7 緊急手術
耳のすぐ上から針が出ている。そしてこめかみからも、ゆっくりと針が出ていた。顔には幾筋もの血が流れていた。ジョンの顔はみるみる蒼白になり白目をむいていた。
「緊急手術に踏み切る!急げ!針は動いているぞ!とにかく全部取り出すんだ」
ピーターは麻酔医に運転席にあった食べかけのランチのことを伝えた。
通常の手術では前夜から食事は禁止され胃の中には何もない状態にするが、緊急の場合はクラッシュインダクションと呼ばれる麻酔の方法をとる。
胃に食物が入っていると誤嚥性肺炎の危険性が高いと考えられる。十分な酸素化と胃内容物吸引の後、静脈麻酔薬と筋弛緩薬を一度に投与し、マスク換気を行わずに気管挿管を行う。
処置を行っている間にもジョンの額、眉の上からまた一本ズルリと出てきた。血が一筋目の中に流れ込む。
「急げ、どうなっているのかわからないが、この針は動いているようだ。危険な部位から取り出すことにする」
「まずは頭だ。もう一度レントゲンを!早く!いそげ!」頭皮の中に何本もの針が刺さっていた。
麻酔で深く眠ってはいるが、その間にも針は動きながら這い出てきた。手術専門の看護師は、出てくる針を受け止めては傷口を消毒し止血を繰り返す。
「こんなの見たことがない!」
ようやく手の消毒を終えたドクターウォルツが両手を挙げて手術室に入ってきた。
「どうなってる?」
「バイタルはしっかりしています。でも針は、まだ動きながら出てきます。今3本目です」
「よし、とにかく全部取り除く、フィルムを見せてくれ」