プロローグ②
「さてさて、これは面白いものを見つけちゃったね、参加するしかないでしょ!」
ここにも一人、大会に参加を決意する人物がいた。
その名は『Ashley・Ward』この世界を何百年と生き続けている人ならざる人間だ。
「コレクターとしてはこれ以上もない程の商品だね、是非とも手に入れたいところだよ。」
昔は金目の物に目がなく、何世紀も前は幽霊船の船員をやっていて、主に海賊船から奪取した財宝の管理をしていたものだった。
しかし、長い年月を経て金目の物よりも気に入ったものを収集するようになり、気に入った物ならばそこらの石や葉っぱといったものでも集めるようになった。
例え今後何百年と経とうが収集癖は治らないであろう。
「さーて、大会まで数日、特にやることもないわけだし"コレクション"でも眺めてるかね!」
彼女の過去の収集癖により集められた彼女のコレクションは彼女の持つ特殊な能力により劣化が防がれ姿かたちを変えずに長い年月を同じ姿で保ち続けている。
過去に身につけた交渉術、肉体会話術がどこまで通じるのか、そんなことを考えながらも自らのコレクションを眺め悦に浸るのであった。
◇
「はぁ……この体にも慣れてきてるけどまだまだ動きのキレあらへんね」
呟きながらもガックリと肩を落とすどこにでもいそうなおばちゃんが一人、誰に言うわけでもなく一人感慨深げにため息を吐く。
「歳と比例して魔力量が増えたのはありがたいねんけど…反比例して体力が落ちるてのも考えもんやね…」
ぶつぶつと独り言を呟き続ける彼女、池田 久美子は今でこそ53歳というおばちゃんな姿をしているが実際の年齢は16歳という見た目よりも30以上もの若さを持つ魔女である。
あるとき呪いをかけられてしまい現在の姿になってしまいスキルは落ちているが魔女としての能力だけでなくスパイ活動に三●生命での事務員までこなす凄腕な元少女なのだ。
「天上一武道会で優勝さえやれば呪いだて解けるはずや!今の姿やと不安しかないわけやけど…いやぁなんとかなるやろ!なるようになれ!」
あはははは、と笑いを零しながらも来たる大会での優勝を夢見るのであった。
◇
「ザカート様、それは真なのでしょうか?」
『勿論じゃ、ヴェルメリオよ…。お主は数日後の『天上一武道会』に出場し最後まで戦い抜かなければならぬのだ…。』
「ザカート様のお手を煩わせるわけには行きませぬ、是非ともこのデゼールの神子、ヴェルメリオにお任せを。」
とある砂漠の祠、そこは古より伝わり今も尚信仰され続けている竜、ザカートを祀る祠だ。
そこには跪き祈りを捧げながらそこにはいない何かと会話する青年がいた。
彼は砂漠の国デゼールの民で、100年に一度だけ国から一人選ばれる神子の青年。その名をヴェルメリオといった。
神子の儀式を行い暗黒太陽の化身、黄昏の竜、ザカートの加護を受けそのお告げを遂行していくのが彼の役目であった。
『この催しは裏で何か大きなものが蠢いているようじゃ、それを探り大元を叩くのだ、そやつらをここで滅しておかなければ今後このデゼールにまでも災いを運んでくるやもしれぬ。』
「了解致しました。すべてはザカート様の意のままに…」
先ほどまでよりも強く祈りを捧げ立ち上がるヴェルメリオ。
彼の左腕はザカートの加護により黒き炎を纏い、来る戦いをいまかいまかと待つように揺らめいていた。
◇
――――ドォォォォォォンッッ!!!!
大きな爆発が街の中で起こる。
爆発の発生源の家は半壊、周囲の建物もところどころ削れ、被害は莫大なものとなった。
「またかやくのはいごうりょうまちがえちゃった……。」
半壊した建物からトボトボと歩いてくる人影…否、ロボ影が一つ。
ゴホゴホと出てもいない咳をしながらもションボリと上を見上げる。
「またみんなにおこられちゃうや…。はやくなおさないと!」
シュン…、としていたのは一瞬、すぐさま元気を取り戻しては自宅に走っては工具を持ち出し傷ついた周囲の壁をまたたく間に修理していく。
彼はロボットの生きる国、ラクリカの住人グラップ。
趣味は武器や爆弾などの所謂危険物の製造という言動とは相反するようななかなかなクレイジーボーイ、ならぬクレイジーロボである。
誤爆によって舞い上がっていた煙が収まりヒラヒラと落ちてくるチラシが目に入る。
「なにこれ…?わーるどあさるとらんきんぐ?なんのたいかいなんだろ?でもなんかおもしろそう!…でも、こくおうさまのきょかがひつようなのかぁー…おねがいしてみよっかな!」
そうと決まれば!と意気込み、先程よりもさらに速度をあげて修理を再開する。
きっちりと修理をしてから向かうおうとするところを見るに趣味とは違ってしっかりしていて優しい『心』を持っているのだろう。
「こくおうさまー!これにでたいんだけどだいじょうぶかなー?」
グラップはそう言い手に持ったチラシを国王に差し出す。
余談だがこの国では民が申請さえすれば国王の空いている時間にいつでも謁見することができる。
これにより現状に対する不満やら相談をいつでも国に申し付けることができるのだ。
閑話休題
「別に良いぞ、怪我にだけは注意するのじゃぞ~」
チラシの内容も確認せずに手をひらひらと振り「よいぞよいぞ、頑張ってきなされ」と続けるロボットの国王。
仕事放棄という程でもないがなかなか堂々とした職務怠慢である。
「ありがとうこくおうさま!がんばってくるね!」
この場に『天上一武闘会』が世界一を決める戦闘のイベントだと知る者はいなかったのである。
◇ ◆ ◇
あれからなんやかんやと予選があり『天上一武道会』が開催される当日の朝。
コロシアムのような会場の中心地、そこには8人の出場者と主催者と思しき漆黒のマントを羽織った一人のロボット。
「よくぞこの大会に参加してくれたね。まずは、先日の最強足り得る知力、体力から選別するための予選を勝ち抜き見事この場に残った8人に惜しげのない拍手を贈ろう。」
彼が一言、たった一言口に出したその瞬間、会場の観客席からはこれでもかと言わんばかりの拍手喝采が巻き起こった。
次に彼が腕を真横にあげた瞬間、拍手は収まり次の彼の言葉を待つ。
「言い忘れていたけど、僕が前│世界覇者で現在の世界管理者、カシヲだよ。君たちにはこれまで培ってきた自らの肉体、知力、経験、そして持ち前の特殊能力、全てを用いて戦ってもらう。全てを賭けて挑み、敗者の悔しさ、涙を糧とし頂点まで上り詰めたものが勝者となる!君たちの健闘を祈っているよ。」
彼の開会演説が終了し、参加者たちは各々の待機部屋に戻って行った。
――その数分後
【今後も対戦の発表はアナウンスでお伝えします。それでは一回戦の対戦カードです。 <-ALL-MODEL TESTER.01> vs <鳥羽・A・紫暮> 各人全力を尽くし戦ってください。】
一回戦目のマッチアップが発表されたのであった。