不穏の予兆
【ベルセイン帝国 小さな村リネ】
ダンジョンから脱出しギルドへ戻ったエミリア達を出迎えたのはギルドマスターだけではなかった。
「久しぶりだな、小さな勇者よ。」
見覚えはあるが名前をド忘れしてしまった。
確か凄い人だった気がする。
「魔王ゲスロード。」
「惜しいな、デスロードだ。」
名前を間違えられたのに魔王は寛大だった。
「ギルドマスター、何故魔王様がこちらに?」
クリスティアナの問いにフローラは困った風な顔をした。
「あのダンジョンがどうやら別の魔族と関連があるらしいと仰ってな。こうして皆を待っていたんだ。」
「魔族…………ルールー、あいつを。」
「ほい。」
フローラの言葉で思い出したエミリアはルールーに串刺し魔族を出させた。
「げっ!」
「ほぉ?」
串刺し魔族を見た瞬間デスロードは意味深な笑みを浮かべた。
「こいつはもらうぞ。色々と聞きたいことがあるのでな。」
「あ、うん。」
返答を聞く前に串刺し魔族を持っていくデスロード。
持っていても五月蝿いだけなので処理する手間が省けた。
その夜、ギルドではエミリア達のダンジョン攻略を祝い盛大な宴が催された。
騒いでいるのは冒険者達が中心だが村の住民も混じり自分のことのように喜んでいた。
ギルドの中ではナタリーにクリスティアナ、ハンナが騒ぎの中心にいた。
三人とも飲酒はできない。が、クリスティアナが周りの空気に酔ったらしい。
クリスティアナはナタリーとハンナをエミリアに見立てて大好きコールを連発していた。普段の彼女からは想像できない一面だ。
ギルドの外でエミリアはベンチでジュースを飲んでいた。
膝で眠るレイラの髪を撫でながらギルドの喧騒を眺める。
「主は混ざらないの?」
背後からぬっと実体化したルールーが問いかける。
「騒いでる人を見るのは好きだから。」
エミリアは宴が始まって割りと早い段階でレイラを連れて脱出していた。
酔っぱらいに絡まれると面倒臭い、その上レイラはそういった輩に慣れてない。
びっくりして竜化でもしたら違う騒動が起きるだろう。
この村にはレイラの事を知らない者はいないのだが。
「ルールーはさ。」
「ん?」
「前の主人と今の主人…………私とどっちが良いと思う?」
純粋な疑問だ。
前の主人………異世界の勇者ユウキはルールーに選ばれたのだから相当な使い手だろう。
自分はそれに匹敵するのかどうか………。
「んー…………その内主が強くなる。人間てのはそんなものだから。」
「そう。」
少なくとも今はまだまだらしい。
ちょっぴり不満だがエミリアはまだ二十にも満たない少女、可能性はあるだろう。
「ちなみに前の主人ってどんな奴なの?」
「写真がある。はい。」
何処かから写真を取り出すとエミリアに渡す。
写真には一軒家の前に青年と魔導師っぽい女性に聖女っぽい女性、そしてやたら肌色が多い水着ガールが写っていた。
ルールーが順に説明していく。
「勇者ユウキ、大魔導師アネット、大神官プルーム、でルールー。」
「ん?」
今の言葉に違和感を感じた。
「これがルールー?」
「うん。」
エミリアが指差すのは場違いな水着美少女。
出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいるナイスバデーだ。
写真のルールーと前にいるルールーの一部分を比べる。
「…………なに?」
「もげちまえばいいのに。」
ルールーは精霊をやってきて初めて恐怖を知った。
【魔族領 魔王城】
北の大地に聳え立つ魔王城。
拷問を終えた魔王デスロードが玉座に座ると四天王のリュートが転移してきた。
「よぉ、何か聞き出せたか。」
「大当たりだったよ。」
デスロードは自慢げだった。
拷問にかける程の輩が最近現れなかった為すっかりご無沙汰だった。
なお首だけの魔族の現在地はケルベロスの胃の中である。
「昔やたら俺に対抗してた奴がいたろ?」
「あぁ、いたな。」
デスロードが魔界にいた頃、ことある毎に対抗心を燃やし返り討ちにした魔族がいた。
百年以上経ってもまだ覚えている。
「奴が来るらしい。」
「………なに?」
「魔法大戦の再来だよリュート。」
こことは違う世界。
エミリア達のいる世界を人間界と呼ぶなら魔族の世界なので魔界と呼ぶだろう。
魔王と呼ばれる存在は一人だけではない。魔王とは軍団長の様なもので、魔界では魔王同士覇権を巡って争っていた。
「間もなく魔王城は転移の準備が完了します。」
「シタッパはしくじったようだな。だが今度は僕自らが動けば間違いないだろう。」
玉座に腰かける金ぴか衣装の魔族、魔王は報告を受けながらニヤリと笑った。




