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「しあちゃん可愛いわぁ、俺もう食べちゃいたい」
よくお似合いですぅ、と店員が山崎に見蕩れながら言った。
小一時間ほど、山崎としあはこの店でファッションショーを繰り広げている。
しあはひたすら、山崎の見立てた服を店員にとっかえひっかえ着せられ、フィッティングルームとの往復をするばかりだ。
いい加減、疲れてきたころに、やっと山崎がOKを出した。
裾がふんわりと広がる、オフホワイトのワンピースにボレロ。
服よりも先に靴とバッグは、山崎がしあに発言させる暇も無く即決で購入した。
おまけに山崎の友人の美容院に連れて行かれ、あっという間にふんわりとしたアップにさせられてしまった。
おまけのおまけに、眉を整えられて、まつげをビューラーでぐいと上げられた。
化粧はしていないのに、それだけでしあの顔が変わる。
もともと見た目がいいだけに、劇的な変化だった。
美容師がしきりにしあを褒める。
山崎が満足そうに笑っているのが鏡越しに見えた。
「かわいいかわいい。叶に見せるのがもったいないくらいかわいい」
しあを立たせて、くるりと一回転させて、オーバーリアクションでしあを抱きしめた。
透子と山崎は、スキンシップと称してなにかとしあに触りたがる。
しあもそれが嫌ではない。
ぎゅっと抱きしめられて、赤ちゃんのように背中をぽんぽんをあやされると、なんだかほっとする。
成すがままでいたしあだが、ついに一言ぽつりと漏らした。
「足がすーすーする…」
「ばかね、デートの時はこんくらい露出しなきゃ駄目よ。寒かったら叶に寒いって言って甘えるの!」
「ふぅん?」
「いい、しあちゃん。遠慮はいらないわ、しっかり思う存分叶に甘えておいで」
漫画並みに山崎は目を輝かせた。