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「母さんただいま。」


玄関を勢いよく開け、久しぶりに実家に帰宅したアルヴァンが目にしたものは最後に見た時と全く変わらない母親、そして見たことのない若い女性であった。

アルヴァンは冒険者にしては珍しく家族との交流がある。

実家は王都の普通の雑貨店、現在は彼の兄が中心となって切り盛りしている。

次男のアルヴァンは冒険者、妹は嫁に出ており、末っ子の弟は学園都市で学園に通っている。


「あら、おかえり。いつまでいるの?」


2年ぶりに帰宅した息子にかける言葉としては何とも素っ気ない返事を返した彼の母親は見知らぬ女性から目を離さない。

どうやらドレスのサイズの最終調整をしているようだ。

女性のファッションには微塵も興味がないアルヴァンでさえそれが結婚式で切るウェディングドレスであることに気づいた。


「さあ、気が向いたら出てく。その人誰?」


息子の方は母親よりもさらに素っ気ない返事を返し、目の前で起こっている「見知らぬ女性のドレスを手直しす母親」という構図に疑問を呈した。


「あなたの兄のお嫁さんよ、美人でしょ。来週結婚するの。」


「ふーん。」


アルヴァンは興味がないことが丸分かりな返答をして、部屋を後にした。

来週結婚するのか、この家から自分の部屋が消える日も近いのかもしれないと思いながら彼はまだ残っているであろう自室に入って行った。


久々に入った自室が思いのほか綺麗なことに感心しながらアルヴァンはふと、結婚祝いは何にしようかと思い悩んだ。

ソロで活動しているB級冒険者である彼はよく稼ぐ。

持っているものは剣士としての腕前、お金、魔物の素材。

取りあえず結婚祝いに使えるものは金だけだな、そう判断した彼は入ったばかりの部屋をすぐに出て久しぶりに王都のにぎやかな商業地区を目指した。






なぜこうなったのだろう?確か自分は商業地区で兄とその嫁の結婚祝いを探していたはずである、そう思いながらいつもの怖い顔をさらにしかめてアルヴァンはギルドの応接室でギルドマスターと対峙していた。


「何なの?要件を早く言ってよ。」


イライラしていることを隠そうともせず、目の前のギルドの重鎮にそう言い放つ彼は意図しているのか、していないのかとても威圧的だ。

荒くれ者の冒険者を御すギルドマスターは多くの場面で暴力(ちから)を求められる。

どんな単細胞の脳筋であろうと強者に従うという生物としての本能は健在だからである。

そんなギルドマスター(きょうしゃ)をここまで蔑ろにできる冒険者も珍しい。


「君はとある特殊な依頼に同行してもらいたいのだヨ。拒否権はもちろんある。」


「内容は?あと期間?来週は無理だから。」


「条件は特殊だけど基本的には護衛だヨ。商業都市までの護衛、来週までには帰れるサ。」


「来週?どう考えても無理でしょ。商業都市は馬で3・4日かかるじゃん。」


どこからどう考えても訳ありとしか考えられない内容にアルヴァンは戸惑っていた。

彼は戦うことが好きだ、だから基本的に討伐依頼、迷宮での素材集めの依頼しか受けない。

護衛依頼などC級、B級に上がるために必要な最低回数しかこなしていない。

そんな自分にこの依頼を振るなどギルドは何を考えているのだろう、そのような考えに至る『常識』があることが冒険者として普通でないことに彼は気付かない。


「迷宮の転移魔法陣をうまく使う冒険者がいてネ。ただ彼は護衛依頼をしたことがないし、非常識だから少し心配なんダ。君に求められるのは速く長く走れることと一般人への気遣いだネ。」


「来週までに王都に送ってくれる、商業都市で買い物する時間があるなら受けてもいいよ。」


商業都市は国の流通の要であり、珍しい結婚祝いが手に入ると予想される。

来週までに商業都市を往復できる弾丸ツアーが目当てでこの依頼を受けることにしたようだ。

迷宮の転移魔法陣を使用すると聞いて、便利じゃん、としか思わない大胆さも冒険者として普通でないことに彼は気付かない。


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