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欠陥性

 200円で昼食を終える事が出来るのは確かに美徳と云えるだろうが、コンビニで買う100円の肉まんというのは、いささか学生には悪徳過ぎるように思う。その場で食べるおやつとしては少々高いのではないか。同様に100円ショップで必要物を買うことと、菓子を買うことでは雲泥、月とすっぽん、天と地、メタグロスとデリバード程度には違うのではないか(最後の例えが分からなくとも特にこの先不便はないがどうにもこのフレーズは僕のお気に入りである)、と。しかしコンビニエンスストアの凄いところと云えば、各企業ごとになかなか工夫を凝らしているところで、どこに行っても違った味が楽しめる。個人的に肉まんについては、セブンイ○ブンを大々的にお勧めしたい。

 結局のところ、この誘惑に勝つことが出来ないのが学生の学生たる所以だろうと僕は理解している。

 僕としても、隣でおいしそうに肉まんを頬張る彼女を見て、財布の中身がついに野口一人のみになってしまったことも小さな事に思えてくるのは必然か、それとも今月後10日以上残っていることに対する現実逃避であるのか、定かではない。

「店長に言ったら給料前借させてもらえるかなあ…」

 と、そんなことを考え、駄目だったらまた黄色の奴にでも貸してもらうか金、と独りごちる。

気がつくと僕の前を歩いている彼女に、どうせなら手をつなぐとか、せめて横に並んで歩きたいなあとか考え、もとい彼女に聞こえるよう声に出してみる。

「ん? 何か言ったかい?」

 聞こえていた彼女は、あたかも聞こえていなかったかのように、「聞こえてたよ」と表現する。

ショートカットを棚引かせて振り返る彼女は、どうにも僕にとっては目の毒らしく、なんとなく胸と頬に熱いものを感じながら、

「い、や、今月、きついなあと、思って」

 と、この場において僕としてはかなりどうでもいい事柄を口走ってしまう。言うまでもなく、彼女は分かっていて僕で遊んでいる。何を分かってはたまた僕で遊んでいるのか、僕には全く分からないあたりが、彼女が魅力的だとおもう人間が僕に次いであとを絶たない理由だろう。ゲイにしかり、レズビアンにしかり。もちろん両刀遣いが当てはまらない理由もない。

 はにかんでいるのか、(僕で遊ぶのを)笑っているのか、答えは明白で、この寒さの中で少し頬を赤らめた彼女のその表情はどうにも僕には{略}。気がつくと彼女は僕の横に付いており、まだ食べ終わっていないらしい肉まんをぱくつきながら、ちゃっかり僕の手を握っている。これはちゃっかりと云うか、と僕は手汗がにじむのを感じ、これはどうしたものかと悩んでいると、彼女が顔をのぞかせている。そろそろ僕もせっぱつまってきたようである。妙な言葉遣いと滑稽な情景描写が僕のアイデンティティであるのだが、彼女はそこにやすやすと侵入してくる。

 なんとなく思うことと云えば、彼女は今日酷く機嫌がいい。こう云った日に限って僕は彼女とは関係ない場所で、面倒な目に逢うことが多いのだが、今はもう夕方なので、大したことはないだろう。なんて思っていると飛んだ災難に逢うのが世の常である。

僕らはたまたま同じマンションに住んでいる。だから帰宅するように彼女が僕の部屋に止まっていくことはよくある事で、正直な話がマンションのエレベーターに乗ってからはその事ばかり考えていたようであるというのが、彼女の見解。誰が、というのは言わずともがな。ご想像の通りでございます、と彼女に、

「ああ、じゃあ泊まって――」そう言いかけるが、彼女がそれをさえぎって言う、

「ごめんねー。今日は先約がいるんだぁ」

 と。先約と云うのは、矢代か真嶋か粟咲か、後他には誰だっけ? と彼女の男は他に誰がいたかと思いを致す。朝野と宮川、それと月見里。そういや幼馴染ってのもいたか。知っているのはこれくらいかと彼女に聞けば、

「今日は恵一ー」と返ってくる。

「親父さんでしたか…」

 まあ、彼女が相手では、大して驚く事でもない。僕としては彼女になにがあってももう驚けないほどには彼女に関する事で地獄を見すぎている。ちなみに親父さんと云うのは“彼女の”という意味であり、その他大した意味はなく、僕の血縁と云うだけである。

 僕のキスをひらりとかわして彼女は「じゃあね」とスキップでもしそうな足取りでエレベーターへ乗り上へ昇っていく。 

「そろそろ飽きられたかなあ」と独りごちる。彼女に男が何人いようと僕の知った事ではないが、彼女はいつまで僕をそばに置くのだろうかとこの先少し不安になる。すべては彼女の気まぐれで、彼女の世界は彼女を中心に回っている。僕の世界もまたしかり。

「盛大にふられたねえ、少年」

「声がした方を向くと、スーツ姿の小学生が僕の肩を叩いていた」

「誰が小学生かぁ!? これでも立派な社会人だよ!」

「と声を荒げる小学生。目線が合うように前かがみになりながら「あめちゃんいるかい?」と聞いてみると、」

「いるかああああ!」

「と小学生にあるまじき声を上げ、」

「きいいいいいいい!!」

「と地団太を踏む。どうにもいまどきの小学生はスーツを着て社会人を名乗るほどマセているようであめちゃんぐらいでは満足しないようっ!?」

「小学生じゃないっ! てか誰になにを語ってるのっ!?」

「げほっ、かほっ。…ふーふー。」

 その身長を活かした抉るようなアッパーは完ぺきに僕の鳩尾を捉えていた、。

 殴られた鳩尾をさすりながら僕は息を整える。

「アオ君は私の事小学生って言いすぎだよっ! 人の気にしてる事をずけずけと!」

 いい~っと歯をむいて威嚇してくる。何というか、この人は僕の知り合いにしては感情とか、何かその他色々を十分すぎるくらいに持っているよなあ。とこの人に逢うと先ず思う事はそこである。まあ、この人の欠落性をそれゆえにと云えば確かにそうであるが、僕としてはそれを認めないよう努力している。

「せっかく私が、振られたアオ君を慰めてあげようと思ったのに!」

 ただ何というか、彼女ほどじゃないにせよ、この人も相当なものがあるように思う。この人については何というか深い縁があるのか、どうにも文章にするとざっと二十年はかかりそうなほどに色々あるため、ここでは割愛する。この人と僕では、存在や定義に明確な裏表性があり、それが180°裏返っている。裏と表を引き剥がし関係性を絶ち来る事は難しく、また離す事はたやすければ、密着させる事もたやすい。僕らの関係性は文字通り斬っても切れないところにあり、それ以外には存在しない。ところが僕とこの人の関係はすでにアパートの部屋が隣同士意外になくなってきているのはどうにも不思議ではある。いや、それが裏表性故なのか。

「毎度毎度、僕のストレスがたまってきているときに眞澄さんが出てくるんじゃないですか。大体僕はふられてませんよ」

 と、ちっとも事実らしくないのは、彼女の性質故であって僕が振られたわけではない事を祈りたい。

 しかし、眞澄さんが出てくると会話が多くなってしまうのはこの人の生質なのか。誰かと喋ってないとさみしくて死んでしまうに違いない。僕としてはこうして妙な言い回しで、伝わり方もあやふやな表現方法で描――。

「ねえねえ、さっきの可愛い子、話題の君の彼女さんなのかにゃー? ふられちゃった? ふられちゃった♡」

 こうして僕の児戯に割り込んでくることもしばしばである。無視を決め込んでも何かと強制的に会話に入りこませようとするのだから、そういう意味では僕の天敵と云えるか。

「だから別に振られたわけじゃないって言ってるじゃないですか。ったく、彼女はこれから急ぎの用事があっただけですよ」

「でもさーでもさー。じゃあ恵一って? 親父さんって?」

「彼女の今夜のお相手でしょう? 苦しくも僕は選ばれなかったってわけです」

 まああれ相手に僕ごときが選ばれる訳もないけど、珍妙な事に彼女と夜を過ごした数はあれと大して変わらないだろう。面白いのは僕でもあれでも彼女の男としてはその数は少ない方だということか。

「え? 何々どういうことかな、? え? 二股? 寝取られ?」

「どーいう意味ですか、全く人聞きの悪い。たまたま今日は僕じゃなかったってだけで、昨日は僕ん家でやることやってましたよ」

「????」

 僕と彼女の関係はどういうわけか基本的に理解されないからなかなか悔しいものがある。というのはどうにも他人からはこの関係が異常なものに思えるようで、それを知った奴にはほぼ確実に彼女との縁を切るよう言われてしまう。このような点においても、世界はなかなかどうして残酷である。まあ、これに関しては慣れているので、適当に返答を返すことにしているが。

「二股どころじゃないですけどね。僕の知ってる限りでは少なくとも八股。実際には、多分十六股ぐらいはしてるんじゃないですか?」

「…………………………」

 絶句。

「そんなに…?」

「ええ」

 もっと、過剰な反応が返ってくると思っていたのだけれど、存外なかなか神妙な返答である。

「う、うーわー。何というか。うん。凄いね…」

 この手の質問にも、僕は基本的に同じ答えを用意している。浮気されて怒りだす男がいるが奴らの気はどうにも僕にはわからない。一般的に(本当に一般的かどうかは存外僕の知るところにない)、人間の愛の期限は三年が限度と云われている。そんなに短い時間であれば気持がコロコロ別のところに移動する恋愛もあれば、日によって、今日はこいつ明日はあいつ、昨日あの子だったから明後日はあの人にしようかしらん。などと複数の人間との恋愛もあっていいではないかと惟う(おもう)のである。

「まあ、到底僕らの関係が他人に理解されるとも思っていませんし。重要なのは、僕の気持がどこにあるかなんですよ。それさえ明確にしていれば、僕とて誰と寝るのもかまいません」

 しばし呆然とする眞澄さん。どうにも児戯が過ぎたようである。こうして思考の一端を誰かに向けて語ることは勝手に作ったルール上でタブーとしているのだが、お相手が悪いようである。

 ちょっとばっかし恥ずかしいなと鼻の頭をかいていると、この寒い中同じ場所で話し込んだせいか眞澄さんの方はすこし体をちじ込ませる。心なしか顔も少し赤くなっているのは、おさない少女を見るようでなかなかに眼福ではある。

 眞澄さんはようなしぐさをして

「……じ、じゃあ、じゃあ今夜のお相手はおねーさんが立候補しちゃおっかにゃーん?」

 恥ずかしいなら言わなきゃいいのに、この人は僕を一度でもからかえた事もないくせに、とれともそれゆえか、自滅しながら突っ込んできて、僕のもとには一歩届かず止まってしまうというなんともかわいそうな生き物である。どちらにせよ、止めればいいのにという言葉は届かない。

「人ん家の前でよく言えますねそんな事。遠慮しときます。というか、二十五にもなってまだブラジャーも付けられない人には興味ありません」

「まだ言うかこの!」

 ぎゃーっと襲いかかってくる。受け止める事も出来るけどさすがにそれをやると、絵的に僕の身柄が怪しくなってくるのでするりとよけて。その流れで部屋に入る。鍵も閉めたので、入ってこれまい。


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