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冒険者歴3年とは大体の者にとって、新米をやっと卒業したが実績的にも実力的にも中堅には届かない、そんな時期である。

もちろん例外はいる。冒険者登録する前から剣や魔法を学んでいた者たちや初めから実力のあるパーティーに所属している者たちは当てはまらない。

そんな例外の1人が例の『伝書鳩』ことレオンハルトである。

彼は冒険者歴3年にして、先日見事『新米と中堅』の壁と言われているD級冒険者になった。


多くの冒険者が3年間では実力的にも実績的にも中堅には届かない理由、それはただ単に依頼に失敗して評価を落としたり、分不相応な依頼で怪我をして休業したりするからだ。

レオンハルトの場合は荷物運びの依頼ばかり受けているため討伐の失敗や引き際を誤ることによる怪我がないのである。

もちろん、手紙をはじめとする運搬依頼にもトラブルはつきものだ。

期限内に届けられなかった、雨に濡れてしまった、魔物の血が付いた、等々…。

ただし、すべての失敗がレオンハルトには縁のないものであるだけだ。

しかもこの青年、外見もとっつきやすく人当たりも良い、依頼人とトラブルになることがほとんどないのだ。


そんな中堅冒険者レオンハルトの一日は宿の部屋での起床から始まる。

並みの中堅冒険者では手が届かない1人部屋に宿泊している彼の朝は冒険者にしては遅い。

一般的な冒険者は金使いが荒いためパーティーで一部屋や雑魚寝部屋などとにかく大人数で宿泊する。

そのため、1人が起き出すと皆が目覚めてしまい彼らの朝は意外に早いのだ。

その点、金を使う事も、予定もないレオンハルトはパーティーがいないことも災いして1人部屋に宿泊している。

彼は周りの宿泊客(大半が観光客)とともに遅めの朝食を楽しむのが日課となっていた。


レオンハルトは朝食を終えると高確率でのんびりとギルドに向かう。

ギルドに入ると依頼が張ってあるボードを眺める、めぼしいものがあれば受理、何もない時はただの暇つぶしになる。

多くの冒険者は割の良い依頼を手に入れるために朝早くからギルドに赴くが、人気のない荷物運びばかり受ける彼にはそんなこと関係ない。

ボケっとしているとギルドの職員に話しかけられることもしばしば、そんな時は大体指名依頼の手紙の配達だ。


依頼を受理しようがしまいが彼は焦らない。

ギルドから出て市場を見て回り何も買わないまま宿へ帰還、遅めの昼食を食べて部屋でゴロゴロ、依頼は明日頑張ろうと誓い就寝。

これが彼の一日だ。一般人からしてみれば実に羨ましい一日を過ごしている。






しかし、この日はそんな彼の変わらぬはずだった日常にほんの少しの邪魔が入った。

久しぶりに冒険者に絡まれたのである。

冒険者としてギルドに登録した日に生身の腕で謎の防御力を発揮して以降ほとんど絡まれなくなったため、約3年ぶりの出来事であり、ギルド内はざわついていた。


「お前『伝書鳩』のくせに強いらしいじゃん、俺と手合わせしてよ。」と言ってレオンハルトに話しかけたのは背が高く20代前半と思われるいかにも剣士風な青年だった。

端正な顔立ちではあるが万人受けしない刃のような雰囲気を醸し出していた。

『伝書鳩』と呼ぶことで相手を怒らせて手合わせに持ち込もうという算段で彼はレオンハルトに話しかけたが、話しかけられた当人には全くその意図は伝わっていなかった。


「手合わせ!いいですよー。でも、俺剣使えません。」


レオンハルトの方は久しぶりに冒険者に話かけてもらえてテンションが絶賛上昇中であったのだ。

彼は顔には出てないが、冒険者になって3年もたつのに友達がいないことを地味に気にしていた。


「誤魔化しても無駄だよ。剣を生身の腕で受け止めたっていう噂は聞いてる。そんな人なら剣士と勝負できるでしょ。」


目をくわっと見開きレオンハルトに迫る青年の正体をギルドにいる全員が悟った。

ギルドにはたまにいるのだ、何よりも戦うことが好きな戦闘狂、つまり彼のような人間が。


「いや、身体が丈夫なことは認めるけど、魔法師なので剣は無理です!5歳の頃に頭が悪すぎて剣は向かないって言われて以降触ってないから…。」


「何を言ってるの。剣士になれないようなおバカさんが頭を使う魔法師になれるわけないじゃん。言い訳ばっかりしてないで観念しなよ。」


脳筋な戦闘狂と剣士にもなれないおバカさんでは話がいっこうに進む気配がない。

周囲は同じ内容をぐるぐるする会話に辟易していたが、彼らの会話に口出ししようなどという勇者はギルドにはいないようである。



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