死神少女は聖剣の力を解放する
【魔のダンジョン 第五階層】
エミリアにはかつてない力が湧いてくるのがわかった。これまでではできなかったことが色々できそうな気がした。
愛用していた剣は形状を大きく変え大鎌に変異していた。
元から大きな剣だったが更に大型化したそれはエミリアの身長を越えた代物。しかし初めて持つのに長年使っていたように手に馴染んでいた。
そういえば砦で殺害した夜盗や一部の冒険者がエミリアを『死神』と呼称していることを思い出す。
今のエミリアの姿はまさに本で良く見る『死神』そのものだ。
エミリアはその呼び名を少し気に入っていたりする。愛読書の童話『グリム君とリーパーちゃん』の主人公兄妹も死神だからだ。
最も、仲間の四人はエミリアがそう呼ばれることを良く思ってはいないが。
大鎌を構えた瞬間、勇敢にもゴブリンリーダーが斬りかかってきた。
ドゴッ
「ギャッ!?」
突撃に合わせてエミリアの蹴りが入ると鎧を着たリーダーは吹き飛んだ。
できそうな気がしたので蹴っ飛ばしたが予想以上の威力だった。
吹き飛んだリーダーに向けて大鎌を思い切り振る。
オークは目の前で何が起きているのかわからなかった。
ゴブリン並の人間が次々とゴブリンを殺したあげく、突然巨大な鎌を取り出すとゴブリンを纏めあげていたリーダーを真っ二つにしたのだ。
ほとんどのオークにとって人間の女は大小問わず繁殖の道具に過ぎない。
この場所にやってきたのも罠や魔物に襲われ疲弊した女冒険者を慰み物にするためだった。
だが不運にも彼の前に現れたそれは殺意に満ちた死神だった。
しかしここで逃げるわけにもいかない。
オークはリーダーが倒されたのを偶然だと決めつけた。
一呼吸して目の前の獲物を観察する。
一見するとただの少女。
小さな身体に見合わない大型の武器を苦もなく振り回す姿は魔物以上の恐怖を感じる。
更にあれだけのゴブリンを殺したのに何故か返り血は浴びていない。
大鎌を担いで次の犠牲者であるオークにゆっくりと近づいてくる。
力で押せば勝てるはず。
そう確信して棍棒をエミリアの頭めがけて振り下ろした。
バコォォン、と予想とは違う音がすると棍棒が粉々になった。
「ナニィ!?」
エミリアを見ると左手をグーにして突き出していた。
あれを拳で迎え撃ったのだ。
オークはようやく相手がただの人間では無いことに気づいた。
彼は今まで何人もの人外じみた女性冒険者を相手にして来たが目の前のそれは異常だった。
目の前で怯むオークを見上げるエミリアは無心で殺意のみを向けていた。
一度敵意を向けた相手は逃げるか死ぬか。
逃げ足が早ければ見逃すつもりではいたが逃げないのならば選択肢は一つだ。
徐に大鎌を振ると風を切るような音と共に血飛沫が飛ぶ。
オークの腹が切断され体が真っ二つになった。
「ギャアアアァァァ!!」
上だけになったオークは内蔵を撒き散らしながら痛みに悶える。
あぁ、うるさい。
頭を割れば黙るかな?
そう思った直後、大鎌が光り始める。
光る刄は徐々に形を変えていく。
光が収まるとエミリアの手には大きなハンマーが握られていた。
「…………うん、悪くない。」
どうやらエミリアの思考を読み取って最適な形状に変形するようになったらしい。
ハンマーを構えて狙いをつける。
目標、オークの頭。
渾身の力で振り下ろす。
ガツン。
もう一発。
ガツン。
ガツン、ガツン、ガツン。
肉が潰れる音と骨が砕かれるような鈍い音が響く。
オークだった物は肉塊になりながらもまだ蠢いていた。
頭が潰れながらもまだ動く両腕で抵抗してくる。
視界を失った両腕がエミリアの小さな足に触れた直後、鉄槌が振り下ろされた。
「ふぅ…………。」
エミリアは急な脱力感に襲われ、ぺたんと座り込んだ。
危険が無くなり気が抜けたのかあまり見せない表情を見せている。
先程、棍棒を粉砕した小さな手は赤くなっていたが痛くはなかった。
あまり彼女らしくない無茶だった。
「?」
不意に感じた視線の方向に目を向けると少女が一人立っていた。
初対面の筈なのにそんな気はしなかった。
むしろずっと側にいたような気がした。
「やっと、お話ができるね。主。」




