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1―1

 ―ガタン・・・ガタンッ・・・―


 ぼんやりとした意識の中、「ひどい揺れ」を感じて目を開けた。

 まるで長い夢から覚めたかような感覚。自分は寝ていたのだろうか。しかし今、目を開けてるはずなのに、目の前は真っ暗で何も見えない。とりあえず身体に力を入れようとするが―――


「ッ!」


 全身に走る痛みに、思わず声にならない悲鳴を上げた。

 次に気づいたことは、自身が仰向けに横なってることと、この場所が揺れてるということ。


 ―ガタッガタン・・・―


 弾むような縦揺れが続いており、そのせいか全身が痛い。それに少し、体の動きも硬い気がする。わけもわからず、体を起こそうとすると・・・


 ガンッ


「いいいっっっ・・・!」


 頭(正確には額)に激痛が走った。暗闇の中、すぐ頭上に天井でもあるかのよう。そう思って周りを手で探ってみると・・・


 前、壁。

 両脇、壁。

 頭上、足下ともに壁。


 完全に身動きが取れない。まさか、閉じ込められているのだろうか。

 暗い、狭い、怖い・・・突然恐怖に襲われた。


「誰か・・・誰かいませんか!?助けて!出して!!」


 命一杯叫んだ。叫んだのだが・・・


「助けゲホッ!ゲホケホ・・・!」


 喉が痛い。まるで長い間水分を取っていなかったかのように、喉がカラカラだった。

 このままでは死んでしまう。そう直感し、ゾッとした。


「誰か!誰か!!」 ―ドンドンドンッ―


 暗闇の中、必死で目の前の天井を叩く。

 するとどうだろう。声が届いたのか、それまで不規則に続いていた「ひどい揺れ」が収まったのだ。

 ここから出られるのか、それともさらに何か恐ろしいことが起こるのか・・・。静寂が何を意味するのか、情報量の少ないこの現状では予測ができない。

 だが時間を置かず外から男の荒げた声が聞こえてきた。地面が少し揺れ、頭上から足音が聞こえる。

 誰かいる!その安堵からすぐに、助けを求めなければと再度目の前の壁を叩いた。


「ねぇ!こっち!」


 声が届くように精一杯の力で音を出すが、それが本当に大声になっているのか、自分ではよく分からない。しかしその甲斐むなしく、足音は頭上から足元へ、そしてさらに遠くへ走っていってしまう。


「待って!」


 必死で叫んだ声は届かなかった。取り残されてしまうと感じた瞬間、目の奥から熱さと痛みを感じる。そして涙が溢れてきた。不安、恐怖、寂しさ、孤独がいっぺんにのし掛かってくる。

 だが終わりではなかった。今度は遠くで、キンッキンッと金属同士がぶつかる音が聞こえてきたのだ。その音が鳴り止むと、足音が走ってこちらに近づいてきた。


「ああ、良かった。見つけた。」


 男の声であった。その声に馴染みはないが、今はそんなことどうでもいい。ついに誰かが気づいてくれたのだ。やっと真っ暗なこの狭い空間から出られる。


「中身は無事だろうか・・・」


 男は呟いた。「中身」・・・それは自分のことだろうか。返答してよいものか一瞬迷ったが、今は助けを求めるほうが先決だろう。


「こ、ここにいるの!だから出して!開けて!」


 外の男が何者なのかは分からない。だが、彼はきっと探しに来てくれたのだろう。ならば、助けてくれるはず。


「な!?しゃべっ・・・!?お目覚めになられたんですね陛下!今開けます!」


 男はなぜか驚いた様な声色になった。自分を探しに来たのではないのか?”陛下”とは?

 よく判らないが、とにかく今は、ここから出して欲しいのだ。疑問なんてどうでもいい。

 そして目の前の壁が、ゆっくりと横にずれていく。


 ガガガガッ・・・ガタン


 眩しさに目がくらんだ。

 今までの真っ暗闇に目が慣れてしまったのか、少しの光でさえ目に刺さるような刺激だと感じるのだ。

 天には太陽、青い空、少し肌寒い風。外は真昼間の外地なのだった。未だ目が明けられず周りの状況が確認できないが、涙と鼻水を垂らし、ぎゅっと目をつぶっているその顔は、とても不細工なことだろう。


「あぁ、良かった。どこも怪我はしていないようですね。ご無事で何よりです」


 とても優しい、男の声だ。光の刺激を警戒し、慎重に目を開ける。少しずつその人の輪郭が見えてきた。

 目の前には素敵な微笑を浮かべる男性が、膝をついてこちらの手をとっていた。ブラウン色の少し伸びた髪が風で揺れている。その少し後ろに、彼が乗ってきたのであろう栗毛色の馬もまたこちらを見ていた。


 「あ、ありがとう・・・」


 ズズッと鼻水をすすりながら、暗闇から出られたことに感謝をするが、その男に面識はなく、心配されたことに少し戸惑う。

 時間を置いて、肌寒さを認識すると、


 「へあっ・・・へぁっくし!」


 大きなくしゃみをした。

 ああ、中は暖かかったのか・・・そう思ったが、違った。


 「今何か着る物を・・・」


 そう言って男は、馬の荷物から大きめの布を取り出し、それを被せてきた。

 そこで気づく・・・自分は素っ裸だと。


 「ひっ!!」


 とっさにしゃがんだ。そして布で全身を覆った。中が暖かかったんじゃない、裸だから寒いのだ。


 「(ななな、なんで裸!?)」

 「すみません、まさか、その・・・今起きるとは思ってなかったので、服は持ち合わせていないんです。今はそれで我慢してください。あとで城に帰れば、服も用意されるでしょう」


 男は少し困ったように頭を搔いた。しかし自分が裸だということには、あまり驚いていない様子。こっちは恥ずかしさで顔から火が噴きそうなのに。

 自分の状況を認識した途端、周りの状況をも認識し始める。自分が閉じ込められていたもの。それは黒く、人一人が丁度納まる大きさだった。その形はまるで棺桶のよう。だがよく見ると、所々に宝石や金属で綺麗な装飾がされていた。そして、揺れの原因も分かった。この箱共々自分は馬車の荷車に積まれていたのだ。


 「さ、急ぎましょう。追っ手が来たら面倒ですからね」


軽々と男にお姫様抱っこされた。男はそのまま荷車から降り、馬に跨る。


 「えっあの、ちょっと!」


 有無を言わさず(というか何を言えばいいのか分からないこの状況で)男は馬の手綱を力強く引くと、馬は前足を浮かせ嘶きそのまま勢いよく走り出した。訳も分からないまま馬に乗せられ連れて行かれるというこの状況に、到底思考が追いつかない。なすがままとはこのことだ。ふと先ほど居た方向に目を向けたとき、先程の馬車の近くに、何かが・・・人が、倒れているように見えた。


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