第5話〜異端王〜
五話は海人が、二年間神界で戦っていたときの話です。
神界。神々の住まう場所。
そこには、2つの国と1本の樹があった。
天命天使の国、エルベレシア。
刻死天使の国、クログレイド。
その間に高くそびえ立つ世界樹、ソウルブレス。
神といっても、人間界を見守っているわけでもなければ、支配しているわけでもない。
それは人間の勝手な妄想にすぎない。
それぞれ自分たちのために生きているだけだ。
ただ、彼らの影響は強く、人間界を間接的な支配という形で、支配してしまっている。
天命天使と刻死天使は、昔から対になる存在で均衡を保ってきた。
どちらかが滅びれば、必然的にもう片方も滅びる。
そのような関係で今まで平和を保ってきた。
しかし、ある男が現れてから、その均衡は崩れた。
刻死天使王アルデライ=ロディアス。
先王の後を継ぎ即位した、騒乱の中心人物。
彼は、神界の均衡を破り、天命天使を根絶やしにしようと目論む。
ただ反論をするものは大勢いた。
相手が滅びれば、こちらも滅びるのだから。
その者たちが反発して、クログレイドで紛争が起こった。
だが、反乱軍は精鋭の天使には歯が立たず、多くの人が亡くなり、生き延びた者はエルベレシアへと亡命した。
天命天使側は、亡命を受け入れ、逃げ延びた者を守ることを約束した。
エルベレシアは異端の王を討伐するため、4大天使を中心とした軍を結成。
勿論一般市民および、兵士の殺害は禁止とされた。
王と王に賛同する幹部のみの討伐だ。
そして作戦実行の日がやってきた。
天命天使側は、相手を殺さず捕虜という名目でとらえ、強制で戦わざるをえなかった者を、自国の一般人としてかくまった。
戦力の途絶えた刻死天使側は、呆気なく敗れた。
王は時の雫で永遠の牢獄行きになった。
これで両国間は争いがなく、平穏の日々が続くかと思われていた。
だが、事件は起こった。
4大天使の1人、ラファエルが何者かにより殺害された。
考えは甘かった。
刻死天使側は、アルデライがどうにかなることは最初から予測していた。
そのため、アルデライは2重の作戦を練っていた。
自分の娘マターと、精鋭達の一部を安全な場所にかくまい、負ければマター達が次の作戦に移る。
マターはラファエルを暗殺し、新たにクログレイドを立ち上げた。
同胞を失ったミカエルは、人間界に行き救世主を探した。
それが海人だった。
2年間もの間、彼が人間界に帰って来れなかった直接的な理由が、マターが新たに起こした戦争だった。
海人は、ラファエルの後継天使としてエルベレシアに降臨した。
彼の力は並の天使より優れていた。
その実力は誰もが認め、期待の星だった。
しかしなぜ帰られなかったのか?
別に帰られないわけではなかった。
そもそもこの国に来たのは時の雫にいる易師オーラルイズに、
「近いうちに神界で、争いが始まる。血を血で洗う汚れた復讐戦争が・・・・」
と言われたからだ。
復讐・・・・・・・・・・・・・・・マターのことか?
ミカエルはそう思い、彼に人間界に帰ることを勧めた。
帰ろうと思えば、いつでも帰ることは出来た。
神界に行くのは彼自身が決めたことだ。
お人好しな彼が・・・・・・・・・・・・・・。
海人はミカエルの提案を拒否した。
神界の民を守ると。平和にして見せると。ラファエルの仇を討つと・・・・・そうミカエルに誓った。
縁もゆかりもない神界のために危険を冒してまで戦う・・・・。
そんな海人にエルベレシアの民は希望を見出した。
「彼ならきっとこの世界を救ってくれる」、と。
少しずつクログレイドの民も心を動かした。
神界全体が、彼の奮闘に心を開き、いつしか彼のもとには多くの民が集まった。
ただ、マターの力は逸脱していた。
何人もの精鋭が目の前で倒れて行った。
2年間友に闘ってきた者が次々とマターに殺された。
呆気なかった・・・・。
海人は今までにない怒りに駆られた。
神獣イフリートの様に、心も拳も大地を揺るがすほどの怒りに震えた。
1対1で向かい合い、構えた。お互い一瞬の隙もなかった。
互いが剣で打ち合う。一閃の剣戟も通らない。
互角だった。
剣を振る手が、もう一撃も繰り出せないほどに疲れていた。
だが勢いは増し、一歩も引かない。
海人はラファエルと友の仇を討つために。
負けたくないと思う気持ちが強まるほど、心が熱くなった。
そして極限に達したとき、互いの剣が、互いの体を貫いた。
海人は最後に残った力を振り絞り、剣を引き抜いた。
そして自身も地面に倒れた。
「ははっ・・・。笑っちゃうよな・・・・こんなところで終わるなんて・・・・・・・・」
そう言うと急に雪奈やみんなの顔が頭を駆け巡った。
涙が溢れた。もうみんなに会えないのかと。
意識の消えかける中、ふと雪奈と交わした約束を思い出した。
「死ねないよ・・・、こんな・・・・とこ・・ろで・・・・そうだ。約束したんだ・・必ず・・帰るっ・・・・て・・」
帰りたい。それだけしか考えられなかった。
海人は倒れているマターを見向きもせず、転移魔法を使い人間界へ帰った。
マターは死んだと思っていた。
だがあのときまだマターは生きていた。
彼女を貫いた剣は奇跡的に心臓を外れていた。
マレアリーフ=タイト=ロディアス・・・・・・。
容姿とは裏腹に、強い心と、力を持った少女だった。
だが全てはアルデライの策略だった。
自分が負け何かがあったとき、娘は自分のために戦ってくれるだろうと。
最初から利用されていた。
マターもまた、被害者だった。
しかし彼女はわかっていた。
父の愛情は、この策略のためだけに注いだ偽りの愛情だと・・・・。
知りながらも彼女は戦った。
父のためでなく、父に殺された民のために・・・、そして・・・・・。
マターは、父の残した幹部たちを集め、1人1人殺していった。
けじめをつけるために・・・・・。
だが1人、例外の者がいた。
ラズィール=カルラ=ロディアス。
彼女の姉であり、マターの一番心の許すことのできる人物だった。
ラズィは彼女を強く抱きしめ、悲しみを分かち合った。
・・・・かのように思えた。
アルデライ・・・・・・・つくづく恐ろしい男だった。
最終作戦・・・・。
それは、マターが敗れた時の保険だった。
ラズィを新王とし、第三のクログレイドを作る。
邪魔になったマターは牢獄に幽閉された。
娘ですら自分の駒にする男・・・・・・・・・・・。
邪道。非道。卑劣。まさに異端王だった・・・・。
海人は人間界へ帰ってきた。
マターの境遇も、本当の"血を血で洗う戦争"の意味も知らずに・・・・・・・・・・・・。
今回は主な登場人物[1]の紹介です。
皆川海人…魔法学園の3年生。ラファエルの後を継ぐ。
葉月雪菜…海人の幼馴染。おなじ家で暮らしている。愛称は"ゆきっち"。
ミカエル…4大天使の一人。現在は行方不明。
草神 凛…海人達より1つ上のお姉さん。愛称は"あねさん"。
霧谷 唯…中学部の2年。海人が好きなおませさん。
天道彪牙…海人の親友。イケメンだが、海人以下。
桐生雅人…海人の親友。物知りで調子者。
凩 美羽…高校部2年。華道や茶道が好き。
黒薙流華…美羽と同い年。唯と海人を取り合っている。
次回は人物紹介[2]です。
これからも見ていってくださいねヽ(^o^)丿