地上へ(1)
古代から人類は月と地球に住み助け合って生きてきた。人類は魔力を自在に操り頂点を競い合っていた。しかし、10年前突如突如地球上に生息している魔獣が大量に現れた。それを聞き、助けに走った月の人類を含め地上で魔獣との全面的戦争が行われた。
結果は圧倒的な力とその数で人類は勝利をあきらめた。何もかもがあきらめられたとき誰かが言った。
「月の人類が地球を征服するために魔獣を連れてきたのだと。」
ある一人のある言葉から地球と月で戦争が起こった。数の差は地球のほうが有利だったが月の人類はわずかな数で勝利した。地球の人類はまた数を減らしたが魔獣が地上にいることは変わらなかった。そこで、人類は開発途中であった地下都市を拡大化し、そこに移住することを決めた。そして、地上の魔獣の殲滅を目的とした学園が多量に設置されたのである。
現在、日本中心第三都市
かつて日本の最大都市であった東京都を地下空間にそのまま再現した日本中心都市の第三都市「日本中心第三都市」。日本中心第三都市は第七部まであるが第三都市は魔獣の殲滅を目的とした学園が一番多く設置されており昼の都内は学生たちであふれかえっている。違う学園の生徒たちがそれぞれの学園の制服を着ていて、辺りを見渡したら人、人、人、そして人。しかし、そのほとんどが10代前半から20代前半のやはり学生たちであり、そこに大人が入るとそこだけ浮いているように感じられる。高層ビルが立ち並ぶ中、黒い影とそれを負う黒い影絵があった。追われている黒い影は人間と確認できるが、もう一方の影は明らかに人間の影でなく、しかし人の形をしている。全長3mで腕は足の爪先につくかつかないかくらいの長さである。体をぐねるように走っている様子をみるからに、全身3mの黒い影はだれが見ても怪物、化け物というだろう。追いかけられていた少年は片手に小型の爆弾を持ち立ち止まった。
「どんだけの威力だかしらねーが、爆弾くらえー!!!」
声とともに手に持っていた爆弾に少年はオレンジ色に光り肉眼でも確認できるほどの魔力を注いだ。まるで飲み終えた空き缶を捨てるかのように少年はそのもう一方の黒い影に投げた。瞬時にオレンジ色の爆風が周囲の建物ごと黒い影を吹き飛ばした。投げた少年もオレンジ色に光る爆風に巻き込まれた。
「うぐぅっ!何ツー威力だ。しかし、これだけの爆風だ、ありえないが無傷だとしてもかなり距離を稼ぐことができるだろ・・・」
自ら投げた爆弾の爆風に巻き込まれ、頭部に軽傷を負いながらも少年は黒い影に対する緊張を解かない。しかし、爆風による煙が薄くなり目の前がはっきり見えるようになった瞬間30mくらい先にから黒い影が快速電車が通り過ぎるように少年に向かって飛んできたのだ。少年は防御体制に入ろうとするが、
「なっ・・・・うごかね・・・・・」
事実、少年の体には黒い影の怪物から出ているであろう漆黒の影がしっかりと少年の動きを封じていた。先ほどの爆風によるダメージも大きく、その影を弾くことが出来ない。
少年と黒い影の怪物との距離20mーいやいやいや、まずいだろ!!!
少年と黒い影の怪物との距離10mー魔法がつかえねぇ、爆弾使うにも手が封じてある・・・
少年と黒い影の怪物との距離5mとなったとき0、3秒前まで少年めがけて飛んできた黒い影の怪物は0.3という一瞬の間で巨大な氷の中で固まっていた。
「あ・・・・っぶねぇ・・・・・・」
少年が小声でつぶやくと巨大な氷はツボを地面に投げつけたように割れ散った。
「全長3mで人型。下の下級のBクラスの魔獣か、・・・・遅れてすまなかった、軌竜」
声の主は軌竜と呼ばれた少年の背後からコツコツとブーツの足音を響かせながら歩いてきた。軌竜は動けることを確認し立ち上がって右頭部の一部が失っていてよく見ようとしても血の色で何が何だか分からなくなっている状態である先ほどの声の主に話しかけた。
「伊吹!?そっちに行った魔獣はどうしたんだ?」
伊吹と呼ばれた少年は重傷を負った右頭部を右手で抑えながら言う。
「軌竜と別れた後すぐ俺にくっつき自爆した」
数分か前、軌竜と伊吹は2体の黒い影「魔獣」と呼ばれる怪物に追われていた。その途中、1対1のほうが効率化よいと考え別々になったが、伊吹を追っていた魔獣はなぜかすぐ伊吹を巻き添えにして自爆し姿を消したのだ。
「そうか、・・・まぁとりあえず園に戻ろうぜ。上に報告して体を休めよう」
「そうだな。飛ばないで歩いて行こう、歩きたい気分だ。ってか今の状態だととべねぇ」
(どうせ報告は俺がするんだろうなぁ)と思いつつ軌竜は背伸びをしながら「んぁあ」と伊吹の言葉に返事をした――――
魔獣を倒したことを報告しに行く軌竜と伊吹が歩いている道に先に大勢の人の集団があった。おしくらまんじゅうでもしているのかの用に思うほどの人数がいた。その他道をただただ通行していく人たちは逃げるようにその場を去ろうとしている。
「路上ライブでもやっているのか?でもこんな道のど真ん中でやるには無理があるし少し様子がおかしいぞ」
軌竜がそういうと伊吹はそのまま目の前にある集団のほうへ歩き出した。
「様子見だな。」
学園前某路中
ドサッ。という音とともに人の笑い声が広がった。男二人と女二人の四人組が一人の少女を中心に囲み、その周りにやじうまと思える人たちが集まっている。音の原因は白いコートを着ている短髪の男が少女の腹部を蹴り水たまりに転げ落ちた、というものだった。腹部を両手で押さえながら少女は吐血し立ち上がろうとするが今度は二人の女が少女の髪をつかみあげ、腰に収めていた小刀を取り出しそのまま少女の服を切り刻んだ。やじうまの中から歓声が起こり少女はほぼ裸の状態で放り投げだされた。
「みじめよね。これが最強と謳われた人種だなんて、今の自分の姿を見てみなさい。どれだけみじめで哀れだかがわかるから。」
再び小刀を腰に収めた女はそういうと少女を睨み付けた。すると後ろからもう一人の女が冷水の入ったバケツを抱えて少女の頭上でそのバケツを百八十度回転させた。季節は秋の終わりで冬に入ろうとしている。少女は小刻みに体を震わせ辺りに何か体を隠せそうなものがないか見渡すと再び男が少女を蹴り飛ばす。
「誰もお前のことなんか助けやしないよ。むしろ邪魔なんだよ。」
そういうと男女四人組が学園内に入って行きやじうまたちもその場を後にした。一人取り残された少女は寒さを我慢しながら着るものがなくこの状態では歩くことすらできずただその場で寒さをしのぐことしかできなかった。意識が朦朧としてきたとき少女は体がふわっと温まるのを感じた。我に返り少女は自分の体に黒いコートで覆われていることに気が付いた。後ろを振り向くとそこには二人の男が立っていた。
「そんな格好でいると風邪ひきますよ?」
声を掛けてきたのはオレンジ色の髪で大人びた顔つきの少年だった。
「氷属性のお前が言うなよ。お前といるだけでこっちは寒いんだから」
奥のほうから真っ赤な短髪でいかにもやんちゃオーラが出ている少年が腕を組みながら目の前の少年を見ていた。二人の少年は自分より年上と感じられるが、そんなに歳は離れていないと少女は頭の中で思った。奥の少年は黒いコートを着ているが目の前の少年は白いYシャツ姿だった。瞬時に少女は脳裏で目の前の少年がコートを貸してくれたのだろうと確信した。
「あ…あの…。……ありがとうございます。」
「気にしないで、ここじゃ寒いしまず園の中に入ろう。」
すると少年は少女の手を取り歩く……が、背後から声が響いた。
「おいっ!報告どうすんだよ!」
「面倒だからこの子も連れて行く。ダメかな?」
少年の顔を窺うと笑顔でこちらを見つめている。
「私は構いませんが報告って任務のですよね?良いんですか私関係ないのに…」
「関係なくはないよ。報告を終えた後さっきの出来事で聞きたいことがあるんだ」
そう言うと少年は再び少女の手を握り歩き出した。
地球と月との戦争で地球全人類に対し、月側はたったの五人で戦争に挑んだ。地球の人類は魔獣との戦争で半分以上の数を減らしたが、四十億人以上いた。その四十億人以上の数を月の人類はわずか五人で地球の人類へ絶望を送りつけた。五人ひとりひとりの能力が地球の人類とは比べ物にならないほど桁外れで某三国を壊滅寸前まで追いやった。その国の中に日本も含まれていたのだ。月の人類五人は地球の人類の攻撃にびくともせず四十億人以上いた数を二十億人にまで減らし、多くの人々を殺していった。月から送られてきた五人の使者は今だ誰一人として身元が判明しておらず、今現在も謎に包まれている存在である。
第三都市学園 学園長室前通路
日本中心第三都市の中心に堂々と立っている学園の最上階。学園の中で一番高い場所、時計塔の真下のフロアでガラス張りの壁になっている。室内から学園中庭だけでなく学園の敷地内を展望できる、学園内の生徒が皆好きといっても過言ではない場所。その学園長室前の通路に男女三人の姿があった。
「あの、やっぱり私部外者ですしここでお二人を待っていますよ。」
「大丈夫、大丈夫。君にも聞いてもらいたいことがあるんだよ。」
「ここで待ってるより俺らが園長と話してる間、学園の様子でも見てればいいさ。ここからの眺めは最高だ。じゃ、とりあえず扉あけるぞ。」
ガチャ。と広いフロアに音が響いた。空はもう夕暮れでちょうど人工太陽が学園長室をオレンジ色に照らしている。奥に机があるだけで他には何もない。園長の姿が見えなく少年二人はそのまま奥にあった机に腰かけた。
―なんで椅子じゃなく机に?
―そういえばここの学園って任務終えた後いちいち学園長に報告してたっけ…。
少女もその場で座り込み、くつろいでいる少年二人の姿をボーっと見つめていた。
―いや、学園長じゃなくても、誰にも報告する制度ないはずじゃ…。
そんなことを考えている内に、自分たちが入ってきた扉ではない扉からピンク色の長い髪の女性が入ってきた。見た目で年齢は二十代前半だと少女は直感的に思った。
「鏡河軌竜、龍爆伊吹。何回言えばノックをして入ってくるのだ。」
見た目からは想像もつかないたくましい声を発した。先ほどこの女性が言った二人の名前がこの二人の名前なのかと少女は心のどこかで納得した。
「それで、誰だこの女は。」
「さっき帰ってくるとき道端で拾ってきたんだ。かわいいだろ。」
まるで友達と話しているかのような感覚で少年は受け答えた。
「わ、私は結盟梓といいます。中等部二年です。」
「中等部だったんだ。」
「話を本題にするぞ、何かわかったことはあるか」
すると先ほどまで緩んでいた少年の雰囲気が急にキリっと変わり表情が怖くなった。
「今回現れた魔獣は下の下級のBクラスだ。二体現れたが一体は自爆もう一体は消滅した。」
声のトーンも下がり場に緊張感があった。
「やはり下の下級か…。最近学園都市で魔獣に襲われる生徒の被害があまりにも急激に増えているから、コンプュータカメラを地上に送り調査したのだ。そしたら第三都市にある北ゲートが故障…破壊されていた。」
「あ、あの。北ゲートってなんですか?」
おどおどした声で梓が訪ねた。教えるか否かと迷ったが赤い短髪の少年が答えた。
「地上と地下をつなぐ大きな門だ。普段は高度なセキュリティで人が使用する以外、魔獣の侵入を食い止めているはずだが、北にあるゲートが破壊されてるってことだ。」
「軌竜の言う通りだ。第三都市の上にはゲートが四つある。このゲートが二つでも機能しなくなったら世界中の地下に魔獣が広がってしまうのだ。」
軌竜と言われた少年は舌打ちをした。
「梓、このことはほかの生徒には他言無用だ。」
「はい…」
自分の体が震えているのがわかった。自分の目の前にいる三人はとてつもなく重大なこと話していると思うと、何も言葉が出せなかった。
「大丈夫。急にこんな難しいことを聞かせてごめんよ。でも君にも聞いておおいてもらいたいんだ。」
赤い短髪の少年が軌竜と呼ばれていたのでこのオレンジ色の髪の毛の人が伊吹なのだろうと確信した。しかし、なぜ自分にこの話を聞いておいてもらいたいのかが梓にはわからなかった。
「とにかく貴様たちには地上へ行きゲートの修理を頼みたい。」
「断る理由はねぇが生きて帰ってこれるとは到底思えんが。その前に二人で行くことか から根本的におかしい。」
「行くメンバーは貴様らで決めるといい。生存確率が非常に低いのは承知の上で頼んでいる。私が今回貴様たちを選んだ理由はこの学園内でまともに魔獣と戦えるのはごくわずかしかいない。その中で数多くの魔獣との戦闘を行い魔獣消滅を一番成し遂げているのが貴様たち二人なのだ。」
「行くメンバーは俺らで決められるんだ。戦力は俺ら次第ってことで良いだろ。」
気龍と園長の話に伊吹が入った。
「園長からの依頼とやらは分かった。話題を変えさせてもらうぞ。梓をここに連れてきたのも関係がある。この学園の生徒はなぜ月の人類を嫌う。」
学園長の口元が笑ったことに梓はかすかに体を震わせた。
「ここの学園の生徒である子供たちは家族や友人、故郷をどっかの誰かさんが暴れたせいで失った子ばかりだ。梓のことだろう?我々地球の人類が月の人類に手を出さないようにしたいのであれば、お前たちのその驚異的な力でねじ伏せる他ない。これが最も手っ取り早いことだがお前にそれができるのか、龍爆伊吹。」
人工太陽のオレンジの光が消え地下大都市は夜になり一気に暗くなった。園長室のフロアが暗くなるとともに伊吹の姿が変わっていった。手色が肌色から黒く染まり腰のあたりから尻尾も生えてきた。目の下に黒い模様が現れそれは口元まで伸びてゆき両目が赤色に光った。先ほどの優しい面影はすべて消えていた。
「もし月の人類の生徒が一人でもそのようなことで死んだ場合、俺は躊躇なくその現場にいた者を殺す。」
異様な空気に包まれた。伊吹の目は血混ざった赤色に光り続け表情はまるで獲物をやっと捕らえた化け物だった。
「お前が暴れたら誰が止めんだよ。俺じゃ無理だぞ。」
「構わん、するかしないかは自分で決めろ。これで用件は伝えた、地上には明後日行ってもらう。それまでに行くメンバーを決めろ。」
そういうと学園長は白い煙に包まれ姿を消した。