11 病室の告白
ジョンは部屋でナースに鎮痛剤をもらいプラスチックのカップの水にストローをさしてもらい飲んだ。
チラチラとジョンを見る目に嫌悪感が浮かんでいる。ジョンはまさか自分が「体中に針を刺してる変態男」と呼ばれているなどとは夢にも思っていなかった。
ドアが開く音がしてカーテンがひかれる。そこに立っていたのはリリーだった。
「ああ、もう本当に勘弁してくれよ」と口の中で小さくつぶやいた。
「もう行っていいわよ、この患者は私が面倒みるわ、それにジョン聞こえてるわよ、なんなのよ勘弁してくれって」
ニヤニヤしながら若い看護見習いは出て行った。
「体中が痛いと訴えているのに、失礼な連中だな。いったいどうしたって言うんだ」
「ああ、針の事。皆あなたが趣味でやったと思っているのよ」
「なんだって!」
「大きな声出さないで。だって他にどう考えたらいいのよ。医者は前もって体内になんらかの方法で植え込んでいたに決まってると言ってるわよ。でも私はね(あんなナルシストが特に顔に針を刺すわけないでしょう)とは言ったけどね、ピーターにだけど」
ピーターはどんな話をしたのだろうとジョンは考えた。
「君はどう思うんだ?何かしたんじゃないのか?例えば俺が寝ている間に体の中に何らかの方法で……」言い終わらないうちにリリーは大笑いを始めた。
「そんなすごいことができたら、私は今頃優秀な外科医になってるわよ」
「なにも切開して埋めたとは言ってない。俺は信じていなかったけど呪いのたぐいだとか、そういうのなのか?好きだったろ?そういうの。怪しい店とか」
「ふん、バッカじゃないの?頭の針が深く刺さりすぎて脳に届いたんじゃないの?そんなことあるわけないじゃない。でもね、あったらいいなと思ったわよ、あなたが冷たいから。ブードゥーなんて本当に効くらしいわね、あとジャパンにも藁人形の呪いっていうのがあるらしいわ。真夜中に藁で作った人形にくぎを刺すんだって。呪いって本当にあるものなのよ」
「やめてくれ」
その時に部屋にケイトの親友のマリーマッケンジーが入ってきた。
「マ!マリー!いったいどうして!違うんだ、リリーは今夜当直なだけで……」
一か月前の修羅場を思い出し、またケイトに告げ口されたら大変だと慌てて言った。
「あらマリー早かったわね? 私が呼んだの。そうよね?マリー」
「ええそうよ、リリーが電話をくれたの」
「いいチャンスが来たわよって。ついでに言うとあの日のこともね、私がマリーに教えたのよ。今日ジョンと会うけど写真でも撮る?ケイトに教えてあげたら?って」
「は?いったいどういうことなんだ?」マリーはくすっと笑い、リリーの手をとり抱き寄せキスをした。
ジョンは飛び出さんばかりの目でそれを見た。言葉が出てこなかった。
「ジョン、私ね、病院でリリーを一目見て惹かれてしまったのよ。なんて美しいんだろうって。私は女性が好きなのよ、リリーはすっごくタイプだった。会うようになったんだけどね、なんとあなたと浮気しているって言うじゃない。ケイトの友達としても許せなかったわ。そしてあなたはケイトともリリーとも別れるべきだと思ったのよ。これほどうまく運ぶとは驚きだった」
マリーは話しながらリリーの背中に手をまわし、愛しそうに動かし続けた。
「なんていうことだ君たちが……」
「ええ、そうよ。でね、いいチャンスが来たわよってマリーに電話したのよ、ね?」リリーはグロスがたっぷりついた赤い唇でにやにやと笑いながらマリーに言った。
「なんだ、チャンスって!」
「50本も針が刺さってたんだもんね、もう2,3本増えてもいいんじゃないかしらね?」とリリーは注射器の針を取り出しながら笑った。
「太い針を頸動脈に突き立てた。なんていうのもいいかもしれないわね、ああ注射針で空気を入れてみた、とかね」
「ばかな!やめろ!」と叫びかけたジョンの口に乱暴にガーゼの束を押し込んだ。
「ナースコールは切ってあるわよ。あなたにはもう飽きたし、この私を無視するなんて絶対に許せない。マリーもあなたを死ぬほど憎んでいるの。ケイトもかもね? ああ、シナリオはね、患者は恥ずかしさのために自殺。これがいいわよね?でもその前にもう一度お楽しみをした。っていうのはどうかしらね?ペニスに針が何本も刺さっていた。なんていうのもおもしろいわよね、患者は入院中も我慢できなかったって」
そういいながら注射針を手にリリーはジョンの足元のシーツをめくった。