表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

時間経過と行動の整理

 密室の検証って言われてもなあ。メロスに政治がわからぬように、私はミステリがわからぬ。小雨は心の中で一人ごちた。俯して、卓袱台の木目を見る。

 子供の頃は、天井やテーブルの木目をじっと眺めていると、人の顔だったり、何かの絵に見えたりしたものだったが、最近はなんにも見えなくなってしまった。これが成長というものだろうか。少し寂しくなった。パジャマの胸元のボタンが一つ外れているのに気が付いたが、今更留めるのも面倒くさい。


 推理小説というものを読んだことがないわけではない。何冊かは読んだことがあるのだが、どうして探偵というやつはあんなに人を小馬鹿にしたような人間ばかりなのだろうか。鼻持ちならない。

 それで、私のような凡人が、ない知恵を振り絞ってひねり出した推理は大体外れていて、いけすかない探偵野郎に鼻で笑われてしまうのだ。おいしいところは全部探偵野郎が持っていく。

 しかも、そのトリックから全体のプロット、探偵のキャラクターまで、全てを考えているのはもちろん作者であるので、畢竟、ワトソンの目を通してしか作品世界を見られない読者が、ホームズを気取った作者に馬鹿にされているわけだ。そう考えてみると、探偵野郎の性格がおしなべて高慢で、秘密主義で、キザで、超然としていて、エトセトラ、である理由も自ずと知れよう。


「じゃあまず、犯行前後の時間経過と、各人の行動を整理してみましょうか」


真紀はノリノリである。こっちの真紀がミステリを読んでいるところなんて見たことがないのだが、根が真面目だから、まとめるのが好きなのだろう。学級委員長に立候補するタイプだ。普段ぶりっ子に振る舞っているけれど、頭の中は女王様の真紀より冷徹な思考回路を持っているであろう事に、私は気付いている。


「まず、夕食を終えたのが20時過ぎ。天気が悪くなりそうだったから、私達と先輩、心美ちゃんは夕食後すぐに離れに移動。袴田夫妻は、その後しばらくリビングでテレビを見ながら時間を潰したあと、22時前後に2階の夫妻の部屋へ戻ったそうよ。吉川夫妻は、夕食の後片付けをして、部屋で一休みしてから、22時頃に厨房に戻って明日の料理の下ごしらえを始めた。この時、飲み物を取りに来た袴田繁幸氏と二、三会話しているわ。その後も何度か、夫妻が1階のお手洗いに立った際、調理中の吉川夫妻を見かけたそうよ。23時過ぎには一通りの仕事を終えて、部屋に戻る」


警察ってそんな細かい事まで調べるのか、そしてそれを真紀は全部暗記しているのか……という、二重の驚きがあった。これが刑事ドラマの台詞だったら、間違いなくNG大賞に採用されているだろう。


「袴田夫妻も23時過ぎにベッドに入ったそうだけど、繁幸氏はこのところ不眠に悩まされていて、今夜もなかなか寝付けず、睡眠導入剤を飲もうかと起きたところで、瞬の姿が目に入ったそうよ」

「なるほど、あの時別荘の2階から見えた明かりは繁幸さんの部屋からだったのか」


瞬が小さく頷いた。


「心美ちゃんは21時半ごろに私達の部屋にやってきた。どれぐらい話したのかな……小雨、覚えてる?」


急に話を振られて、若干キョドる。


「あ~、え~と……1時間ぐらいかな…?2時間はかかってないと思うよ」

「そう、それぐらいね。瞬は?何時頃から先輩の部屋にいたの?」


瞬は顎をさすりながら、天井を眺める。どうも、さっきから天井ばかり見ているような気がする。ぽつぽつと、生えたての髭が顔を出しているのが見える。


「う~ん、23時ぐらいかな?俺は離れに戻ってすぐに部屋でうたた寝してて、先輩からラインが来てたのに気付かなかったんだよ。で、起きて慌てて部屋に行ったのが23時ぐらいだった」


三時間はうたた寝のレベルを超えている。普段から、瞬は部屋を暗くしている事が多く、よくそのまま寝てしまうのだ。


「ふむふむ……先輩の部屋から戻ってきたのは?」

「たしか……0時ぐらいじゃなかったかな」


そこで急に、真紀の声のトーンが一段下がった。


「それで?心美ちゃんが来たのは?」

「そ、それからすぐにだよ……」

「どれぐらいお話ししたの?」

「どれぐらいって……30分か40分ぐらいかな……そんな、時計を見て確認したわけじゃないけど」

「楽しかった?」

「ん~まあ、それなりに……ってそれ、事件と関係あるのか?」


瞬は少し口を曲げて答えた。妙に芝居がかっている。


「ふ~~~ん……よかったねえ?」


真紀のふ~~~ん、という声にドスが利いていた。


「そして、先輩の悲鳴を聞いた。そこから先は、さっきまとめた通りね」

「そうだな。別荘に向かってから離れに戻ってくるまで、10分ぐらいはかかったかな……」


真紀が、ふう、と一つ大きなため息をついた。いつの間にか、声のトーンも元に戻っている。


「これで、関係者全員の行動は整理できた、と……さて、それでは、密室の検討に入りましょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ