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プロローグ 真紀の章

鏡の中にいる少女を見つめながら、真紀は、この子を笑わせてあげたいと思った。

いつも憂鬱そうな表情の、美しい女の子。

双子のようによく似た、この綺麗な女の子の笑顔を、真紀はまだ見た事がない。


黒く大きな瞳が、まっすぐこちらを見つめている。

薔薇の花弁のような小さな唇が、今にも動き出して、囁きかけてくるように……

真紀が静かに俯くと、彼女もまた俯き、長い黒髪が静かに揺れた。


「綺麗だね」

「美人さんね」

真紀はよくそう言われる。

だが、写真で見る自分の顔は、いつも伏し目がちで、無表情で、

フレームの中に閉じ込められた自分が、棺に納められた死体のように見えた。

自分は本当に生きているのだろうか。

腐敗しない死体、人形のような存在なのではないだろうか。


窓の外に広がる花壇を眺める。

陽の光を浴びながら、色とりどりの花が咲き乱れていた。

それぞれに自らの美しさを主張する花々、その生命力が、羨ましく思えた。

花は美しい。

花は生きている。

花は生きているから美しい。

美しい花と私との違いは、生きているか、死んでいるかということ……。

そして、花は生きているから、「かわいい」と褒められる。


真紀は一度も「かわいい」と言われた事がなかった。


きっと自分には無理だと思う。

無理なのだ。

私はうまく笑えない。

でもせめて、鏡の中にいる、私そっくりの少女の笑顔が見たい。

ずっとそう願ってきた。

部屋に閉じ篭もって化粧台に向かう時、いつも話し相手になってくれるその女の子に。


そのために、真紀は必死に笑顔を作ろうとした。

目を細め、口角を上げ、うふふ、と声に出してみる。

だめだ。全然、笑ってくれない。

頬を引っ張り、筋肉を動かしてなんとか笑顔を作ってみようとしたが、どうにもうまくいかなかった。

もう、これで何度めだろう……。

完璧に化粧をして、フランス人形のように綺麗にしてあげることはできた。

それでも、ちっとも笑ってくれない。かわいくしてあげられない。

毎日毎日それを繰り返して、失敗する度に、彼女の表情は深刻になっていく。

私があまりに駄目な子だから、怒っているんだ。きっと。

零れ落ちる涙が膝を濡らしていく。

きっと私はひどい顔をしているだろう。せっかく完璧にしたメイクも崩れて、みっともない顔をして、

同じようにみっともない顔をした彼女に、また詰られるのだ。


どうしてあなたはかわいくないの。


もう涙は止まらなかった。




化粧台に突っ伏した状態で目が覚めた。

泣き疲れて、いつのまにか眠りこんでしまっていたようだ。

まずメイクを落とさなくては……。

真紀が顔を上げ、鏡を見ると、そこには花のように可憐でかわいらしい少女がいた。


「えっ……」


薔薇のように真っ赤な紅をひいた唇が、ゆっくりと開く。


「真紀ちゃん、はじめまして…ううん、毎日会っているわね。でも、お話するのは初めて」


何も聞こえない。だが真紀には、彼女の言葉がはっきり聞こえた。

鏡の中の少女は、屈託のない笑顔で真紀を見つめている。


かわいい……


吐息のように無意識に、その言葉が口から零れた。

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