9話 レッドオーガと魔物使い
「ふう…辺りに魔物の気配が無くなったな…」
ハゲ親父がそう呟くと、周りの冒険者を集めた。
「おいお前ら、魔核はどれくらいになってる?」
統計してみると、オーガが16、ゴブリンが137。
「こっちはオーガ23にゴブリン254だ」
とゲオルグ団長が騎士の討伐総数を答える。
「んで、あれを足してっと…まだオーガが10にゴブリンが100程居るのか」
ハゲ親父がこちらを見て、そう言った。
今俺の前にはオーガ一匹とゴブリン5匹が待機している。
あの後、ゴブリンも使役に成功したのだ。
どうやら使役魔法は発動条件として、俺が魔物を仕留めると使役出来るようだ、後、確定ではなく、ならない時もあった、今回俺が倒したゴブリンは18匹、その内の5匹が使役に成功した。
「レイラーク、行けるか?」
ゲオルグ団長が、黎明騎士団団長のレイラークに声を掛ける。
黎明騎士団、大半の騎士が女性で形成されている騎士団で、騎士団団長のレイラークも女性騎士だ。
「ああ、問題ない、だがオーガの巣穴に行くのは精鋭にしたほうが良さそうだな、あまり巣が大きくない」
残りは巣穴に居ると思われた、そして場所は黎明騎士団の偵察により、判明している。
「なら、暁騎士団からは俺、パルサ、カリアン、フラック、ダースで行こう、残りの者は周囲警戒に当たれ」
「「「はっ!」」」
「黎明騎士団からは私、リアラ、マアリス、ナック、シャマが行こう、残りの者は同じく周囲警戒だ」
「「「はっ!」」」
「よっしゃ、ギルドからは俺、リーザのパーティー、ライザの兄弟が来い、後は自由にしてろ」
「はいよ」
リーザのパーティーと呼ばれた四人組のリーダーリーザが答える、ミアによると、彼らは王都の中ではトップクラスの冒険者だそうだ、リーダーのリーザは双剣の使い手、ドマスと言う小柄の男性は自分の身長程の戦斧を片手で軽々と持っていた、クァウと言う少女は弓を持っていて、ザウスと言う青年はローブを着込み、杖を持っていた、彼は魔法の達人クラスだと言う。
「「おう!」」
ライザの兄弟は双子の戦士、とても息の合ったコンビネーションが特徴のベテラン冒険者らしい。
そして一団がオーガの巣穴と思われる場所へ入っていった。
ちなみに俺達は…木に寄り掛かって座り込んでいた。
疲れたのもあるが、身体中が痛い、筋肉痛の様な痛さだ。
アイン曰く、これは急激にレベルか上がった場合起きる、成長痛なのだそうだ。
今はポーションを使いきってしまい、アインも魔力が殆ど無いとの事だったので、ゴブリン達に薬草を集めさせ、それを擦り傷口に当て包帯を巻いている。
どうやらゴブリンは中々器用で、治療に必要な細かい作業を嬉々としてやってくれた、オーガは苦手なようだったが。
この時点で俺達は正直、気を抜いていた…いや、抜けすぎていた。
まだ、オーガが残っているのに全部巣穴にいると思っていたのである。
しかし、冷静になれば思い出せる筈だった、突然俺の横に現れたらオーガの事を。
抜け道…またはそれに近い何かかあったのだろう、突然、俺達の近くに居た冒険者の頭か弾けたのだ。
「なっ…」
現れたのは、赤い鬼…レッドオーガだった。
「ぐ…ぐぐぐ…グギャーーー!!」
殺しに酔っているのか、雄叫びをあげた。
「うわぁぁぁぁ!」
「ば…馬鹿な!?」
「何だこいつは!?」
「大将っ!」
フェルドが駆けようとする、しかし間に合わない。
「オーガ!行け!」
「ぐぎゃ!」
即座に側に居たオーガに命令を出す、しかし―
「ギャグァ!!」
一撃、使役オーガは、レッドオーガの降り下ろされた一撃でその存在を消された。
「くっ…」
モールを前に構え、少しでも衝撃に備える。
「ギャアァ!」
レッドオーガの一撃に合わせ、『地の壁』を出して後ろへ飛ぶ、しかしダメージを受け流せなかった。
「グァッ!」
モールの柄は砕け、俺は巣穴の入口のあった岩山に衝突し、背中の骨が砕けたのを感じた。
「ショウ殿!今『負傷回復』を!」
アインが残り少ない魔力を使い、癒しの力を行使する、しかし治ったのは背骨だけ、ダメージは抜けない。
「ぐっ…皆…にげ…ろ……」
「あんた置いて逃げれる訳ないさね!」
「とは言え…どうすれば!」
駄目だ、敵わない…逃げるんだ…皆……
(だ…めだ…いし…き…が…)
そして俺は完全に意識を失った。
◇◇◇
俺達は国王から要請を受けて、森を走っていた。
―オーガが異常発生した、騎士団に冒険者も向かったが、嫌な予感がする…救援に向かって欲しい―
テレポートを使い、王都へ来た俺達は、あの人もオーガ討伐に向かったと聞いた、しかもオーガの群れにはゴブリンも確認された、つまりレッドオーガも居ると言う事だった。
「今、何か…悲鳴!?」
「い…急がないと!!」
「まっにあえぇ!!」
騒動の下にたどり着いた俺達が見たのは、レッドオーガと、その攻撃を受けて吹き飛ぶあの人だった。
「僕が先制で仕掛けるよ!」
優しそうな、だが大柄な少年が、輝く戦斧をレッドオーガに叩き付けた。
「りんたろくんナイス、ぼくの拳をくらえぇ!!」
そして、隙を見せたレッドオーガに、短髪黒髪の少女が、輝く籠手を着けた拳を振り抜いた。
「グァァイガァァァ!!」
「なっ!生きているのか!?」
「そんな!?」
「皆下がって」
その声を聞き、下がる3人。
「『氷結の嵐』!」
輝く杖を掲げた少女の放った氷の上級魔法がレッドオーガを襲う。
「ギャ…グギァ…ガ…」
凍りつき、力尽きた…かに見えたが。
「GAAAAAIIIIYAAA!!」
「そんな!?」
まだ倒れないレッドオーガ…いや、その身体は赤から黒へ変質していっていた、『ブラックオーガ』、それはもはや伝説級の強さをした魔物である。
「シンカしてる!?」
「今ならまだ!林太郎、まこと、スズハ、下がれ!!
うおぉぉ!必殺剣!『閃光の無限斬』!」
レオが掲げた、輝く剣から放たれる無限の光の斬撃がブラックオーガを襲う。
「ガァァ…」
今度こそ完全に消滅した。
そこへ騒ぎを聞きつけ、巣穴から出てきた精鋭部隊が現れた。
「な…何があった…!?」
息を飲むドリュー、そこにいたのは圧倒的な力により消滅するブラックオーガと、輝く武器を持つ4人の少年少女。
「貴殿方は…救援かたじけない…」
ゲオルグが彼らを認識し、礼を述べた、そう、ここに居たのは、先日旅立った勇者達だった。