7話 出発の日とギルドと魔物使い
出発の前にオルステット国王に謁見する。
ただし、場所は謁見の間ではなく国王の仕事部屋だった。
「悪いな、こんな場所で」
「いえいえ、大丈夫です」
因みに後ろで護衛騎士の3人は固まっている。緊張しているようだ。
「まずはこれを、軍資金だ」
ジャラッと貨幣の入った袋を受けとる。
「ありがとうございます」
「ああ、それと、後で冒険者ギルドに登録しておいてくれ、金が預けられるから、ビールの金はそこに随時振り込んでいく」
「わ…わかりました」
(振り込みが出来るのか…ギルドってより、なんか銀行みたいだな…)
「後これだな、冒険鞄ってな、中に空間魔法が仕込んであって、かなりの量が入るし重さもなくなる旅の必需品だな、…でこっちが魔法の筒って言ってな、これも空間魔法が仕込んであるんだ、矢を千本程入れとける、弓を使うって聞いたからな、用意しといた」
「ありがとうございます、これは便利で助かります」
便利過ぎる空間魔法に驚きつつも、荷物の持ち運びが楽なのは大変ありがたい、お礼にビーフジャーキーを渡し、どういうものか伝えると、異様に喜ばれた…後でミアに聞いたら、この世界の携帯食料はとても不味くあまり保存も効かない物だったので喜ばれたとか…燻製技術が無かったのか。
そして、俺達は城を出た、裏口から。
「馬鹿な貴族さえいなけりゃ、こんな苦労しなくていいのにねぇ…」
「み…ミア隊長、声が大きいですよ!」
「アインは心配性過ぎるって、大丈夫だよ」
何て話をしながら一路冒険者ギルドを目指す。
◇◇◇
「そういや、3人とも装備が何時もと違うな」
「ん?ああ、そりゃそうさ大将」
「流石に騎士鎧を着て冒険者は無理ですよ」
「そ、だから代わりの装備を用立ててもらったんさ」
3人は何時もの装備ではなく、ヘルメットの様な多少の装飾がされた兜に、ブリガンダインと呼ばれる鎧、皮の手袋に鉄製のすね当てを装備し、風と太陽熱避けにマントを装備していた、所謂冒険者然とした格好だった。
因みに詳しくはわからなかったが、魔法皮膜とやらがされていて、普通より強度があるらしい。
「成る程な、俺も防具を仕立てんと」
「まずはギルドに行こうさね」
「ああ、そうだな」
ミアの言葉に従い、まずはギルド登録する為に冒険者ギルドに入った。
「いらっしゃい、あら?新顔ね、登録かしら?私はシャーリーンよ」
カウンターから出迎えてくれたのは、推定30才程の女性だった。
「こっちの3人がね、あたしはもう登録済みだからさ」
「そうなのか?」
「まあ、昔ちょっとね」
登録していたミアを置いて、アインとフェルドと一緒に手続きを始める。
「では、こちらの紙に名前と職業の記入をお願いしますね」
やや白い紙を手渡される。
「大将、名前は姓は書かない方がいいぜ」
「ん?何でだ?」
「この世界には姓があるのは貴族だけなんです、姓を書かないのは無駄な争いや諍いを避けるためです」
やはり身分差別はあるのだろう、フェルドとアインの忠告通り、名前だけ記入する。
「職業か…魔物使いで大丈夫なのか?」
「問題無いかと、むしろ私達がどうするか…」
「騎士は不味いよな…ミアの姐さんはどうした?」
「姐さんって何だい…あたしは剣士で登録したよ」
「いやだって隊長は不味いでしょ?剣士か…」
「フェルドは魔法剣士でいいのでは?私は普通に剣士にしておきます」
「それいいな、よしそうしよう」
ここ数日の訓練でわかった事だが。
ミアは基本魔法が全て使えるが、攻撃より身体強化の魔法を好んで使う、その為近接戦闘が得意。
アインは基本魔法が風と水と無、魔法とはまた少し毛色の違う貴重なスキル、癒しの力が使える、その為援護が中心の戦い方になる。
フェルドは基本魔法全てと、上位基本魔法の嵐が使える、戦い方は魔法を中心に槍や剣で戦うやり方になっている。
「これでよしと、お願いします」
書いた紙をカウンターへ手渡す。
「では、簡単にギルドについて説明しますね?」
まずギルドで出来る事、魔核の買い取り、依頼の受諾、依頼の申請、お金預りの4つ。
「まずお金預りについてですが、こちらをお渡しします」
登録されたギルドカードを受けとる。
「このギルドカードには登録さた名前と職業、それとギルドランクと預かっている金額が表示されています、無くしますと追加金が必要になりますから注意してください」
確かに名前と職業、ランクがFとなっていて、預り金は0になっていた。
「冒険者ギルドがある町なら、このカードを使って預けた金額で買い物も出来ます、ただし盗難されると勝手に使われる可能性もありますので注意してください」
「次に冒険者ランクですが、こちらの依頼の受諾とセットで案内します、これは誰かが依頼した仕事を請け負い、解決するのが仕事内容になります、例えばランクFの仕事なら薬草採集や迷いペットの捜索ですね、ランクアップはこうした仕事を解決する他、魔核を持ち込んだ数でもします、ランクアップすれば、割りのいい仕事も結構あります」
「次に依頼の申請ですが、これは例えば先程の薬草採集や、一時パーティ探しなどに使われます、ゴブリンの巣を討伐する依頼を受けたけど、人手が足りない…そんな時に利用される方が多いですね」
「最後に魔核についてですが、こちらに持ち込んで貰えれば、買い取らせて頂きます」
「さて、今までで何か質問はありますか?」
シャーリーンさんによるマシンガントークがようやく終わった。
「気になったのは、これでギルドの運営出来ているんですか?何かお金が出てばっかりなような…」
「大丈夫ですよ、依頼の報酬はこの通り、依頼された金額から仲介料を、戴いてますし、お金じゃなくて魔核を特殊な方法で、磨り潰して作られた『経験値飴』でお配りしている場合もありますから、その場合、依頼者から受け取ったお金は全てギルドの物になります」
「成る程、それで魔核を買い取っているわけか…」
「はい、そうなりますね、他に質問はありますか?」
「『経験値飴』て何ですか?」
危うく聞き逃しかけた。
「これは魔核から抽出出来る成分で出来てまして、これを摂取すると、魔力を取り込めるんですよ」
なにそれ、べんりアイテム発見伝。
「他にございますか?」
「いや、特には…あ、このお金を預けます」
国王に貰った軍資金は金貨10枚だった、その内2枚残して、全てを預けることにした。
「わっ…と失礼しました、ではギルドカードをお願いします」
金額が多かったので驚かれたようだった。
「はい、完了しました、では…」
その時、入り口のトビラがバン!!と開かれた、現れたのはスキンヘッドの大男。
「シャーリーン!緊急クエスト発行だ!!町にいる冒険者を全て北門に集めろ!大急ぎだ!!」
「!!はい、わかりました!アンナお願い!」
「はい、先輩!」
アンナと呼ばれた女性が奥へ下がっていく。
「ギルドマスター、クエスト内容は何ですか!?」
「街の近くにオーガの群れが現れた、数は約50、厄介な事に、街の近くに住んでいたキキーモラが大量に拉致されてる、急がんと孕まされて爆発的に数が増えるぞ!」
「わかりました!」
シャーリーンさんも奥に下がっていった、そして大男がこちらを見る。
「お前達、見ない顔だが、新規の冒険者か?直ぐに準備を済ませて北門へ移動してくれ、緊急クエストは冒険者の参加は義務だからな」
と言い残し、ギルドマスターと呼ばれた男も奥に入っていった。
「オーガとは、不味いね…騎士団も動いているのかね」
「大将、兎に角大将の防具を急いで買いに行こう、細かい説明は移動しながらする!」
「50とは…大変な事になりましたよ!」
俺は事態の掴めないまま、一旦俺の防具を手に入れる為にギルドを出た。