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患者

作者: 天窪 雪路

「あなたおいくつ?」

品のある女性が待合室の若い女に声をかけた。

若い女はそれが自分に対する声掛けであると初めは分からなかったが、

品のある女と目が合うと、

「つい先月28になったばかりです」

と答えた。

品のある女はうんと頷くとこう言った。

「がんばりましょうね。私もじきに70になるけれどこの年になっても怖いわ。

二週間後には手術を受けることになったけれど、一生懸命闘うわ。あなたにも幸運を」

医師と28と68の女性患者。

68の女性患者は手術の日取りが決まったが、28の女性患者は決まらない。

28は末期の患者であったのだ。

「私はまだ28よ?!どうして老い先短いあの人が治療を受けられて私は死ぬのを待つだけなの?!」

女は医師に掴みかかる。

「くたばっちまえ!悪党!」

激昂した女に対して医師が意を決して言う。

「君が私を責めようと恨もうと、手術はできない。

君の体を蝕む腫瘍を取り除こうとしたところで腫瘍が多すぎるんだよ。

君は若い。残念だがその若さゆえに生きのよいガン細胞は全身にわたって転移している。

腫瘍を取り除いたら君の体には骨と皮膚しか残らないよ。

そんなことまで言わせないでくれ。私だって辛いんだ」


女は病院を去り、町でドラッグを買った。

正常な精神では病魔に蝕まれた異常な肉体を保つことができなかった。

病気に打ち勝つために恐ろしいほどの痛みにも耐えてきた。

それがすべて延命処置に過ぎないと分かった時、

痛みは耐え難い痛みへと変わった。

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