未来戦争
時代はもう三十世紀に入ろうかという頃、地球は3つの大国と、ひとつの小国が支配していた。
4つの国は決して交わらず、互いに牽制し合っては時々争いを起こし、しかし決着はつかず、世界は平和とは程遠い。
そんなある日、A大国の持つ広大な砂漠に、宇宙船のようなものが墜落した。
A国はその宇宙船を調査した。地球では見たことのない形状をしていたが、乗員はいなかった。死体と思わしきモノも見つからず、宇宙船を解析したところ無人飛行船であること、そしてこれは地球よりはるか遠い星、それも人間の技術では行き着くことの出来ない銀河の、生命体から送られたことが分かった。
また、その飛行船にはひとつの贈り物があった。
小さな筒だ。しかし、開けてみると沢山の兵器が入っていた。
ある隊員が1枚の紙を見つけて、現場は騒然となる。
そこには、こう書かれていたのだ。
「拝啓 地球の人間へ。我々はお前達人間の、いや地球の創造主である。しかし我々の星もお前らに構ってやれるほど暇では無くなってきた。そのため、主権を放棄する。人間流でひとりの支配者を出せ。ひとつの代表国でもいい。その者には人間を全て滅ぼしうる力を与えよう。そして、地球の全てを。期日に使者を送る。その際には我が星に招待しよう。」
早速4国で会議が開かれた。四国会議は異例のことである。はじめは不満げなA国以外であったが、この手紙を見て色を変えた。
「話し合いで決めようか」
「いや、力の強いものが支配するのが自然の摂理だ」
「どうでもいい」
「やはり平和が1番だ。ならば、平和な星を統治できる国にその座は相応しい」
B国の王が言った。
「ならば、どうだろう。他の星にそれぞれの国が好きな生命体を送る。そして最も平和な星を築けた生命体を送った国を、我々の支配国とするのは」
「最も平和な星を作れるということは、地球をも平和にしてくれるはずだ」
「おお、それは高等な生命体である人間の王を決めるに相応しい」
「まさに、神となるわけか」
そうして、支配者を決める方法が決まった。
その頃の生物学ははるかに進んでいて、新たな生命体すら作り得た。また、ほんの少し探せば地球に似た星も見つけられた。
それぞれの国でどのような生物を送り込むか話し合いが行われた。それはそれぞれで少しは違っていたが、大まかに同じだったのは「人間」に近い生物だったことだ。
「我々のような高等な生物なら平和を築けるに違いない」
「いや、しかしいくらかは手を加えねばならぬ」
そうして、環境条件の似た星に、4つの船が送られた。
早期に決着をつけるため、地球とは時間軸の違う星が選ばれた。また、生殖力の類は軒並み強化された。
A国
ほとんど人間と同じ生命体が送られた。
1組のつがいは早速生殖を行い、それは時間とともに、増えていった。それはA国は自分たちを見ている気持ちに駆られた。それもそのはずで、彼らはその星に援助を送り続けたために、文化なども人間と同じになった。はじめは、それは平和を築いているように見えた。A国から送られる食料は豊富であったからだ。
しかしそれが文字を覚え、大きくまとまり出すと事態は変わる。支配者を求めて争い始めた。
まるで、人間と同じである。
違ったのは、A国は単純な力だけは弱めていた。
そのため、争いに体が耐えられず、それは滅びた。
自分たちに足りないものはない。そう奢った結果である。
B国
B国は元より平和な国であった。他の国とのいざこざはあれど、国内の治安は最もよく、ほか3国の国民はB国が地球をおさめれば良いとすら思っていた。
しかし、いかんせん人口が少なかった。
そのために、繁殖力がより強い個体を送り込んだ。
B国は賢明であった。送り込むつがいのオスのほうに、争いの虚しさを、メスの方に現代社会の現状を教え込んだ。こうすることで、両方が協力せざるを得ないようにしたのだ。
また物資も豊富に送り込んだ。
結果、B国の星は平和を築いた。両性が協力しあい、B国を凌ぐ平和を見せた。しかし、それが安定した頃に変化が起こる。人間界でいう、性暴力が横行した。
オスにしっかりと説いたはずの争いの虚しさは、性欲に負けてしまったのだ。人口は許容範囲を超えて膨れ上がり、食料は足りなくなり、B国はさらに物資を送る。そうこうするうちにB国は貧しくなってしまう。
彼らは星を放棄した。
自分たちに足りないものを補った、それでも何かが足りなかった。
C国
C国は商業大国であった。地球の多くの物がC国を経由し、多くの商人が集う。最も栄えた国であった。
しかし金が大きく絡んでくる分、C国の根底に潜む欲は膨大なものであった。詐欺、強盗などは当たり前。
金絡みの殺しも多かった。まさに富で着飾った虚構の繁栄である。
それを王はわかっていた。わかっていても、止められぬ。それほど金の力は、欲の力は恐ろしい。
そうだ、欲をなくせば平和になるのではないか?
食欲は、食料は我らの富でいくらでも援助できる。
性欲、無性生殖にすれば解決だ。
そうやってあらゆる欲を取り除いた人間が作られた。
王の期待を背負い送られたその個体は、C国の星につくと早速分裂を始めた。
その個体は着々と増えていく。食料も問題ない。
争いもない。よって、見た目上は平和である。
たいへんつまらない星だった。
ただ飯をくらい、分裂し、死ぬ。
それでもいい。平和であれば。C国が地球を治めることができる。
このままいけば、確実にC国が勝利するはずだった。
しかし、はやりここでも変化が起きた。
C国の星の個体は理性を持っていた。そして考え出したのだ。「自分たちはなぜ生きているのか」考え出すと止まらなかった。そして、行き着いた。自分たちは何も為さないし、何も成さない。自分たちが生きる意味はないのだ。では、生きてる意味があるだろう?
その個体は分裂を止めた。
平和は今も続く。
しかし、だんだんとその数は減り、その先は容易に想像がついた。
欲は争いを産み、かと言って無欲も生を脅かすのだ。
D国
D国は四国の中でも最も小さく、また貧しい国だった。近年の革命で王が変わったものの、その土地には資源もなく、手を差し伸べる国もなく、国民皆絶望しているような国だった。
D国は何を送ったのか、そしてどうなったのかを発表しなかった。
貧しい国が生物を創造することなど出来るはずもないだろう。ほか3国はそう見なして、さあどこが勝つのかと気が来でなかった。国家間の争いの殆どがこの三国によるものである。よって、どの国が支配者となるのかは重要なことであり、場合によっては反乱も起こさねばなるまいと考えていた。
一年経って、同じ砂漠に1機の飛行船が降り立った。
中からは一人の人間の女性が降りてきた。
「私は、γ星という星からきました。あなたがた地球人の支配者です。早速、どこの王が地球の代表となるのか、お聞かせ下さい」
A国の王が代表の決め方をその使者に教えた。
彼女に最終判断をくだしてもらおうとしたのだ。
使者はしばらく考え込んで、いった。
「では、1週間ほどお待ちください」
そうして、空へ飛び立った。
きっちり1週間後、使者は再び現れた。
4人の王はそれを丁重に迎え入れ、報告を待つ。
「では…」
4人の王は固唾を飲んだ。AかBかCか、地球の王が決まるのである。
「この代理戦争…いえ、未来戦争とでも言うべきでしょう。この未来戦争は、D国の勝利です」
4人は押し黙った。全く予想もしなかった国、それも最も貧しい国に自分たちが負けた。そう3人が沈黙し、まさか自分たちがというふうに1人が口を結んだ。
「我らが王の元へお連れします」
説明もないまま、D国王は使者と共に飛行船で空へ飛び立った。残された3人の王は呆然と立ち尽くしていた。
これから自分たちはD国に支配される。今まで虐げてきた国だ。D国はきっと、その恨みをはらさんとするに違いない。
3人の王は運命を、そして現実を嘆いた。
こうなれば、三国で手を結び、D国を滅ぼそう。そうすれば悩みの種はなくなり、かつ三国は結束する。
これで真の平和がやってくる。
「よくきた」
γ星の王を名乗るその生物は、おぞましい身なりをしていた。頭と、四肢が辛うじて判断できるが、人間よりもはるかに大きい。
ふと隣を見ると女性の身なりをしていた使者も同じ様な姿になっていた。
「お招き頂きありがとうございます」
D国王は震えるのをやっと押さえつけ、跪いた。
「いかにして王を決めた」
γ王は低く重い声で聞いた。
D国は未来戦争のルール、方法を教えた。
「ほう、お前達もそのやり方で」
D国王はその言葉の意味を図りかねて、尋ねる。
「かつて我々の星でもいくらかの王が権を争っていた。そして、お前達と同じく代理戦争を起こしたのだ。他の星に生物を送り、最も平和な星を作った者が王となるという条件でな。そして、私がお前達人間を送り込むことで勝利したのだ」
γ王は続ける。
「皆一様に自分たちに似せて優秀に作るから争いが起きた。だから私は敢えて低能な人間を送り込んで平和を築いたのだ。まさかそれがここまで賢くなるとは思ってもいなかったがな」
γ王は笑った。
「飛行船に同封したあの兵器、あれは使用すると人間を全て滅ぼすように出来ていたのだ。まさか、使用しない程聡いとは思わなかった。で、お前らはどうしたんだ?」
D国王はA国、B国、C国の結果を告げた。
「やはり、愚かだ。して、お前は?」
D国王は頭をあげて答えた。
「私は地球に住む、ある生物を送り込みました。それは目に見えないほど小さく、ただ呼吸のみを行う微生物です。そうすることで、善も、悪も、争いも全くないまさに平和な星を作ったのです」
それを聞いたγ王はさきほどよりも大きく笑った。
「なるほどな。思考すら持たぬ生物としたか」
D国王はその時のことを思った。金もなく、技術もない。あるのは支給された宇宙船と、ひとつの星。
そんな時に気がついた。送るのは人間でなくても良いのだ。もはや思考すら持たぬ生物ならば争いなど起こるはずもない。
そうして、D国内のある微生物が選ばれ、送られた。
「お前達は地球をどうしたい?」
γ王は聞いた。
「私の国はたいへん貧しく、争いの絶えない国でした。そこで数々の人間の醜い部分を見ました。革命を起こし、リーダーとなり、国を立て直そうにも、周りの国は手を差し伸べてくれませんでした。また、人間に絶望しました。私たちは人間である限り、醜く、また争いは避けられないのです。運良く人間の王となりましたが、もう人間でいることにうんざりするのです」
これにはγ王は何も答えなかった。
そんな時、急に誰かが駆けてくる音がした。
「大王様、急報です。地球で…」
γ王とD国王は同時にその使者を見た。
「A国王が我々の星の兵器をD国へ向け使用し、人間が全て滅びました」
γ王はD国王を見た。
「これで、真の平和が成ったな」