死神少女は聖女を撃破する
【ベルセイン帝国 小さな村リネ】
エミリア達を乗せた荷馬車が森を抜けると夕日が沈みかけていた。
村の入り口に着くと礼を言いつつ荷馬車から降りた。
「じゃあおじさん、お仕事頑張って。」
「おう!おかげで張り切れそうだぜ!」
豪快に笑いながら荷馬車は村の中へ消えていった。
村の入り口には警備の兵士が立っている。
エミリアの記憶には彼等は居なかったはずだ。
冒険者達が入るようになってから配備されたのだろう。
だが軽く挨拶してくるだけで何も言ってこなかった。
この村は小さい。悪さをすればすぐに広まってしまうのだ。
余程の馬鹿でない限りこの村で問題は起こさないのだ。
村の入り口付近は見覚えのない建物が並んでいた。
いずれも冒険者達が利用するような施設らしい。何人かそれっぽい装備の人が入っていった。
「確かに人も建物も増えてますわねぇ。」
「やっぱり例のダンジョンが目的?」
「でしょうね。でなければこの村に居座ろうなんて物好きはいませんよ。」
リネの周辺には森、背後には山があり交通の便は悪い。
おまけに特産品と言えるような物も無く、誰からも注目されないような場所なのだ。
「取り敢えず寝る場所を探そうよ、村に来て野宿は流石に嫌かも。」
治安がいいとはいえ少女が夜中に道端で寝ていたらどうなることか。
太陽は沈み暗くなってきた。時間的に宿の予約が殺到し始める頃だ。
取り敢えずたまたま見つけた宿を訪ねていく。
運良く大部屋が空いており五人で泊まることにした。
「わぁっ!ふっかふかだ!」
真っ先にハンナがベッドにダイブした。
最近の彼女はベッドを見つけるなりダイブするようになっていた。
帝都では我慢できていたようだが。
「ん、悪くなさそう。」
「うぅ~、やはりこの辺は寒いですね。」
リネは背後の山から吹く風の関係で帝国で最も平均気温が低い。
特に雪が降る季節は北の魔族領に近い【レイヴォス寒冷地帯】に匹敵する寒さを誇る。
そんな様子を見てエミリアはある事を思い付く。
「じゃあこうしよう?」
そう言うと背中からレイラを抱き締めた。
「レイラは抱っこするとすごくあったかいの。皆でレイラを抱っこすればあったまるよ?」
エミリアの突然の抱擁、ほっぺたまでくっつけていた。
幼い少女の姿をしたフレイムドラゴンことレイラの体温は人間よりも高い。
ハグされたレイラは嬉しそうに目を細めていた。
「では私は暖まったお姉様を抱き締めますわ!」
何を考えたのかナタリーはレイラではなくエミリアに横から抱きつく。
何故か勝ち誇ったかのような顔で決めていた。
「え?ちが」
「あっ、ずるい!私も!」
負けじとハンナも反対側から抱きついた。
「いや私じゃなく」
「………っ!」
仲間外れは嫌だったのかクリスティアナは顔を赤くしながら後ろから抱きつく。
「クリスまで………。」
「ごめんなさい……。」
部屋のど真ん中で少女達が密集している様子は異様であった。
そしてエミリアの両腕と背中にはとても柔らかい物が押し当てられていた。
むにゅっとした感触は男性ならば興奮して、そのままベッドインする者もいるだろう。
しかし中心にいるのは女の子である。
自分より大きなブツを押し当てられちょっぴりご機嫌ななめ。
もげちまえばいいのに。
そんなエミリアも僅かな膨らみをふにっとレイラに押し当てていたりする。
「クリス、顔真っ赤だけど風邪?」
「だ、大丈夫ですっ。」
エミリアのベッドにはクリスティアナも入っていた。
全国共通なのかこの宿もベッドは四つだけ。
当然少女四人による熱く、醜い争いが始まった。「誰がエミリアと一緒に寝るか」を。
眠くなり見かねたエミリアが「自分が床で寝る」と言い出すと「絶対に駄目!」と四人一斉に言われ少しいじけた。
結局じゃんけんでクリスティアナが決まり、さっさと寝たいエミリアにベッドに入れられたのだ。
視界の端でハンカチを噛むナタリーは見なかったことにした。
………………寝られない。
クリスティアナは寝付きは悪くないつもりだった。
聖都にいた時も慣れないベッドで無理矢理目を閉じて眠ることができた。
まさか親友と同じベッドにいるだけで眠れなくなるとは思わなかった。
エミリアの静かな寝息が顔にかかるほど目一杯近くに寄っている。
意識をしてしまうとドキドキして余計に寝られなくなってしまう。
目の前にはエミリアの顔。
視線は下にいき小さな口に向いていく。
ふと良からぬことを思い付いてしまう。
今なら口づけしてもバレないのでは?
すぐに頭から振り払う。
自分を信じてくれる親友にそんなことはできない。
そう思いつつもエミリアに少しずつ顔を近づけていく。
自分はこんなにふしだらな人間だったのか?
こんなことをして嫌われたりしないだろうか?
二人の距離は縮まり、そして………………
翌朝、早起きのハンナが最初に見たものは燃え尽きたようにベッドに腰かけるクリスティアナであった。
「どうせ私はヘタレですよ…………私なんか…………」
悲壮感ただよう台詞を呟き続けるクリスティアナは数多くの魔物と対峙してきたハンナが思わず「ひぃっ?!」と情けない声をあげるほど不気味であったそうだ。
朝食は近くの喫茶店に決めた。
勿論この店は最近できたものだ。
寝坊助エミリアはハンナに担がれて入店させた。
好物のクロワッサンを口に突っ込むともきゅもきゅ食べ始め、ようやくいつものエミリアになる。
隣ではハンナがクロスボウの簡易メンテナンスを始めていた。
「あのさ。」
「お姉様、悩み事ですの?」
「んー、そんなところ。」
斜め前に座るナタリーはすぐにエミリアが何かに悩んでることに気づいたらしい。
「珍しいですね。」
「うん。」
膝に乗せたレイラを愛でながらエミリアは深刻そうに頷く。
「本当はもっと前から言おうと思ってたんだけどね。」
「そうでしたの………ではお姉様、どうか悩み事を打ち明けてくださいまし。」
「そうそう。私たちにできることなら何でも協力するよ。」
膝に乗るレイラもこくっと頷く。
エミリアは嬉しかった。
自分のために力になってくれる四人の仲間がとても心強く感じた。
ナタリーとクリスティアナは運ばれてきた紅茶に手を伸ばした。
「実はさ。」
「えぇ。」
「私のおっぱい揉んでくれない?」
「ごふっ!?」
「ぶーっ!!」
「みゃああ!?」
クリスティアナはむせた。
ナタリーははしたなく吹き出しハンナの顔面にクリーンヒットさせた。
エミリアは何がおかしいのかと首をかしげた。
「なっななっ!?」
「ごっほ、げっほ!」
クリスティアナは顔に紅茶がかかったまま狼狽した。
親友の投げた爆弾は想像以上の威力を持っていた。
ナタリーは噎せてとても会話はできそうにない。
ハンナも突然の顔面紅茶にパニックを起こしていた。
「お姉ちゃん、どうして揉んでほしいの?」
唯一まともに話せるレイラが聞いてみる。
「私はクリスと同い年でナタリーは年下。ハンナはともかく私だけおっぱい小さいのはやだ。」
「だからやってほしいの?」
「ん。ナタリーとクリスのは昔やった気がする。だから今大きいんじゃないのかって。」
実はまだ三人が村にいた頃、快活だったエミリアは悪ふざけでよく二人の胸を触っていたことがあった。
嫌がらなかったため調子に乗って良い声が出るまでやってしまった覚えがある。
「だから皆で私のおっぱい揉めばいつかは二人よりボインになれる。うん。」
朝から喫茶店で話す内容ではない。
まさか彼女の口からボインなどという台詞が出てくるとは思わなかった。
「じゃあ宿に帰ったら先にレイラ、お願いできる?」
「うん。」
どうやらこの後おっ始める気らしい。
ふとクリスティアナの脳内に何故か下着姿のエミリアが現れた。
「来て、クリス。貴女の手で私のおっぱいを育ててほしい。」
妖艶な笑みを浮かべたエミリアがベッドで手招きし、クリスティアナの両手を自分の胸へ………
ばたんっ!
「クリス!?」
自分の妄想に脳が処理できなくなった煩悩聖女は寝不足なのもあり気絶することで現実から逃げ出した。




