12話 オークと旅路と魔物使い
―王都近辺・ラケの森―
「ああ、居た居た」
翌日俺は、ゴブリン達の下に来ていた。
いくら使役しているとはいえ魔物は魔物、街に入れる訳には行かなかったので、ここに待機させたとミアに聞いて来たのだった。
「ほら、お土産だ、食え」
持ってきた牛の生肉を渡す、ガツガツと食べ始めた。
「…焼くの忘れてたけど、生で食うのか…いや、魔物だからそんな物なのかな?」
しばらくすると、食べ終えたゴブリン達は満足した様な顔で此方を見ている。
「よし、取り敢えずこれを装備してくれ」
ここに来る前に買った革の鎧と短剣、弩と矢筒を渡す。
「よし、装備したな…ちょっと練習しようか」
先日感じたが、やはり結構器用な様で、革の鎧を自分で着ていた。
まずはゴブリン達に弩を構えさせる。
「ん、じゃああの木を―」
とまで言いかけて、森の奥から何かが出てくるのに気付く。
そこに現れたのは槍を持った猪頭だった。
「これは…確か猪頭だったか?ゲームで見た気が…って、来るか!?」
モールを構え、戦闘準備に入る。
「よりによってこのタイミングで来るかよ…ゴブリン隊、援護頼むぞ」
ゴブリン達に指示を出す、弩を構え周囲に散開させる。
先制にモールを降り下ろす、しかし槍で受け止められた。
「ぐぉっ…結構力強いな…」
ギリギリと鍔迫り合いをする、そこへ後ろへ回り込ませたゴブリン達が矢を放った。
「ブギャァ!」
背中に矢を受けた猪頭が痛みで身をよじらせる、そして俺を弾くとゴブリン達へ向かい始めた。
「おいおい、隙だらけだぞっと!」
背中を見せた猪頭へ、渾身の一撃を喰らわせる。
「グギャァァ…」
地面に沈む猪頭、しかし魔核に成らず、しばらくすると体毛が緑色になって起き上がった、どうやら使役に成功したようだ。
「ふう…何とかなったか…使役も出来たし、ゴブリン達も充分戦えるのがわかった、一石二鳥かな?」
一息つき、ステータスを確認する。
「そういえば緊急クエストから確認してなかったな…っと」
―――
ステータス
タキシロ ショウ
Lv19
耐久470
魔力100
SP280
MP225
―――
少し調べてわかった事だが、SPは理屈はわからないが食事で1~5増えていた、MPは使役成功で5上昇し、両方共レベルアップで10増える様だ。
「レベルアップ早いな…」
レベルはクエスト前に9だったのが19まであがっていた。
そしてスキル、使役魔法は他のスキルと違い、自分のレベルと連動してあがっていて、新しい『名付け』と言う魔法を習得している、これはMPを10消費する代わりに使役魔物に名前を付け、そのステータスを倍にする強力な魔法だ。
とはいっても、MPには限りがある、試しにゴブリンの一体に使ってみる。
「…えーっと…思い付かんな…ゴブきちでいいか『名付けゴブきち』」
ゴブリンの一体が光に包まれ、消えた時には身体が少し大きくなっていた。
『ゴブリン→ホブゴブリンに進化しました』
メニューにそんなテロップが流れた。
「ホブゴブリンか…確かに強力にはなったけど、MPが他に何に使えるのかわからないしな、残しておくか、コイツらは…また待機かな?」
「待機ゴブか?マスター」
…
「…喋った!?」
「はいゴブ、進化した事で、スキル人語理解を手に入れたみたいゴブ」
「そ、そうか」
取り敢えずゴブきちに使役魔物を任せ、この場に待機させ街に戻る事にした。
◇◇◇
冒険者ギルドに居た3人と合流する。
「戻ったのかい、ショウの旦那」
「ああ、どうだった?」
「駄目だ大将、運悪くキャラバンも先日出発しちまったみたいだ」
俺が魔物の様子を見に行っている間、3人には北へ向かう移動手段を探してもらっていた。
初めは馬車を買おうと思ったのだが、値段の問題があり購入出来なかった、そこでキャラバンに目をつけたのだが…
どうやらキャラバンは既に出発してしまったようだ。
「仕方ない、徒歩で行くか…」
「そうなるね、徒歩だと二日程掛かるから食料と水は用意しとこう」
簡単な準備を済ませ、街を出発した。
◇◇◇
街を出て使役魔物と合流して、街道を歩く。
「所で大将、なんか一匹、魔物増えてないか?」
「後、このゴブリンも大きくなっている様なのですが…」
「ゴブ!ゴブきちはホブゴブリンに進化したゴブ!」
「ちょっと、喋ったよ!?このゴブリン!」
3人にさっきの出来事を説明した。
「成る程ね…しかし猪頭とは…」
「普通、森の入口辺りに猪頭なんて現れない筈なのですが…」
「そうなのか?」
「大将、普通、猪頭は森の奥にしか生息していないんだよ、居たとしても群れからはぐれた豚頭くらいだ」
猪頭は猪の顔をした魔物で、ある程度の知性があり、豚頭の上位種になる。
豚頭は豚の顔をした魔物で、知性もそれほど無く力もあまり無い事から、駆け出し冒険者の相手として人気の魔物だ。
「オーガといい猪頭といい…やっぱり魔王の影響が出てきてるのかね?」
「可能性はありますね、注意していきましょう」
「だな…所で、もう二時間は歩いたけど、魔物が一匹も居ないな」
魔物処か動物も見当たらない。
「王都周辺の街道は、騎士団が定期的に討伐巡回してますからね」
「だから街道も結整備されてるんさよ、歩きやすいでしょ?」
確かに道も綺麗で、凄く歩きやすい。
「て事は、この先は道が悪くなったり、魔物が出たりする様になるのか?」
「そうなるな、ちなみに整備されてない道だと馬車での移動で地獄をみるぜ」
フェルドが遠い目をして語る、訓練生時代に遠征訓練をしたのだが、その際激しく揺れる馬車に、皆酔ってしまい中が凄まじい事になったらしい。
「キャラバンの馬車何かは、詳しくは知らないけどその辺りの対策はしてあるらしいけどね、普通はしてない方が多いよ」
「道を整備しろって話もあったけど、金が掛かるから誰もやらないんだよな…国がやってはいるけど、全く追い付いていない状態だし」
国とて、資金が無限にあるわけじゃない、しかも、平行して開拓もしているので年々町や村は増えている、人手も足りていないのだ。
「リンドブルグまではどうなんだ?」
「途中まではそれなりに整備されてますけど、間に大きい町が無いですから、そこは結構荒れてる可能性がありますね」
「確か最近、プレイスって村付近に山賊が出たとか聞いたぜ、自警団でも対処仕切れなくて、騎士団に出撃依頼が出てた気が…」
「山賊か…」
「実際どうなってるかは行ってみないとわからないね…」
「だな、兎に角行ってみるしかないか」
そんな話をしながら、二度の野営を挟み、特に問題も無く次の町マデシャに到着した。
使役魔物はゴブきちに任せ、町の近く待機させる。
「何か対処を考えないといけないですね」
「確かに毎回待機させるのもな…」
「取り敢えず、後で差し入れでも持っていこうさね」
「まずは宿だな、そういや大将、アイツらって何食うんだ?」
「前は生肉で喜んでたし、後は果物なんかも食うんじゃないか?」
「んじゃ後で買って持っていってやるかね」
その後宿を見つけ、猪頭用に槍と革の鎧を買い、生肉と果物を持っていった。