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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾壱 ―巨人と巨船と魔導人形―
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海賊掃討作戦

【ナーガ海】

予てより計画されていたバイキンゴー海賊団征伐作戦。

決行の日は雲一つ無い青空が広がり、海も荒れる様子はなかった。


巨大戦艦ハーベリアを先頭に大型船、中型船が後に続いて出港していく。

その光景は以前あった王国との海戦へ向かう時と一緒だったと地元の漁師は言う。





「ブラッド船長、隊から遅れているぞ。」


ハーベリア船長エーリヒが通信用魔導具の水晶に話しかける。

兵士の一人が船隊から遅れる軍船があると報告があったのだ。


『こっちは全速力だ。いろいろ詰め込んでいるからどうしても置いてかれちまう。』

「そうか、なら仕方あるまい。」

『もしもの時はお姫様達に先行してもらうさ。』


通信相手は初の実戦として参加する新型の軍船だ。

皇帝ハワードによる新たな試みが施されているらしいが、詳しくはエーリヒも知らない。

わかるのはハーベリア並の巨体を持つ船というくらいだ。


「あまり時間をかける訳にはいかん。こちらは先に始めてるぞ。」

『あぁ、任せた。少しは残してくれると嬉しいが。』

「すまんな、加減はできそうにない。」


そんなやり取りが終わるとハーベリア率いる大船団は新型船を置いて速度を上げた。











ハーベリアに吊るされた鐘が鳴り響く。


エーリヒが望遠鏡を覗くと帝国船団と同程度かそれ以上の海賊船が見えた。


「加減は無用、全て沈めるつもりでかかれ。」


水晶に向かって言い放つと砲弾の発射音が鳴り響き出した。


帝国軍船による砲撃で海賊船が爆発、撃沈していく。

だが海賊船もやられるばかりではない。

同様に砲弾の雨を降らせると帝国軍船に少なくない被害を出してくる。


「中型船は無理をせずハーベリアを盾にしろ、あんな砲撃でハーベリアは沈まん。」


この通信の最中にもハーベリアは巨体故に砲弾の雨をまともに受けていく。


ハーベリアが『不沈艦』と呼ばれる理由の一つには特殊な船体が挙げられる。

宮廷魔導師によって防御力の強化、爆発への耐性を大幅に上昇した巨船は砲弾が直撃しても傷一つ付くことはない。



「無駄なことを、今度はこっちの番だ。」


鐘が鳴ると共にハーベリアの大砲が一斉に放たれる。続いてハーベリアに隠れていた軍船も砲撃を始めると海賊船が次々と沈んでいく。

ハーベリアの砲弾を受けた海賊船は特に大きな爆発を起こして大破していった。








海賊征伐は順調だった。

だがエーリヒは言い知れぬ不安を感じていた。


確かに海賊船の数は多い。

だがそれだけでこの海賊が勢力図を変えるようには思えなかった。



明らかに練度の足りてない海賊船の船員に無闇に突撃してくる大型船。

帝国船団を相手するには余りにもあっけなさすぎるのだ。


何かがあるに違いない。


















かつてない規模の戦闘に海賊船は次々と沈んでいく。


異界人のツヨシは海賊船団の一隻に乗船していた。

悪者には違いないが自分達にとっての家族のような存在を奪っていく正規海軍を黙って見ることはできなかった。


この世界で手にいれた力の使い方は理解している。

いつも通りにやればきっとなんとかなるはずだ。


そう思った彼は船から飛び降りた。







次の瞬間、海が光ると同時に巨大な何かが姿を表した。


「なんだあれは!?」


突然現れた正体不明の巨人、ツヨシが巨大化した姿である。

そんなことを知らない帝国船団に混乱が生じる。


「まさか………ウミ・ボーズか!?」

「馬鹿な!アズマの巨人が何故!?」


ウミ・ボーズとは東の島国アズマ近海に現れる巨人だ。

圧倒的な体躯を持ち、近くの船を沈めたり漁村を襲ったり規模の大きな悪さを働く。

この伝承は大分誇張され帝国に伝わっており、海の男の間では最強の巨人として知られていた。



巨人は帝国軍船を持ち上げるとそのまま別の軍船へと投げつける。




大爆発と共に二隻の軍船が海の藻屑となった。

ハーベリア船長であり船団を任されていたエーリヒは当然黙ってるはず無く


「目にものを見せてやる!巨獣砲準備!」


ハーベリアの船体側面には無数の大砲があるが、金色の巨大な大砲は中央に搭載されている。

城塞都市にあった巨獣砲はハーベリアの物を地上で使えるように改良を加えた物で、こちらが原型とされている。

古いが威力は地上の物以上である。



巨人が次の狙いをハーベリアに決めたらしくゆっくりと近づいてきた。


「まだだ!もっと引き付けろ!巨獣砲着弾と同時に一斉砲撃を浴びせよ!」


的が大きいとはいえ巨獣砲は飛距離が短い。

相当近づかないと当たらない一撃必殺の武器だ。




「今だ!撃て!!」


重い砲撃音と共に砲弾が放たれる。

砲弾はゆっくりと、真っ直ぐに巨人の胴体に向かって飛んでいく。


やがて硬いものに着弾した巨大な砲弾は大爆発を起こした。


続いてハーベリアの一斉砲撃が始まる。

数十もの大砲は確実に巨人へ命中していった。





過剰とも言える砲撃を浴びせられた巨人は黒煙に包まれた。


砲撃が止むと同時に煙が晴れていく。



巨人は傷一つついてなかった。


「無傷です!!巨人は無傷!!」

「巨獣砲を耐えただと………?!そんな馬鹿な!!」


確かに巨獣砲は命中した。

ドラゴンを倒した実績を持つ巨獣砲。

それを耐えるどころか全く効き目が無い。それは帝国船団に衝撃を与えた。



巨人がハーベリアに接近すると両手を大きく振り上げた。


ハーベリアには防御力を高める術式が施されている。

だがエーリヒは何とも言えない寒気を感じた。



「衝撃に備えろぉ!!」


その瞬間、木が折られ削られるような音が鳴り響いた。














船脚の遅い新型船は戦場が見える場所までようやく辿り着いた。


「ハーベリア率いる船団が戦闘中です!ハーベリアは巨人と交戦、被害を受けています!」

「何!?」


新型船の船長、ブラッド・ゲルトナーが兵士から望遠鏡を奪うとその光景に絶句した。



謎の巨人によりハーベリアが船体を削られている。

周りの軍船が集中砲火を浴びせているが全く効いてる様子がない。

そんな軍船に海賊船が攻撃して次々と沈んでいく。




「ハーベリアの救援に向かう!各自戦闘配置につけ!」


ブラッドの一声で周りが慌ただしくなる。


「要塞船ジェストの力を見せてくれる!お姫様達は出撃だ!」




攻撃準備を進めていくと望遠鏡を覗いていた兵士が声をあげた。


「待ってください!巨人の様子がおかしいです!」






ハーベリアを攻撃していた巨人は突然反転して後退していった。

それに追従して海賊船も退いていった。



巨人がなぜ立ち去ったのかはわからない。


一つ確実なのは、帝国海軍は事実上の壊滅。

港町の守りが無くなったことだ。

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