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――――――――――


馬鹿だ馬鹿だと言われているが、しあはけして知能が低いわけではない。

中学、高校と、体育以外はそれなりの成績を取ってきたし、大学も1年次の成績は優秀で、各学年5人しか選ばれない特待生を取っていた。


要は、一般常識があまりにも欠落しているわけだ。


そしてあまりにも執着心が無い。

人の事にも、自分自身にさえ。

唯一執着らしいものを見せるのが、食べ物と、ピアノだ。


だから、しあがやりたいと言ったことは、できるだけ叶えてやりたいと、透子は思っている。


だから山崎は、しあが食べたいといったものはできるだけ食べさせてやりたいと思っている。


だから叶は、いつもその二人に振り回されている。

ひいては、小日向しあに振り回される。




終わり間近の昼休み。

朝比奈叶は、いつにも増して不機嫌そうな顔を惜しげもなく休憩室にさらしていた。

実際は不機嫌なのではなく、悩んでいるだけだったけれど。

まわりをビビらせるには十分すぎる顔だったのは間違いない。

密かにいる朝比奈ファンの女子社員が誰一人近づこうとしなかったことでそれは明白だ。


目の前には携帯電話と2枚のチケット。


水族館の入場券だ。

最近の水族館は、夜に行くのが流行っているらしい。


流行りものに疎い叶にとって、この程度の認識しかないのは命取りだった。


昨日、いつものようにヴェクサシオンに行った。

透子が気持ち悪いほど優しくて、頼んでもないのにビールを2杯もサービスした。


嫌な予感がした。


案の定。


半ば強引に山崎からチケットを握らされ、必ずしあと行くようにと念を押された。



行きたくないに決まっている。



何が楽しくてあの馬鹿女と一緒に魚なんぞ見なくちゃいけないんだ。


だいたい、魚は見るもんじゃない、食うもんだ。

100歩譲っても見るもんじゃない。釣るものだ。


けれど、叶は知っている。

透子と山崎、この二人を一人でも敵に回すと非常に面倒だということ。

二人がタッグを組んでいるなら、なおのことだ。



チケットの隣、叶の携帯電話には、透子と山崎からメールが一件ずつ。


『朝比奈へ。

しあには7時半に…駅の南口の時計の前で待ち合わせって伝えといたから。遅れたらコロス』

『叶へ。

いましあちゃんとお買い物中。おめかししていくからホレてあげてね♪ いちろう』


もはや叶に逃げ場は無かった。

こんな日に限って、仕事も何のトラブルも無く、あっさりと終わってしまうのだ。

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