何か自分の話題で盛り上がっていたようだ。
突然ハンナが胸に抱きついてきた。
「ひぅっ!?」
身構えてなかったからか普段出さない声を出してしまった。
「おふぁえり、えひりあ。」
「ハ、ハンナ。顔を離して喋って、お願いだから。」
レイラの前でみっともない声をあげてしまった。
ふと視線を向けるとレイラはなぜか顔を膨らませていた。
その反応はさすがにわからなかった。
エミリアは早速ハンナを着替えさせる。
ハンナはされるがまま服を脱がされていく。
ふとエミリアは気付いた。
ちょっと大きい……
自分のそれと比べて明らかな膨らみがある。
小柄な身体は昨日のような大物相手には有利になることもある。だが女としてやはり羨ましいものは羨ましいのだ。
エミリアの瞳から光が消えていく。
……もぎ取ってやろうか。
「お姉ちゃん?」
レイラの一言で現実に戻る。
いけない、こんな下らないことでスイッチをいれてはいけない。
着替えたハンナの印象は大きく変わった。
服装は前に見かけた弓使いの女冒険者を参考にして緑を基調とした軽装服だ。
髪を後ろに縛れば完成。
以前のハンナの面影は完全に消えた。
スカートじゃなくてハーフパンツで良かったのか気になったが気に入ってくれたようだ。
一緒に旅をするとなると武器も必要になる。
ハンナを連れて武器屋にやってきた。
持っていた大鉈と改造クロスボウは無くしたらしい。
武器屋に入るとすぐハンナは何かを見つけた。
黒い普通のクロスボウだ。
「やっぱり遠くから仕留められるのはいいよね。」
そしてもう1つ、一本のマチェット。
「前に使っていたやつと似ているからこの子たちがいい。」
ちょっとお高めだがハンナが言うなら。
お金はさっき拾った大丈夫。
ハンナも喜んでくれたようだし、満足。
ただ人前では抱きつくのはやめようね?
【キクス スラム街】
夜
ある建物の二階からスラム街を見下ろす男が二人いた。
一人は黒ずくめで顔を黒い布で覆っており、青い瞳だけが出ていた。
もう一人はスラム街には似つかわしくない豪華な服装をしていた。
「男十人をたった一人で?本当か?」
「はい。しかもほとんどを一撃で。」
「信じられん……だがお前は見たのだったな。」
「それに…………恐らくこちらの位置も把握していたようです。」
「馬鹿な、お前の気配に感づくだと?」
「危険だと見なされなかったからかこちらへは来ませんでした。」
黒ずくめは浮浪者の処刑を一部始終見ていた。
少女を囲んだ男達のうち一人が少女を抱き上げようとした時、全てが始まった。
その男の首が落ちたのだ。
即座に少女は振り向きナイフを三本、的確に喉を狙い三人を倒す。
木材で殴りかかった男は腕を切断し一旦放置、残りの五人グループに向かい走り大型のナイフで一気に首を凪ぎ払った。
木材の男は許しを乞うが全てが手遅れだった。
徐々に身体を失い、やがて頭にナイフが突き刺さる。
不思議なことにこの間、少女は返り血を全く浴びていなかった。
少女はスラム街から抜けようとした時、黒ずくめが隠れている方向を見て微笑んだ。
「こうなりたいか?」
まるでそう言っているように感じた。
「一度私に気付いたとはいえ、我々の計画を知るはずありません。あの少女を味方に引き込み決定打とするのです。」
「そうなればいずれ私が王となる。……ふふふふふ、期待はできそうだな。」
貴族風味の男は笑みを浮かべた。
「だがすぐ実行には移せん、王都で『聖なる祭典』の参加が決まっていてな。」
「そういえばその祭典には聖女様が来訪するのでしたね。」
「あぁ、まだ成人もしておらん平民の娘だ。私の計画にはあの聖女も何とかしなくてはならん。」
「民からの人気は絶大ですからねぇ、下手なことはできませんよ?」
「うぅむ……慎重に機会を待つしかないのか…………」
貴族風味の男と黒ずくめの男は計画の為に暗躍を始める。
死神を手中に収めるために…………




