1回戦 -ALL-MODEL TESTER.01 vs 鳥羽・A・紫暮
ワァッ!と一段と大きい歓声が響くコロシアムの中心、そこに彼らはいた。
「はて、私は警備の仕事でここに呼ばれていたと思ったのだが…?私の覚えが悪いのやら彼方さんで何かあったのか…」
やれやれ、と肩をすくめる男。第一回戦出場者のひとり、鳥羽・A・紫暮。
言われるがままに案内の男に付いていき、気付いたら現在位置、参加者たちの戦う場コロシアムの中心地に立っているのだ。
元々は現場の警備、出場者の暴走などのストッパーの役割を果たす予定だったはずが出場者として登録されあれやこれやと予選で動いていた結果、現在に至る。
元より世界覇者を決める大会の警備員役が予選程度で遅れを取るはずもないのだが。
彼の片手には極太の葉巻、もう片手には既に中身は空になっている酒瓶。
戦場となるこの場に酒瓶を持ち込むほどの酒豪であることが伺えるが流石に飲みはしないようだ。
仮にも警備の仕事の依頼を受けて来たにしては装備がおかしいように見えるのは不思議ではないはずだ。
「クックック…調整は既に万全だ、我が社の技術の結晶、この「-ALL-MODEL TESTER.01」が負けるはずがない、相手がどこの誰でも構わん。全力で叩き潰せ!」
『任務ヲ更新シマシタ。[戦闘モード]ヘ移行シマス。』
鳥羽の反対側には一人の男と一機のロボット。
それは女性型と思しき形状をしており、両腕には何を積んでいるのか推進器と思われる物体が複数個小さく見え、一般男性の2倍、3倍はあるような大きさを持つ。
「クックック…哀れな老兵さんよ、精々死なないように気をつけることだ、ククク…。」
「ご心配、誠に感謝致す。しかしながら私とて地球圏防衛連合艦隊第108艦隊 旗艦『アリシア』の艦長。そう簡単に敗れますまい。私の娘にカッコ悪いところは見せられませんからな。」
はっはっはと笑いながらも目元はしっかりと相手、「-ALL-MODEL TESTER.01」を見据えては分析を続ける。
やはり出場するからには勝利を狙いに行くようだ。
企業の男は最後の調整を終えたらしくコロシアムの中央から姿を消した。
「はてさて、来てしまった以上は戦わざるを得まい。私が不甲斐なければ艦の奴らが恥をかく。良き戦いをしようじゃないか。」
『目標ヲ視認。固定。』
不意にコロシアムの歓声が収まっていく。
コロシアムの一角、主催者たるカシヲの座る席。そこには大きな銅鑼。
その場でカシヲが立ち上がりコロシアム全域に響き渡る声で宣言する。
「相手側の戦意喪失、または戦闘不能、死亡まで戦いを止めることはない。それだけだ。全力を持ってして戦うがいいッ!それでは…始めッ!」
――ジャァァァァンッッ!!!
戦いの火蓋は切って落とされた。
◇
銅鑼の音が聞こえた。
その瞬間に思考は経験と直感に預けひたすらと集中する。
右手をかざし相手の脚を狙いレーザーを発射する。
瞬間的に相手はその場から掻き消え見失う。
消滅?否、瞬間的な速度を上げ視認不能な速度で移動しただけだ。
どこだ、どこに向かった?右…左…否、背後ッ!
右腕を後ろに振り抜き90°の右回転、それに合わさるように唐突に現れた彼女、テスターは鳥羽のとっさの反応により初撃の失敗を認識する。
彼女の初撃、瞬間移動で背後へ、人間の急所のひとつである首を狙った一撃は驚異的な反応速度をもって鳥羽に止められた。
「ほぅ…瞬間移動とは、地上の技術も進化しているようだな。」
『初撃ハ失敗。プラン変更。最適ナプランヲ検索…。プランGヲ実行開始。』
再びテスターはその場から掻き消え鳥羽の正面、10メートル先に飛ぶ。
「一昔前の衛星軌道防衛戦で経験してなければ初撃でやられてしまっていたよ。実に危ないな…。」
鳥羽は言葉とは真逆に冷静に対処している。
つまるところこれはテスターに対する揺さぶりでもある。しかしテスターは機械、人としての心など持ち合わせておらず端的に状況を把握、分析、対処法を組み上げていく。
逆に瞬間移動は無意味と思わせるような揺さぶりをかける鳥羽はテストーのじっっと見つめる視線で自分のすべてにおいての情報が分析され、吟味され、利用される。そんな感覚に陥った。
『目標ニ動揺ハ見ラレズ。プラン変更ハ不要。攻撃ヲ続行』
「だが機械的すぎるな、もっと柔軟な思考を持つべきだ…よッ!」
言い終わらないうちに片手に持っていた酒瓶を真上に投げる。
一瞬テスターの視線が酒瓶に向く、その瞬間に再び右手からレーザーが照射、それと同時に前方に走りだす。
一瞬だけ反応が遅れるが斜め前方に飛びレーザーを回避、と同時に腕の噴射口から蒸気が噴射されテスターの速度が更に加速、そのまま鳥羽に突進を
仕掛ける。
「ぬぐぅッ!?」
予想外の突進を右腕の機械化した部分で受けるが空中に弾き飛ばされる。
更に追撃を加えようと空を翔けるテスター。
「だが…後ろに飛ぶのは好都合ッ!」
空中の不安定な状態から更にレーザーを照射する。が、横に少し逸れることで回避される。
『レーザーノ回避完了。被害零。攻撃ヲ続行。…ッッ!?』
レーザーは確かにテスターの脇を通り回避されたはずだった。
だが今レーザーはテスターの腕を打ち抜き2人は空中からの自由落下に入っている。
「さすがの最新ロボットでも経験値が違うのだよ。爺と思い油断したか?いや、君にそのような感情はないのだったな。」
彼、鳥羽は最初に上空に囮として放り投げた酒瓶にレーザーを命中させ、その反射によってテスターの腕を打ち抜いたのだ。
腕を打ち抜かれ起動していた推進器がプスプスと煙を上げ、速度を失い落ちてゆく。
『プラン変更。最適プラン、プランSへ変更。』
落下中の彼女の姿が再び掻き消え、鳥羽のさらに上空にと姿を現す。
そのまま左腕を上にあげ推進器を始動、重力による落下速度に加えホバーによる速度も合わさり降下速度は倍以上に跳ね上がった。
「ぬおっ!?」
テスターの瞬間移動は心なしか先の移動よりも遅く見えていたのだが空中で体制を崩していた鳥羽にテスターの落下攻撃に抵抗する術はなく地面に叩きつけられる。
ドゴォと大きな音と砂埃を舞い上げ地面が見えなくなる。その光景から威力を察した観客たちからはゴクリと息を飲む音も聞こえてくる。
しゅたっ、と綺麗な着地を見せ感情の見えぬ瞳を砂埃に向け続けるテスター。
彼女のAI、知能部分は鳥羽がこの攻撃程度では死亡、気絶、もしくは降参するはずがないと結論付けていた。ただその判断ほんの1%未満の部分にこの戦いをまだ続けたい。そう想うテスターの本心があったことは企業、はたまた彼女本人も気づけてはいなかった。
――――………。
静寂。
この場にあるのはそれだけだった。つい数瞬前までの激しい攻防は砂埃とともに隠れてしまったかのように姿を見せない。
目視できるのは直立するテスターと今だ収まることを知らない砂埃だけだ。鳥羽の姿は砂埃の中に隠れてしまっている。
『目標ノ目視不可能。[サーモアイ]ヘ視界情報ヲ変更。』
テスターの瞳の色が切り替わり砂埃の中をサーチしていく。
サーモアイは周囲の温度を色にして表示する旧時代より続く技術の一つだ。最新鋭の護衛ロボットとして開発された彼女の瞳にもその機能は搭載されているのだ。
『周辺ノ状況確認ヲ開始。』
ボソリ、と呟かれるように行動を口にしたその瞬間、再びフィールドに嵐が訪れる。
唐突に鳥羽がテスターの頭上付近まで砂埃内部から飛び出したのだ。
テスターの瞳の機能が切り替わったその一瞬を突いた奇襲、視界を一度だけ暗転せざるを得なくなるロボットの唯一といっていいほどの視界が閉ざされる隙、行動を口にするテスターの特製を読んでそのタイミングをひたすらに待っていたのだ。
奇襲は成功し彼女の頭上をとることに成功、彼女は視界の切り替えにより対処が数瞬だけ遅れる。
しかし彼にとってその数瞬、そのたった数瞬が勝敗を分かつカギになる。
頭上まで飛んだ鳥羽はつい先ほど彼のいた方向に向けてレーザーを連続で打ち出す。
その発射によるわずかな反動を推進力に、テスターの背後に回ることになんとか成功する。
そのまま流れるような動作でテスターの両腕についた推進器をレーザーで打ち抜く。テスターの回避行動も間に合わずすべてが直撃し、彼女の推進器はすべて煙を吐き出すようにプスプスと黒煙を上げ始めた。
テスターは近接戦闘を仕掛けに入り鳥羽の右頬、左肩、右脇腹とさまざまな部分に両腕でのラッシュを繰り出す。
「ようやくだ…」
鳥羽の呟きと共に彼も行動を開始する。
テスターの拳を最小限の動きで回避し続け、彼女の繰り出すパンチを潜り抜ける。
ほんの少し、焦りの表情を作ったテスターを鳥羽は見逃さない。テスターの右腕から繰り出されたパンチを避けざまに腕を掴みそのまま背後に回り込む。
頭に右腕のレーザーの射出口を当てる。それと同時に彼女の左ストレートが彼の腹下に放たれた。
両者の動きがピタリと止まる。
「ここまで推進器を潰しても機動力が全然落ちないのか、実によくできているな。」
『目標ノレーザー攻撃、回避不能。対シ此方ノパンチ回避可能。攻撃速度レーザー>パンチ。勝率…0%。』
『私ノ……敗北。』
勝負は決した。
―――はずだった。
「さて、降参だよ、私の負けだ。」
観客席からのどよめきが起きる。
『ナゼ…。私ノ勝率ハ0%。貴方ノ勝利ハ揺ルガナイ。』
戦闘中に会話の片鱗すら見せなかったテスターだが今この時は鳥羽を問い詰める。
それほど彼の降参宣言は彼女のAI、人工知能に疑問を抱かせた。
「どうやら君は人間の心をまだ知らないようだ。私には君と同じぐらいの…同じくらいというのも可笑しいのかもしれないが娘がいてね、ふと君の姿と同期してしまってね。もう私は君に対して攻撃を加えることができなかったよ。」
『娘…?攻撃デキナイ?……理解不能…。』
「君はまだ生まれたばかりだ。なに、動きをみればすぐにわかるよ、君にもきっとわかる時が来る。人の心とは不思議なものだよ。それでは、2回戦、がんばりたまえよ。はっはっは」
その場に笑い声を残し鳥羽はフィールドから去って行った。
『人間ノ心…?娘…親…理解デキナイ…。』
鳥羽の残した言葉を何度も口の中で反復しながら茫然と立ち尽くすテスターをその場に残して。
【勝者、<-ALL-MODEL TESTER.01>です!アツい戦いでしたね!さて、次の対戦カードを発表致します!次の対戦カードは……!<神藤 命>vs<東・幸之助>」です!】
戦いはまだ始まったばかりだ。
とりあえず現在書き上がっている部分はココまでです。
2回戦目の命vs東 はこれから執筆です…(;・∀・)
「なんかこんなキャラじゃなかった!」「こんな感じ!」「つまらん」「まぁまぁやろ。」等々些細なことでも感想を戴けると励みになりますので宜しければお願いします。m(_ _)m
※この後書きは次話投稿時に削除されます。