死神少女の海賊狩り
過激な残酷描写にご注意ください
【ナーガ海】
バイキンゴー海賊とは十年以上も前から存在だけは知られていた小海賊団だった。
漁船や商船を襲撃することはあったが屈強な漁師達や帝国海軍、護衛の冒険者達により毎回手痛い反撃を受けていた為危険視されていなかった。
ところがここ一年ほどで急速に勢力を拡大し、高性能の海賊船を揃えたバイキンゴー海賊は次々と襲撃を成功させ無視できない存在となっていた。
漁船の甲板上で噎せるハンナと遠くに見える海賊船を見てエミリアの中で何かが切れるような感覚がした。
漁師が恐れる海賊のことをエミリアは知らない。
どんなに悪いのかは知らないし興味もない。
でもあいつらのせいでハンナが苦しんでいる。
じゃあ全部殺せばいい。
「おじさん、これ借りるよ。」
エミリアは弩砲に手をかけた。
「えっ!?いやそれは」
「うん?」
「っ?!なっ、何でもない………」
目を赤く光らせたエミリアに怯えた漁師は引き下がった。
大の大人でも両手で動かすのがやっとの代物を片手で向きを変えて海賊船に槍を向ける。
「殺してやる。」
引き金が引かれ槍が放たれた。
海賊船では新たな獲物を前に高騰していた。
望遠鏡で確認した限りだと五人の売れそうな子供が乗っているのが見えた。
おまけに高級魚のキラーフィッシュまで仕留められており戦果は上場だった。
白旗でも上げていないか確認すべく船長が望遠鏡を覗き込む。
「ぐぇあっ!?」
その瞬間、船長の顔は飛んできた槍に貫かれ柱に縫いつけられた。
「船長!?」
船員が声をかけるが船長はビクビク痙攣してやがて絶命した。
槍が飛んできた方向を見ると何かがロープの上を渡ってきていた。
望遠鏡で見えた少女の内の一人が黒い剣を片手に走っていた。
ロープの上は不安定の筈だがそれを感じさせない速度だった。
あれはやばい。
そう感じた海賊達は船長を縫いつけている槍を引き抜こうとするが返しの付いた槍は深く突き刺さり簡単には抜けそうにない。
ならば槍を繋ぐロープを切ろうと海賊達は斧を取り出した。
その間にも死神は迫ってきていた。
「早く切れ!!」
誰かが叫ぶと同時にいくつもの斧が振り下ろされた。
ぶちっ
そんな軽い音がするとロープ伝いに走ってきた少女が落下していった。
「ははっ………びっくりさせやがって!」
「俺達に逆らうからだ!」
少し元気が出てきた海賊達は好き勝手言うと砲撃した漁船へ船を動かす。
戦利品はまだそこにいる。
これだけの数相手に敵うわけない。
海賊達はそう信じていた。
「ん?女が消えてるぞ?」
望遠鏡を覗いていた海賊が何かに気づいた時である。
「ぎゃああぁぁ!!」
悲鳴があがった方向には数人の首が飛んでいた。
その中心には落とした筈のエミリア。
ロープが切られた時、闇剣を大鎌状に変形させて海賊船に突き刺していた。
そしてナイフを交互に刺してよじ登ってきたのだ。
大鎌がもう一度振るわれると再び海賊の首が宙を舞う。
「奴は一人だ!殺せ!!」
だがリーダーを失った海賊は脆かった。
パニックを起こした海賊は次々と首を飛ばされ数を減らしていく。
そして船に乗る最後の海賊の首が飛んだ。
「射殺せ!!」
直後、近づいていた別の船から矢が雨のように放たれる。
物陰に隠れたエミリアはさっきまで自分がいた場所に矢が刺さるのを見て舌打ちした。
飛び道具はエミリアの殺気察知能力と相性が悪い。
ダンジョンの罠のように気づくのに遅れて面倒なことになる。
飛んでくる矢をやり過ごしながら、どうやって彼奴らを殺すか考え出す。
「ギャオオォォォ!!」
咆哮と共に近くで爆音が鳴り響く。
顔を出して見ると、海賊船の一隻に赤いドラゴンが降り立ち破壊の限りを尽くしていた。
首を振り回してマストを折り、尻尾の凪ぎ払いで海賊が吹っ飛んでいく。
ある船は海賊ごと凍って氷像と化していた。
ドラゴンがへし折ったマストがエミリアのいる船に倒れる。
それを伝ってドラゴンのいる船に渡るとドラゴンに怯える海賊を再び処刑し始めた。
「キャプテンに連絡だ!!全速前進!!」
海賊船の一部が部が悪いと判断して逃走を試みる。
五人の売れそうな子供がこんな化け物だとは誰も思わないだろう。
ゴォォーーン ゴォォーーン
鈍い鐘の音は遠くからだがはっきり聞こえた。
圧倒的な存在感を見せるその船は海賊船を遥かに越える大型船。
帝国軍旗を掲げる就役100年を越えるそれは『帝国の守護神』『浮沈艦』の異名を持っていた。
船体に備え付けられた金色の大砲、巨獣砲から逃走する海賊船に無慈悲に撃たれる。
刹那、海賊船は木っ端微塵にされた。
巨大戦艦『ハーベリア』。
エミリア達の救援は帝城の名を冠する船だった。
戦艦が出てきましたが大きい帆船と思っていただければ。
巨大と言うだけあるので多分フレイムドラゴンよりでかいです。




