死神少女はダンジョンの洗礼(?)を受ける
【魔のダンジョン 第一階層】
新たに発見された洞窟型のダンジョン、魔の森に因んで『魔のダンジョン』と名付けられていた。
五人はエミリアを先頭に進んでいた。
ダンジョン内は光源が無くとも視界には困らない明るさだった。
一見光源のようなものは見当たらないのだがダンジョン特有の謎の一つなのだろう。
こうして進んでいる間にダンジョンバットやゴブリンが散発的に襲いかかってきているのだが鼻歌混じりにナタリーとレイラが始末してくれていた。
少し歩くと木製の扉が視界に入る。
こんな場所には似つかわしくない存在だ。
中の様子を伺ってみるが気配は感じなかった。
「取り敢えず、入ってみようか。」
エミリアが徐に扉を開けてみる。
突然だがここでエミリアの能力について語らなければならない。
エミリア自慢の探知能力は生物の気配やこちらに向ける視線、殺気は感じ取れる。
ゴーストや妖精など視認できない存在は視線や殺気ならば察知できる。
そして意思ある者は攻撃時に凄まじい殺気を放つため、それを読み取ることで攻撃を回避することもできる。
しかしそんな便利な能力にも弱点があった。
まずはエミリアの健康状態で探知範囲が左右すること。
安心、リラックスして寝ている間は何故か探知範囲が広がり、負傷していたり病気の時は大幅に狭くなる。
また、この能力は常に発動している為、今でこそ慣れているが感じる視線、気配に戸惑い混乱していた時期もあった。
そしてこの能力のもう一つの弱点、それは殺気を伴わない攻撃…………罠などで連動するような攻撃を読み取ることができないのだ。
だからエミリアは咄嗟の回避ができず罠が顔面に直撃した。
ベチャッ
「べぁっ?!」
「「「「あっ!?」」」」
エミリアの顔に白い何かが直撃した。
視界が奪われただけでダメージは無かったようだ。
突然起きた惨状に誰もが言葉を失った。
ゆっくりと顔についた白い物体を拭き取って視界を確保。
これは一体なんだと顔についた物体を眺める。
「………………クリーム?」
実はエミリアの顔面を襲ったのはクリームがたっぷりついたパイだった。
足元にはパイが乗っていたであろうさらが転がっていた。
「あ、甘い。」
暢気にクリームの感想を述べるが周りはそうはいかなかった。
「お姉様のお顔が!!」
「わぷっ!」
ナタリーが即席の小さな滝にエミリアの顔を突っ込む。
クリームまみれのエミリアを見たくなかったのか乱暴に洗い流していく。
「ナ、ナタリー!落ち着きなさい!」
油断した………。
扉を開けた瞬間、全部が真っ白になった。
私の顔についたのは甘いクリーム。
何度か口にしたことのあるやつっぽい。
そのあとナタリーが顔を洗ってくれて見た目はよくなったと思う。
レイラが暖かい風を出して色々乾かしている間にハンナとクリスが部屋の中を探索してくれた。
収集品はポーションにお金が入っていそうな袋。
確かリリノアさんは「ダンジョンで見つけたものは早い者勝ち」とか言ってたし貰っちゃおう。
あぁ、あんなのに引っ掛かるなんてカッコ悪い。
幻滅されないように戦いを頑張んないと。
「この階層は調べ尽くしたかな?」
「あそこに階段がありますわ。」
「ん、さっさと次行こ。」
再び私を先頭に進む。皆を危険に晒したくないからね。
カチッと足元で音がしたと気づいた時には私の頭に何かが落ちた。
「んげっ………!」
薄れ行く意識の中で皆の悲鳴が聞こえる。
そして視界の隅には……………金盥?
あぁ、今日の私はカッコ悪い。




