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ノアと友人の彼女。

 今日はアツシとその彼女に会うために遊園地へ行く日だ。俺はベッドを抜け出して、朝食の支度を始めた。ノアはまだ、お気に入りのクッションの上で丸くなっている。

 朝食の準備を整えて、ノアを起こした。

「ノア、起きて! 今日は遊園地へ行かなくちゃならないんだよ」

「ふぁー、まだねむいよー」

 ノアはクッションに顔をうずめた。

「ダメだよ! もう起きなくちゃ、約束の時間に遅れるよ。ご飯の用意が出来たから一緒に食べようよ」

「ふぁーい」

 まだ眠そうなノアは、目をこすりながらクッションから離れ、食卓へと移動した。

「そう言えば、ノアは何を着て行くんだ。やっぱり昨日服を買いに行った方が良かったんじゃないの?」

「大丈夫だよ、ツトムの服が有るから」

「だけど……。きっとアツシの彼女はおしゃれして来るぞ。一応彼氏の友達に会うんだからな。それなのに、ノアが俺の服を着て行くっていうのはどうなんだろう?」

「あっちはあっち、こっちはこっち。気にしなければ良いじゃない? まったく問題ないよ」

「まぁ、ノアがそれで良いって言うのなら仕方ないけれど……」

 朝食を食べ終えて、俺が後片付けをしている間に、ノアは着替えをしていた。着替え終わったノアは、俺の前でターンをしながら言った。

「どう? ツトムの服でも、結構カワイイと思わない?」

 ノアはTシャツをダボダボのジーンズに突っ込んで、裾はロールアップしている。Tシャツの上には、やはりダボダボのシャツをまるでコートの様に着ていた。どう考えてもサイズが違い過ぎているのだが、なんだかカワイイ! 贔屓目ってヤツかもしれないけれど……。

「うん、かなりデカ過ぎるけれど、ノアらしいといえばノアらしいかな?」


 ノアと俺は、待ち合わせの遊園地へ向かった。遊園地に着くと、アツシと彼女は既に来ていた。

「おーい、こっち、こっち」

 アツシが両手を振っていた。隣に居るのが彼女なのだろう。花柄のワンピースにハイヒール、手にはブランド物らしきハンドバッグ。予想通りおしゃれをしてきた様だが、遊園地用のファッションとは思えない。遊園地という場所を考えた場合、ノアの方が正しいのではないだろうか?

「おう、待ったか?」

「いや、さっき来たばかりだよ。えっと、こっちが小川美里おがわみさと。こいつは高校の時からの友達で川原勉。そしてツトムの彼女のノアちゃん」

 アツシが紹介した。

「お早うございます。はじめまして、ミサトです。ツトムさんのことは彼の話によく出て来るから、初対面とは思えないくらいです。ノアちゃん、カワイイですね。いくつですか?」

 ノアはなぜか俺の後ろに隠れるようにしている。昨日『面白そう』とか言っていたのに……。

「はじめまして、ツトムです。ノアはちっちゃいから小学生に見えるけれど、二十歳なんですよ」

「えー、そうなんですか? じゃあ、みんな同い年なんですね」

「そうだね」

「あいさつはそれくらいで、遊園地に入ろうぜ!」


 ツトムの言葉で、四人は遊園地の入口へ向かった。最初は恥ずかしがるように俺の陰に隠れていたノアも、しだいに慣れて来たようだ。昼近くなった頃には、ミサトさんと手をつないで歩いていた。

 そう言えば、猫は環境変化を好まないってネットに書いて有った。それに、昔から『借りてきた猫みたい』っていう言葉もあるくらいだ。

「そろそろ昼飯にしようか?」

「そうだな、腹も減って来たな」

 アツシの言葉に俺も同意した。

「おーい、昼ご飯にしようよ」

 アツシが前を歩いているミサトさんとノアに声をかけ、四人は園内のレストランで食事を摂ることにした。相当腹が減っていたのだろう、料理が目の前に並ぶとノアは目を輝かせた。


 まるで育ち盛りの小学生の様に料理を頬張っていたノアが、突然核心に触れる言葉を言い放った。

「ミサトはもう、アツシからプロポーズとかしてもらった?」

 ノアの突然の質問に、一番焦ったのはアツシだった。アツシの思惑では、ミサトさんの気持ちをそれと無く聞いてもらうことだった。それなのにノアのド直球が、アツシとミサトさんのデリケートな部分に投げ込まれたのだ。アツシが焦るのも当然だ。

「ノアちゃん、それは、その……ちょっと……」

 アツシが焦るわりには、ミサトさんは冷静だった。たぶん、アツシの思惑なんて、ミサトさんの手の上で転がされている様なものなのだろう。

「ノアちゃん、ストレートだなぁ。ノアちゃんらしくて良いけれどね。アツシと付き合い始めて、一年ちょっとになるけれどね。まだ、プロポーズはしてもらって無いわ」

「へー、まだして無いんだ。もしもアツシがプロポーズしたらどうする? 受ける? 断る?」

「うーん、微妙かなぁ? アツシのことは好きだけれど、まだ二十歳じゃない。結婚はちょっと早すぎる気がするよね」

「そうだよね、もう少し自由に遊びたいよね」

「そうね、遊びたいって言うわけではないけれど、もう一~二年はね……」

「でも、結婚って、決めてから式場をおさえたり、いろいろな準備をしたりで、一年くらいかかるみたいだよ」

「そうそう、結構大変みたいだよね。この前、ブライダル雑誌を買って読んだら、素敵な結婚式場が有ったんだけれど、日の良い土日は一年半位先まで予約が入っているんだって。結婚って急には出来ないんだよね。ノアちゃんは? ツトムさんと一緒に暮らしているって聞いたけど……」

「ノアは結婚なんてしないよ。ツトムと一緒に暮らしているって言っても、いわゆる同棲とは違うしね」

「同棲とは違うって、どう言うことなの?」

「うーん、どう説明したら良いのかなぁ? 一番近い関係は、ペットと飼い主かな?」

「ペットと飼い主?」

「そう、ツトムが飼い主で、ノアがペット。ツトムにご飯を食べさせてもらって、ノアは勝手気ままな生活をしているの」

「ノアちゃんは家事とかしないの?」

「しないよ。掃除、洗濯、食事の用意は飼い主の仕事でしょう? だからやらないの」

「じゃあ、ノアちゃんはツトムさんに何をしてあげるの?」

「ノアは何もしてあげないよ。ノアがねむい時にはツトムはノアの邪魔をしない様に静かにしているし、ノアが頭をなでてほしい時はツトムがなでてくれるし、ノアがご飯を食べたい時にはツトムがご飯を作ってくれるし……。そんな感じだよ。ツトムは勝手になごんだりいやされたりしているみたいだけどね」

「ふーん、なんだか、良いね。まるで王女様とお付きの人みたい。それで、ツトムさんは不満がないの?」

「さー、わからない。でも、追い出されないから、それで良いんじゃないの?」

 いつの間にか俺とノアの話になっている。ミサトさんとノアが俺を見ているけれど、今の状態で、俺に何か言えというのは無理な話だ。俺の心情なんか、どう説明したって理解出来るヤツは居ないと思う。俺自身でさえ理解できないでいるのだから。

「そうだよなぁ、ノアちゃんが本物の猫だったり、美少女フィギアだったりするならあり得るかもしれないけれどもなぁ。ノアちゃんは普通にカワイイ女の子だからなぁ。俺には理解出来ん!」

 アツシが俺を完全否定する様な発言をした。それを聞いたミサトさんが言う。

「そうだよねぇ、アツシは『かまってちゃん』だものね」

『かまってちゃん』という言葉に反応したのはノアだった。

「アツシって『かまってちゃん』なんだ。面倒くさくない?」

「ケッコウ面倒だよ。料理をしていても、片付けをしていても、すぐにすり寄って来るしね。『邪魔くさ!』って思うことも良くある」

「えー、そうなのかよぉ」

 アツシが落ち込みながら言う。追い打ちをかける様にミサトさんの言葉が飛ぶ。

「そうだよ。一々やっている事を止めて相手をしなくちゃならないんだからね。無視するといじけるし……」

 俺とノアは笑いながらアツシを見ていた。アツシはいじけきってしまった。


 遊園地でのダブルデートも終了し、俺とノアは家に帰って来ていた。ノアは相変わらずお気に入りのクッションの上に居る。俺がそんなノアを見つめながら、勝手に和んでいたとき、アツシがやって来た。

「ツトム、ノアちゃん、今日はありがとう」

「ミサトさんは?」

「家まで送って来た。それで、どうだったかなぁ。プロポーズして大丈夫だと思うか?」

 アツシは俺に問いかけた。

「そんなこと、自分で考えろよな! ミサトさんの気持ちはノアが聞いてくれたじゃないか」

「えー、もう一言、後押しがほしいんだよ。ノアちゃんはどう思う?」

 ノアはクッションの上で丸まったまま言った。

「ミサトはブライダル雑誌を読むほど、アツシとの結婚を意識しているよ。そのうえ、わざわざブライダル雑誌を読んだ事を言っていたから、プロポーズを待っていると思うよ。あれでプロポーズをさせたうえで断るようなら、かなりのサディストだろうから、結婚なんかやめた方が良いと思うよ」

「それって、プロポーズしても大丈夫ってことだよな! サンキュー!」

 アツシはそう言うと、速攻、帰って行った。

 俺はノアの観察力に驚いていた。ミサトさんのことよりも、俺が勝手に和んだり、癒されたりしている事を意識している。もしかしたら、ノアの気が向いたときだけではなくって、俺が落ち込んでいたり、何かにモヤモヤしていたりするのを察してすり寄って来ることもあるのでは? などと考えながらノアを見つめていた。

 ノアはそんな俺とは無関係に、寝息を立て始めた。





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