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1―2

 

「あの・・・」

「なんでしょう?」

「えっと・・・」


 馬を走らせてから3分弱。しかし体感はそれ以上に感じられる。

 毛布に包まれ荷物と化し、見知らぬ男に抱きかかえられ、そのうえ馬の揺れが容赦なく襲ってくる。頭はまだ現実を処理できていない。黙っているのにも意味がないと、ようやく判断した。


「ああ、すみません。俺もちょっと戸惑っていて・・・。説明、要りますよね」


 上に見える男の顔は前を見たままだったが、少し困ったような、それでもやはり優しいような、そんな笑い方をした。


「どこから説明すればいいのやら・・・」

「そ、その前に・・・して・・・」

「え?」

「降ろして・・・気持ち悪い・・・うっぷ」

「ちょ、ちょっと待ってください!もう少しで休めそうな場所に着きますから!・・・急ぎますね! ハッ!」


 それを合図に馬の速度はさらに上がり、揺れは倍増した。これはひどい。逆効果である。



 ―――――――――



 気が付くと木陰に横たわっていた。また寝ていたのだろうか。先ほどの毛布が掛けられている。

 遠くから小鳥の囀りが響き、日差しが木陰で遮られて丁度よく、風もそよそよと心地よい。


「目が覚めましたか。すみません、気が付かなくて。気分はどうです?」


 そう言いながら男はこちらに向かって歩いてきた。手に皮袋を持って。


「ん・・・今は、大丈夫・・・です」

「馬に酔ってしまったんですね」


 毛布に巻き直しながらムクリと体を起こすと、目の前には綺麗な湖が広がっていた。


「ここは・・・?」

「ルーウェル湖です。小さい湖ですけど、ここの水は澄んでいてとても綺麗なんですよ」


 優しく微笑みながら答えた男は、「はい」と手に持っていた皮袋を差し出す。


「ここの水です。大丈夫、飲めますよ」


 そういえば、喉がカラカラだったことを思い出す。思い出した瞬間、身体が水を求めた。

 一口飲み込むと、身体に水分が染みこむのを感じた。それを皮切りに、ゴクゴクと水を流し飲んだ。喉は砂漠、身体は干からびた海綿のように水を吸う。


「もう少しで俺たちのキャンプ地へ着きます。そこには食べ物もありますので」

「あ、ありがとう・・・ございます。えっと・・その・・・」

「ラウ・オーウェンです。ラウと呼んでください」

「ありがとう、ラウ」


 ラウ・オーウェンと名乗るその男は、また優しく微笑むと、今度は乗ってきた馬を湖へ連れて行き水を飲ませた。

 見渡せる広さしかない湖だが、その水面は日の光が反射しキラキラと輝いているように見える。どのくらいの深さなのだろうか。布を引きずりながら湖に近づき覗き込んだ。

 ただ湖を見ようとしただけなのに、その水面に見覚えのない姿を発見し固まった。サラサラの白い髪に幼い顔、大きな目は紫の色を宿しており、それは布を纏った幼い子供の姿だった。

 突然現れた少年の姿に驚くも、その表情の動き、巻かれている布を見て、それが“自分”なのだと気づいた。


「あ・・・あの・・・」

「どうしたんですか、陛下?」


 口が、声が、指が、全身が震える。急に目覚めた自我に気づいた。頭がやっと働きだしたのだ。




「僕は・・・誰・・・?」




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