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ノアと俺と友人。

 ノアとの生活が始まって、一ヶ月が過ぎた。

 今日から来週の日曜日まで、九連休に突入した。お盆休みだ。本来なら、実家に帰って、親父やお袋に顔を見せるべきであろう。両親からも、『いつ帰って来る?』と言われている。

 しかし、ノアをひとりで置いて行くわけにはいかない。ノアがひとりで食事の用意をするとは思えないし、俺がいない間に俺以外の飼い主(従者)を見付けてしまうかも知れない。『それはいやだ!』

 だからと言って、ノアを連れて実家に帰るわけにもいかない。ノアが本当の猫ならばそれも良いのだろうけれど、ノアは二十歳の女性なのだから……。

 俺は、友達と旅行に行くからお盆に帰ることが出来ない。別の日に帰るからと、両親に嘘をついて、帰郷しない事にした。


「ノアが家に来てからもう一ヶ月になるだろう。本当に服を買いに行かなくて良いのか?」

「うん、いらない。ツトムの服で充分だよ」

 そう、ノアは未だに俺の服を着て生活をしているのだ。部屋に居る時は、だいたいがTシャツに短パンだ。下着も俺のパンツ(ボクサータイプ)を履いている。当然、俺はブラジャーなど持っていないから、ノアもブラジャーなどしていないはずだ。確認はしていないけれど、洗濯物の中に女物の下着は入っていないのだから、そう言う事なのだろう。

 昼間はどこかに外出している様だが、その時には何を着ているのか? 俺は昼間のノアのことは全くと言って良いくらい知らないのだ。


 連休初日の今日は土曜日だ。いつも土曜日に外出することは無い。部屋でゴロゴロしている。しかし、今日はノアを誘って外出してみようと思った。

「あのさぁ、たまには一緒にどこかへ行かないか?」

「どこか行きたい所が有るの? 良いよ、行っておいでよ。ノアは留守番をしているから」

「いや、行きたい所が有るわけでは無くて、ノアと一緒に出掛けたいなぁと思ってさ」

「えー、いいよ。面倒くさいから」

「そうか、ならいいや」

 ノアを外に連れ出すことは、あきらめなければならないだろう。


 朝食を用意して、ノアと一緒に食べた。ノアはいつもと変わらず、美味しそうに食べている。

「ノアは俺の所に来る前は、どこで何をしていたんだ?」

 既に何度も繰り返した質問だ。その都度適当にあしらわれてきた。しかし俺は、今日こそは話を聞き出そうと決心していた。

「前にも言わなかったかしら? ナ・イ・ショ」

「それは聞いたけど、ナイショは話して無いって言うことだろう? ちゃんと聞きたいよ」

「聞いてどうするのよ。聞いたって面白くないよ」

「面白く無くたって、ノアのことはなんでも知りたいよ」

「まるで恋人みたいな事を言うのね」

「恋人? でも、もう一ヶ月も一緒に生活しているんだよ。ある意味恋人以上じゃ無いのか?」

「そう? そんなことは無いと思うわよ」

「じゃあ、俺達って何なんだよ!」

「うーん……。飼い主とペット? 従者と主人? そんなところじゃ無い?」

「俺が飼い主でノアがペットか? 俺が従者でノアが主人って言うことか? 状況的にはそんな感じかも知れないけれど、飼い主=従者、ペット=主人って言うのは公式的に変だろう」

「まあ、良いじゃない。それとも、ツトムがご主人さまでノアがメイドにでもなる?『お早うございます、ご主人さま』とか、『お帰りなさいませ、ご主人さま』とか言って欲しいの?」

「それはノアらしく無いなぁ、でも、ちょっと良いかも……」

「バカじゃないの! そんなこと言うわけ無いでしょ!」

「確かに、言うわけ無いよな。でも、ノアだって女の子なんだから、俺の服なんか来ていないで、もっとカワイイ服とかを着たいんじゃないのか?」

「そんなこと言って、本当はツトムがノアにカワイイ服を着せたいんじゃないの? 着せ替え人形みたいに、カワイイ服を着せて眺めたいんでしょう? イヤラシイ!」

「イヤラシイってなんだよ! 俺はそんなこと………」

 ちょっと考えていた。ノアは可愛いから、いろんな服が似合うだろうなぁ。ひらひらワンピとか、ミニスカートとか、制服とか、……えっと、俺ホントにイヤラシイかも……。


 気が付けば、またしても話をはぐらかされてしまった。あきらめて、テレビを見ながらゴロゴロしていたときだった。俺の携帯が鳴った。高校時代の友人からだ。友人の名前は平野篤ひらのあつし。アツシも高校を卒業してこっちで就職している。

「おう、どうした?」

「ツトムは実家に帰らないのか?」

「ああ、今年はちょっとな。帰らない事にした」

「今日はヒマか?」

「まあな、ヒマといえばヒマだな」

「じゃあ、おまえの家に行って良いか? ちょっと相談が有るんだ」

 良いわけがない。俺の部屋にはノアがいる。ノアはどう見ても少女だ。俺が少女と一緒に暮らしているなんて知ったら、アツシはどんな誤解をするかわからない。ろくでもない想像をするに決まっている。

「俺の家は狭いしきたないし、だから外じゃダメか?」

「ちょっと込み入った話になるし、今、お前の部屋の前に居るからなぁ。おまえの家が良い」

「部屋の前? ちょっと待ってよ」

 言い終わった時には、アツシによってドアが開かれていた。


「ツトム、久しぶり。これお土産、コンビニでかっ……」

 アツシはそこまで言ってフリーズした。アツシの気持ちも良くわかる。高校時代からつい最近まで、女と付き合った事が無い俺の部屋に女の子が居る。そのうえ、その少女は俺の服を着ているのだから。

「あっ、その、これは……」

 俺も突然のことに慌ててしまった。それを見て、少しだけ冷静さを取り戻したアツシが言った。

「ツトム、おまえ、とうとう……」

 アツシの想像していることはだいたい予想が出来た。予想は出来たが、弁明する言葉がすぐには出て来なかった。

「おまえ、とうとう犯罪者に成り下がったか!」

「違うんだ! こいつはそんなのじゃ無いんだ!」

 アツシは急に優しい語調に切り替えた。

「ツトム、お前の気持ちはわからないでもない。しかしなぁ、これはいけない事だと思わないか? 俺はお前の事を友達だと思っている。これからもずっと友達だ。だから、冷静に聞いてほしい。お前には犯罪者になって欲しくないんだ。な、わかるだろう? この子はどこの子だ?」

 やはり俺がノアを誘拐でもして来たと思っている。誤解を早めに解かなくてはならないのに、ノアはお気に入りのクッションの上で、俺とアツシを面白そうに見ている。

「アツシ、違うんだ。おまえにはこいつが子供に見えるだろうけど、こいつはもう子供じゃ無いんだ」

「おまえ! もう子供じゃないって……。手遅れだったか? おまえはそこまで落ちてしまったのか?」

 アツシは俺が幼女を誘拐した揚句、暴行までしていると思ってしまったようだ。

「違うんだ! ノアはこんな見た目だけれど、俺達とタメ歳なんだよ。だから、お前が想像していることは全て間違いだ!」

「ツトム、俺達は友達だ。誤魔化さなくて良いんだよ。俺が付き添ってやるから、警察に行こう」

「だから違うって言っているだろう! 信じてくれよ」

 俺は泣きそうだった。親友に犯罪者として扱われているのだから、泣きたくもなるだろう。


 かなりの時間と労力を使って事情説明をした結果、なんとかアツシの誤解を解くことが出来た。

「しかし、カワイイなぁ。本当に二十歳?」

 まだ言ってやがる!

「本当に二十歳ですよ。ツトムのペットをやっています。ヨロシク」

 この時点まで来て、やっとノアが会話に加わった。加わったのは良いのだが、またしても誤解が深まる発言をした。

「ペット?」

 アツシが戸惑いながら言う。

「ペットってどういうことだよ。おまえ、やっぱり……」

「違うよ! ノア、わざわざ誤解させる様なこと言うなよ。アツシ、落ち着いてきいてくれ。お願いだから……」

 俺はアツシに、ノアとの出会いから今日までの事を必死で説明した。アツシは、なんとか状況を理解してくれたみたいだ。


「それで、アツシの相談ってなんだよ」

「ああ、俺のことか。お前達のことで忘れていたよ。この前会った時、俺に彼女が出来たって言ったのを覚えているか? あれから一年近く経つだろう? 俺、彼女と結婚しようと思っているんだ」

「そうか、おめでとう。もうプロポーズはしたのか? どこでなんて言ったんだよ」

「そこなんだよなぁ、まだプロポーズをしていないんだよ」

「なんだよ、彼女もお前と結婚する気が有るんだろう? 早くプロポーズしちゃえよ」

「うん、たぶん……大丈夫だと思うんだけれども……。ツトム! お願いだ! それと無く彼女の気持ちを聞き出してくれ!」

 アツシがいきなり床に、頭をこすりつけた。

「えっ! おまえ……俺にそんなこと頼むなんて……ムリムリ。俺が女子とろくに話したことが無い事くらい、お前なら知っているだろう!」

「そんなことはわかっているけれど! 頼めるのはお前くらいしか居ないんだよ。頼む、お願いだから……」

「……………」

 俺は言葉を失っていた。俺には荷が重すぎる。

「そうだ、ノアちゃんが居るじゃないか。明日、お前とノアちゃんとで聞き出してくれよ。明日お前に誘われて遊園地に行くって言って有るからさぁ」

「もう決まっているのかよ! ノアも一緒に連れて行くのかよ!」

 俺はノアを見た。はたしてノアが外出を了承するのだろうか? 俺には女性の気持ちを聞き出すなんて技術はない。だから、ノアに頼るしかないのだが、それもノアが承諾しない限り実現する事は無い。

「なんだか面白そうだね」

 ノアが言った。

「ノアちゃん、行ってくれるんだね。良かった! やっぱり、持つべきものは友達と友達の彼女だ!」

 アツシが舞い上がっている。確かに頼るのはノアしか居ないけれど、本当にノアに頼って大丈夫なのだろうか? 一抹の不安がよぎった。

「じゃあ、明日な! 十時に遊園地の前で待ち合わせな! 頼んだぞ!」

 そう言って、アツシは帰って行った。





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