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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
玖 ―私の居場所―
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小さな村を脅かすもの

【ベルセイン帝国 小さな村リネ】

エミリアはクリスティアナの実家を訪れていた。

この村に帰ってまだ顔を会わせていない人がいたのだ。


あの日から村の住民の顔ぶれは変わっているが、何れもエミリアの無事を我が子のように喜んでくれた。


それはこの家も例外ではなく、涙を流しながらただ抱擁してくれた。



「さっきは取り乱しちゃったわね、ごめんなさいね。」


クリスティアナの実の母、カルラは申し訳なさそうにジュースを用意した。

当たり前のようにエミリアの両隣にはクリスティアナとレイラが椅子を移動させて座る。


「それにしても随分立派になったわね。お父さんもお母さんも喜んでいるわよ。」

「そう……かな?」

「そりゃもちろん!おばさんが言うんだから間違いないよ!」

「お母さん、そういうのエミリアが困るよ。」


娘以上に元気なカルラ。その元気さを見て村人の疲れは吹き飛ぶとか。


横にある建設予定地からはいつも以上に激しい音が聞こえる。

この家は焼失したルーベンス家の隣にあった。

幸いにも燃え移りはしなかったが、エミリアが行方不明となった日は誰よりもカルラが騒いだそうだ。


窓から見てみると親方と、何故かナタリーが現場指揮をしていた。

エミリアは知らないことだが両親の墓参りの場面を二人は目撃していたのだ。

普段流さないエミリアの涙を見た二人は意気投合、ナタリーの身体強化魔法を使って作業員を酷使していた。


「あの、お母さん。お願いがあるんだけど」

「クリス。」


カルラはクリスティアナが言い切る前に遮った。


「何も言わなくてもわかるわ。私の可愛い娘のことだもの。」


うんうん頷くとクリスティアナに改めて向き合う。


「それでもたまにはこっちで休んでちょうだいね?」

「その………お母さん……ありがとう。」


クリスティアナは終始顔を赤くしていた。










夜になると元から静かな村はより一層静寂に包まれる。


カルラは泊まっていくよう言ってくれたが流石に五人も寝床を用意して貰うわけにはいかず、引き続き宿を使うことにした。


既に消灯時間は過ぎているがエミリアは何故か寝ることができず、夜風に当たっていた。


宿の前あるベンチに腰をかけ、ナイフを器用に回しながら周りを眺めた。




今更ながら確かに昔と比べて村は少し大きくなっていた。

生まれ故郷が栄えるのは良いことだ。

元々人工が少ないため同年代の知り合いがいないのが少々残念だが。


不意に気配を感じたので振り向くと眠そうなレイラが外に出てきていた。


「んぅ~……お姉ちゃん。」

「レイラ、起きちゃった?」


ナイフをしまい両手を広げるとレイラはエミリアに抱きついた。

今日はレイラと一緒のベッドだった。エミリアの温もりが無くなったことに気づいたのだろう。


「お姉ちゃん……ここに来てからちょっと嬉しそう。」

「そう?」

「そんな風に見える。」


レイラは魔物、人間とは違う感性を持つ彼女はエミリアの雰囲気が何となくわかるのかもしれない。

頭をそっと撫でると気持ち良さそうに目を細めた。


「戻ろう?レイラには寒いでしょ。」

「みゅ~………。」


言葉にならない返事をするとエミリアに抱きついたまま寝始めてしまった。



赤子をあやすようにレイラを抱いたまま立つと徐にナイフを投げる。


「ギャインッ!」


不埒者の死を確認すると何も無かったかのように宿へ戻った。















魔の森にはかつて帝国が群雄割拠時代に築かれた砦が存在した。

朽ちた城壁は数百年経った今でも残っており、過去には野盗のグループが根城として使用した歴史がある。

手入れさえすればすぐにでも中で過ごすことができるのだ。


そんな廃砦には現在、住民がいた。


「じゃあ数日後に行動を?」

「あぁ、このままじゃ飢え死にしちまう。かわいそうだがあの村から食糧や資金を強奪して王国へ逃げる。今なら船を使えば王国へ入れるからな。」


剣士風の男は十数人いる部下のリーダーらしく、これからの計画を伝える。


彼らは元冒険者。訳あって冒険者業を続けられなくなった者達だ。

リーダー格の剣士、ダニエルも冒険者だったがパーティーメンバーだったある男が女性に乱暴を働いたのだ。


女性を襲った男は既に牢獄入りしたがそのお陰でパーティーの評価は下がり、冒険者として活動しにくくなりダニエルと他のメンバーは町から去った。


流浪の旅を続けていく内にダニエルの元へ似たような境遇の元冒険者達が集まってきた。

金も無く、食糧にも困る彼等が今日まで生き長らえてきたのはダニエルの腕ととある青年のおかげである。




タケシ・スズキは数年前、この世界にやって来た異界人だ。

ある日目覚めたら見知らぬ森にいた彼は最初は戸惑ったものの、ここが何らかの異世界だと気づいてからは行動が早かった。

異世界転移したのなら何らかの特別な能力があるのでは?と色々なことを試し、あることに気がついた。


彼には獣使い(テイマー)の力があったのだ。


獣使い(テイマー)には大きく分けて二種類存在する。

一つは一体の魔物と心を交わし契約することで一生の相棒として共に道を歩む者。帝国の飛行騎士の多くはこちらだ。

もう一つは特定の魔物、動物の意識を支配下に置き自在に操り指示する者。

タケシは後者だった。


この力でタケシは獣使いとして冒険者となり、そしてダニエルのパーティーメンバーとなった。




彼には獣使い(テイマー)としてもう一つ特別な力を持っていた。

それは支配下に置いた魔物の意識を共有すること。つまり彼等の見たこと聞いたことがタケシには伝わるのだ。


これを利用して危険地帯の偵察などを何度も行い危機を回避してきた。




そんなダニエルの右腕とも言える彼は一体のファングを使役し、とある村へ潜入させた。


砦から少し離れた場所にある村は小さいがそれなりに人が行き交う村だ。

深夜の警備は厳重ではなく、ファング一体が余裕で入り込めることができた。


襲撃ルートを吟味するため村を歩き回るとある人物を見かけた。


夜中に抱き合う少女二人。

ファング越しに眺めるタケシは何故かそこから目が離せなかった。


直後、ファングの意識が途切れてしまった。

何かに殺されたらしい。


村の警備の様子と建物の配置はわかった。

そしてもう一つ大きな発見があった。







あの子は魔物だ。

それも人間に変身できるほどの強力な。


あの子を使役…………願わくば契約に持ち込めればきっとダニエルの役に立つはずだ。



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