15 激しい憎しみの果てに
その時、トムが寝室に飛び込んできた。手には例の人形を持っている。
「ママできたよ!!おばあちゃんが作ってくれたんだ!!50針も縫ったんだよ、それに見てこれ!たった今、お目々もつけたんだよ!よくできたでしょう?」
ケイトは人形を見て今の電話のことを考えハッとした。
まさか、そんな。50針と言った。ピーターも50針と言ったのでは?トムはお目々もつけたんだよ、と。そしてピーターはたった今、目がつぶれた。と言ったのではなかったか?星占いさえ興味がない現実主義者のケイトだが、これは偶然とは考えられない。
瞬間、稲妻に撃たれたような衝撃がケイトを襲った。
全てのピースがぴたりとはまった。
「おかあさん、あの本ソファーに置いてあった本どこへやったの?」
急いでリビングに置きっぱなしだった買ってきた数冊の本を探し始めた。変わった小さな本屋だった。古い本が多く、絶版になった絵本と共にラテン語で書かれた古い本を興味本位で買ってみたのだ。ケイトにはラテン語が読めなかったが、趣があったし気分にぴったりだと思ったのだった。
今思えば表紙の皮の手触りも古い羊の皮のような奇妙な手触りだった。牛革よりも薄く、そして縮まり黄ばんでいた。あれは、もしかしたら人間の皮膚なんじゃないだろうか?とふと思った。あれはなにか魔術とか呪いの本だったのではないのかと。
「あの気味の悪い本?ラテン語なんて読めないくせに、どうして買ったの?ああ、ぞっとする」
「ない、どこにもないの。お母さん捨てたの?」
「そんな人のものを勝手に捨てたりしませんよ」
「ラテン語!読めるのよね?お母さん。あの本読んだの?」
「数ページだけよ。それにしても気味の悪い本だったわ。呪いのかけ方とか呪文が書いてあったわ」
もう間違いない、あの本だ。血が少しついていた人形に呪いがかかったのだ、とケイトは思わずにいられなかった。
実際には(相手の髪の毛)(肉親の血)(愛ある涙)(激しい憎しみ)そして(正確な呪文)と全てがそろっていた。
そしてなによりも、ケイトの悲しみが、憎しみがその本を呼び寄せた。
本屋の店主は「本があなたを選んだ」と言ってなかったか? 必要な人のもとへ、その人の所へ行くのかもしれない。
まさか、まさか、あの黒魔術がもし本当に起こったの? こんな偶然があるわけがないと思いながら、だったら、病院からの電話はなんだろうと考えた。
50本の針。
両目からも針。
そんなわけあるはずがないと思いながらも、だったら試してみてもいいわよね?
とケイトは思った。
そんなこと誰も信じられないだろう。
それに、これから何が起こったとしても、犯人はもう捕まっているわよね?
ケイトは突然笑いたくなった。 リリー、これから楽しみね
「トム、ありがとう。すごく良く出来てるね。寒そうだから洋服を着せてあげようか?あ、それより良いことがある。お父さんが探していた大事な大事なこのバッジを左胸につけてあげようね」
ジョンのバッジを取り上げて、力を込めて太いピンを左胸にぐっと突き刺した。
End