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初対面

 ドンドンドン!


 扉を激しく叩く音で、小雨の意識はうっすらと目覚めた。

 ここはどこかの山荘だったかしら……でも、鉄球にしては大したことないな……そんな事を考えながら、隣のベッドの真紀を見る。真紀はまだすやすやと眠っていた。頭に靄がかかったようで、なかなかはっきりと目が覚めない。頭痛もひどかった。一体さっきの音は何だろう。


「小雨!真紀!おい、起きろ!」


男の声が聞こえる。瞬の声のようだ。何事だろう。夜這いにしては大胆すぎる。ぼんやりと窓の外を見たが、外はまだ真っ暗だ。もう一度寝直そう……と、毛布を被った。


「おい!寝てるのか!大変な事が起こったんだよ!袴田先輩が死んでるんだ!」


オカマがシンデレラ……?なんじゃそりゃ……どうも、まだ頭が回らない。だが突然、隣の真紀が布団を蹴り飛ばして起き上がった。さっきまで爆睡していたのに、スッキリと目が覚めているようだ。仕方なく、毛布を体に巻き付けながら体を起こす。え~と、さっき瞬はなんて言っていたっけ……

 瞬はまだドアをガンガン叩いているらしい。真紀が飛んで行って、ドアを開けた。ドアに体重を預けていたらしい瞬は、勢いで部屋に前のめりで転がり込んできた。


「いっててて……」

「どういう事なの?瞬、説明しなさい」

「だから、先輩が死んでるんだよ……」


どこか打ったのか、腕や脛のあたりを擦りながら瞬は体を起こした。


「あれ、お前……真紀?」


そうか、瞬はこっちの真紀を初めて見るのか。鳩が豆鉄砲を食らったような顔で真紀を見ている。


「そうよ、私が真紀」

「は……初めまして」

「今更そんな事はいいから、さっさと説明しなさい」


瞬は立ち上がって、現場の状況を説明した。


「お前たちのところは、何も変わったところはなかった……ですか?」


初対面の真紀に気圧されて日本語がおかしくなっている。


「何もないよ。……殺されたの?」

「いや、よくわからない……もうすぐ、警察が来る。詳しいことは、それからじゃないか」


瞬の話を聞くが早いか、真紀はネグリジェ姿のまま部屋を出て行った。


「あっ、おい、待てよ」


瞬も慌てて後を追う。私も毛布を羽織ったままついていった。


 部屋の前では、既に繁幸さん、吉川さんと真紀がゴタついている。


「君、部屋に入っちゃいかんよ、何なんだ一体……」


吉川さんがドアを体で塞いでいる。所謂とおせんぼだ。瞬が慌てて間に入る。


「すみません、ちょっと寝ぼけてるみたいで……」


むすっとした顔で突っ立っている真紀を、無理矢理自分の後ろへ押し込んだ。


 しばらく、皆無言になった。いつの間にか雨音が聞こえなくなっている。繁幸さんと吉川……忠司さんだったか、二人が憔悴した表情で立ち尽くしている。その向こうに、廊下にへたり込むように座っている心美ちゃんと、母親の良子さんが見えた。心美ちゃんは、さっき私達の部屋を訪れた時の部屋着のような服装ではなかった。青いワンピース。パジャマのようにも見えないし、メイクも落としていなかった。


 私にもようやく、ここでたった今人が死んだのだ、という事を実感できるようになった。まだ頭はぼんやりしているけれど、空気が片栗粉のように固く、重く沈殿している。何か言うべきだろうか、と考えたけれど、かけるべき言葉も見つからない。私も、瞬も、真紀も、しばらく案山子みたいにじっと立ち尽くしていた。


 それから数分後、真紀が突然踵を返してスタスタと部屋に引き上げていった。ネグリジェだけではさすがに寒くなってきたのだろうか。私はいつものくまさんのパジャマを着ていたが、それでもしんみりと肌寒さを感じ、毛布を羽織る手をきゅっと引き締めた。こんな状況でこんな柄のパジャマを着ている自分が随分間抜けに思われたが、まさかこんな事件が起こるなんて聞いていなかったんだから、仕方がない。


 程なくして、外が騒がしくなってきた。警察が到着したのだろう。吉川夫人の景子さんが、警察を離れまで案内してきた。警察を待っていたかのように部屋から出てきた真紀は、さすがに髪は巻いていなかったが、タンクトップとタイトスカートに着替え、しっかりと化粧をしていた。

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