死神少女の母親
残酷な表現にご注意ください
【ベルセイン帝国 ハーベリア城】
「あ、お姉ちゃん!」
「エミリア!」
謁見の間から出てきたエミリアをちょうどレイラ達が見つけ駆け寄った。
二人に気づいたエミリアが腕を広げる…………が流石に体格差のあるハンナも一緒は無謀だったらしく、エミリアは受け止めきれず倒された。
「むぎゅう!」
半日会えなかっただけでこれである。
自力で脱出できないエミリアを助けようとナタリーとクリスティアナがハンナを引き剥がしにかかった。
「まぁ、英雄さんはモテモテね。私たちはお邪魔だし戻りましょう?」
影からみていたブリュンヒルデはお付きの侍女と部屋に戻った。
「少しは肩の荷が下りたのでは?」
「そうね、ニコルやエリオットも浮かばれるでしょうね。」
紅茶を飲んで一息ついたブリュンヒルデは建築ギルドへの依頼状を書き始めた。
ニコル・ルーベンスは帝国の元A級冒険者であった。
リネという田舎出身でありながら彼女は数多の冒険者の頂点の座に就いていた。
双剣の使い手であるニコルは『双剣姫』の二つ名で呼ばれることもあった。
そんな彼女は常に一人だった。
冒険者になって数年、彼女はあるパーティーと盗賊討伐の依頼を受けた。
彼女の双剣は既にそこらの盗賊では歯が立たないレベルに達していた。
強力な魔物も何体か討伐したこともある。相手がただの盗賊なら対したことはないだろう。
誤算だったのは盗賊のアジトに着いた時点で後ろにいた仲間から斬られたことだ。
無警戒だった背中の一撃でニコルは倒れてしまう。
下衆な笑みを浮かべた仲間だった男達はどうやら盗賊の繋がっていたらしい。
盗賊数人がニコルの身ぐるみを剥がしにかかる。
事態に気づいたギルドはすぐに救出部隊を送った。
移動力の高い軽装の冒険者が先んじて盗賊のアジトへと向かう。
夕方になりアジトへ辿り着いた彼らが見たのは地獄だった。
そこかしこに転がる死体。
その何れも顔を綺麗に剥ぎ取られていた。
冒険者達が絶句しているとアジトの中から悲鳴が聞こえた。
その場に駆けつけるとそこには半裸のニコルと裏切ったパーティーのリーダー格であろう男。
男が後退りしながら命乞いをするとニコルは笑みを浮かべた。
それは慈悲の笑みではなかった。
ニコルの剣が男の顎を貫く。そしてすかさずもう片方の剣が交差するように顎を貫く。
刺さった両方の剣が動きだし…………男の顔が切り取られた。
救出されたニコルはこれ以降ソロで冒険者を続けた。
皇太子妃ブリュンヒルデ、皇太子ハワード、騎士エリオットと出会うのはもう少し後のことである。




