4 突き破る
もし仮に針が出てくる症状が黒魔術や呪いのたぐいだとしたらリリー以外考えられなかった。数多くの浮気相手は相手もそのつもりの大人の関係だったはずだ。
リリーは何回も何回もテキストメッセージを送ってきた。セクシーなというのはあまりにもどぎつい写真を送ってきたこともある。粘着質なリリーのことを甘く見ていたのかもしれない。距離を置いたとたんに呪いをかける?リリーならそれもあり得そうな気がした。
妻ケイトも俺を恨んでいるはずだ。しかし自分よりも現実主義者のような妻がそんなことをするわけはない。
「それによく考えてみろ。黒魔術だと?そんなものあるわけがない。だとしたらこれは一体何なんだ?」小さくつぶやきノートパソコンを閉じたその瞬間
またしても、あの激しい痛みがジョンを襲った。
「う、うわあ。くそ!勘弁してくれよ」今度はわき腹だ。すぐにシャツをめくると朝より太い針が柔らかいわき腹を内側から押し上げているところだった。ゆっくりと皮膚が盛り上がってくる。
腕どころではない激痛だ。
「やめてくれ!」あまりの痛みに顔が真っ赤になり汗が吹き出した。めまいが襲ってくる。 うめきながら、なんとかスマホを拾い上げる。腹を押さえながら震える指でピーターの番号を押した。
針はわき腹から腸の中を進むように動いている。激しい吐き気が襲ってきた。と同時にブツリと音がし、太い針がわき腹からずるずるゆっくりと出てきた。ポトリと運転席に針が落ちると、穴からどろりと血が流れる。
そしてまたそのすぐそばに激痛が走った。同じくグイグイと肌を持ち上げてはブツッと皮膚を突き破り足元にカチャン、と落ちる。
痛みに耐えかね車のドアを開けて嘔吐した。背中は汗でびっしょりで、白いワイシャツには血が滲みだしている。
わき腹、そして胸の真横。それは徐々に上に上がってきた。次はわきの下を硬い先端が付き上げる。そしてそのまま皮膚を突き破ってきた。
ブツリ カチャン
ブツリ カチャン
首の真横の皮膚を突き破ったときに、絶叫と共にジョンは気を失った。首から少し覗いていた針は自分の意志のような動きで、ずるり、とはい出てきた。