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――――――――――


「で?」


透子が笑っている。


ぽってりと厚めの唇で、それ以上も以下も無い微笑みのカーブを作る。


「カップルばっかりのそれはもう絶好のデートスポット、いちゃつき放題の水族館で、お魚みて帰ってきたわけね」




叶のアパート。

今日は日曜日で、叶は日頃の睡眠不足を解消すべく、昼前までだらだらと布団にもぐりこんでいた。


寝返りを打ち始めた頃、玄関が騒がしくなった。


チャイムを電池が切れるほど押され、近所の迷惑になるように玄関を叩かれ、下品な暴言を散々わめかれている。


誰の仕業か分かっているだけに、叶は無視を決め込んでいた。

今会ってロクなことはない。


しかし相手はさらにしぶとかった。

さすがに居留守を決め込むわけには行かなくなった叶が開けた玄関には。


気味が悪いほど機嫌のいい透子と山崎が立っていた。





透子が極上の笑みを見せる時は、激怒している時だといっていい。

そして寝起きの叶も機嫌が悪かった。


「バッカじゃないの?」 

「あぁ?」

「手ぐらいつないだらどうなのさ?!あわよくばチューくらいして目の前ホテルでしょ?!一発くらい」

「馬鹿かお前は!何で俺がそんなことまで」

「しなきゃ意味ないでしょ、このバカタレ!

まぁそれは冗談としても、なんのためにしあと水族館に行ったと思ってんのよ。しかもわざわざ夜の!

お魚見学ツアーじゃないっつーの!

デートしろッつったのよ、デート!

魚見るだけ見てはいサヨウナラなんて、あたしでもできるじゃん!

ほんッと使えない男だわねッ」

「大体なんで俺があいつのためにここまでしなきゃなんねぇんだよ!山崎と行きゃいいだろ」



「この、バカ!」


パジャマ代わりの叶のTシャツの胸倉を掴んだ。



「しあが、あんたがいいって言ったからに決まってんでしょ!この、鈍感!ニブチン!女の敵!」



「まぁまぁ。しあちゃんは楽しかったって言ってたんだし」


めずらしく山崎が叶をフォローする。

勝手にキッチンでお湯を沸かし、お茶をいれる。

手土産のようかんをきれいに切り分けて、その辺にあったお皿に盛り付けてきた。


「一回目で、叶にしては上出来なんじゃない?

また別のところに行けばいいじゃない」

「あぁ?」


山崎は、女が見れば鼻血を出すんじゃないかというような極上の笑みで叶に迫った。

「ねぇ叶。しあちゃんかわいかったでしょ?」

「は?」


「アップにしたうなじとか、横顔とか、まつげとか。

着てる服も、かわいかったでしょ?」


思わず、返答に詰まる。

絶対に言う気はないが、確かに、目を奪われたのだ。

わずかな明かりの中に浮かぶ、しあの姿に。


山崎が目を細め、透子がこぶしを固めた。


「あんたが恋してんじゃないわよッ!

このバカ!」

「してねぇ!」

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