伝線する狂気 狩人
過激な残酷描写にご注意ください
【ナーガ海】
「巨獣砲命中。海賊船の一隻は大破。」
巨大戦艦ハーベリアの船員が巨獣砲の着弾を伝えた。
「キクスに海賊の救助をさせる。こちらは救難信号を出した漁船乗組員の救助を行う。引き続き海賊の動きを見ておけ。」
「はっ。」
赤い軍服を来た初老の男性、ハーベリアの船長エーリヒ・ノイエンドルフは水晶のような魔導具に話しかける。
「エーリヒだ、生き残った海賊の救助をせよ。抵抗するなら沈めて構わん。」
『了解。』
水晶から返答が返ってきた。
この水晶はその場に居ながら遠くの者と会話ができる最新の魔導具だ。
試験的に軍部で使われ、後に貴族や一般に普及するつもりだ。
「しかし噂には聞いていたが凄まじいな。」
視界に映るのは襲撃したであろう海賊の惨状だった。
一隻は氷付けで行動不能。
一隻にはドラゴンが乗り込み暴れていた。あの赤いドラゴンを倒すには相当な人員と十分な装備が必要だ。
海賊にそれだけの力があるとは思えない。
となると待っているのは破滅だけだ。
海賊船に乗り込んだエミリアは船内を徘徊していた。
背後は復活したハンナがクロスボウで警戒してくれている。エミリアに奇襲は通用しないのは知っているが危険に晒したくないのだ。
エミリアの手には槍に変形したグリムリーパー、彼女の頭には海賊の皆殺しで一杯だ。
「ぎゃああ!!」
壁越しに海賊の頭を貫く。
そのまま引きずり出して頭を踏みつける。
スイッチが入ったエミリアは全身血塗れになっても気にすることなく更なる血を求める。
船内を進むとでエミリアは足を止めた。
両開きの扉、ここだけ雰囲気が違った。
「…………いる。」
中からいくつもの気配を感じた。
少なくとも三人くらいが扉の近くにいる。
扉を開けた瞬間襲いかかって来るのが想像できた。
「ねぇ、なんか臭わない?」
ハンナがキョロキョロ見回す。
鼻を抑えてないため刺激臭の類いでは無いようだ。
「んー………わかんない。」
少なくともエミリアには感じない臭いのようだ。
「ハンナ、手伝って。」
「うん…………ん?」
クロスボウを構えた時にハンナは違和感に気づいた。
先程感じた臭いが扉に近づくと強くなったのだ。
ハンナがエミリアを止めようとした時だった。
ボンッ
と爆発と共にエミリアが吹っ飛んだ。
「エミリア!!」
扉は手順を間違えて開こうとすると爆薬が反応する罠が仕掛けられていた。
まともに爆発に巻き込まれたエミリアは受け身を取れず後頭部を強打して気絶していた。
「うらぁぁぁ!!」
扉が開き海賊三人が襲いかかってくる。
その瞬間、ハンナの目は狩人の目になった。
クロスボウを構えると走ってくる海賊の一人、頭に目掛けて射撃。
「ぐぎゃっ!?」
その間にも海賊はかなり近くまで来ていた。
片方の海賊に近寄るとそいつの顔目掛けて腰のマチェットを突き立てた。
「あぐぁっ!!」
怪力持ちのハンナが突き立てたマチェットは頭蓋骨を貫通した。
残った海賊がハンナに斬りかかる。
「づっ…………!」
避けきれず肩を斬られクロスボウを落としてしまった。が同時に海賊の腕を掴む。
もう片方の手で頭を掴むと力任せに壁に叩きつけた。
海賊が声にならない悲鳴をあげる。
そんなもの聞こえないとハンナは何度も、何度も、何度も叩きつけた。
海賊の返り血がハンナに飛び散る。
普段クロスボウを使っている彼女が返り血を浴びる事は無いため珍しいことだ。
だが血を拭うことなく海賊に更なる追い討ちをかける。
グシャッと何かが潰れる音がすると海賊だった物はそのまま捨てられた。
「うー………びっくりした。」
エミリアはゆっくり起き上がった。
爆発で吹き飛んだのを感じさせない。
「エミリア!大丈夫?」
返り血を浴びたハンナの顔に少し驚くも表情は崩さなかった。
「うん、お尻打ったかも。」
「お尻?」
ハンナの記憶が正しければ爆発で吹き飛び頭を盛大に打ち付けていたはずだ。
「じっとしてて。」
「ん。」
エミリアの後頭部を撫でてみるとべったりと血が付いた。
その瞬間、ハンナは悟った。
これは賢者さんがキレる奴だ。




