私の婚約者様との婚約を望む王女様に大事なお話があります
「私とクラウドは愛しあっているの。さっさと別れてくれないかしら」
とあるのどかなお茶会にて。その場にいる全員に聞こえる声で言い放たれた略奪宣言、もとい無邪気なお願いにのびのび過ごしていた令嬢たちは凍り付いた。私も危うく紅茶を吹き出すところだった。
声の主はエイミー・ハルミア王女殿下。ふわふわのピンクの髪に潤んだような大きなルビーの瞳の庇護欲をそそる姿をしている。
国王陛下に溺愛されて育ったエイミー殿下は高位貴族の令息たちとも仲良く過ごしている。
全員が婚約しているのに従者よろしくたびたび呼びつけて一緒にいるとか。婚約者の令嬢たちがやんわり注意しても「ふふ、大切なお友だちと仲良くしているだけよ。彼らも私といると楽しいんですって」と笑顔で言い放つとか。「王女が愛らしいからと醜い嫉妬をするな」とヒーローぶる令息たちと令嬢たちの仲が絶縁一歩手前まで冷え切っているとか。
主に令嬢たちからせっせとヘイトを稼いでいるけれど、悪運が強いのか脳みそお花畑に見えて案外狡猾なのか。ぎりぎり友人といえる付き合いをし、誰か1人を選ぶこともない。
そのいろんな意味で罪深い王女様が、婚約しているにも関わらず人気貴公子ランキングTOP10に常にランクインする令息を選び、その婚約者のルルティア・アマレット伯爵令嬢に一方的に婚約を解消するように命じた。
衝撃的すぎる情報にしんと静まった周りの耳と視線がエイミー殿下と不運なルルティア様に釘付けになる。
というか、婚約者のいるイケメン令息ばかり狙うなんてわざとよね? これで何人目?
しかも、正式な婚約者に「愛しあっているから別れろ」ってそれって完全アウトな不貞宣言だよね?
国内各地のどこにでも商会を展開していて、国庫を潤しているアマレット伯爵家を敵にまわすとかこの国大丈夫?
脳内ツッコミが止まらない私と違い、突然声をかけられたルルティア様は驚いたように目を丸くしたが、冷静に尋ねた。
「まあ、そうなのですか。一応確認させていただきたいのですが。殿下がおっしゃっている相手は私の婚約者、レーゼン侯爵家のクラウド様のことで合っているでしょうか?」
「もちろんよ。あの太陽の貴公子ことクラウド様よ。彼と私は初めて会った時から愛しあっているのよ」
「まああ。クラウド様は滅多にパーティーに参加されませんから、殿下とも顔をあわせる機会はそうないかと思いますが。そんなに仲が良いとは知りませんでしたわ」
クラウド・レーゼン様は眩い金色の髪に金がかったアンバーの瞳、輝くような美貌の男性だ。次期侯爵としてバリバリ働いている中身もイケメンだ。
その黄金色と人を惹きつけてやまない麗しさから”太陽の貴公子”と呼ばれているけれど、社交嫌いで滅多に参加しない。参加しても婚約者のルルティア様と身内以外の女性にはブリザードな対応。彼にちょっかいを出して自信をへし折られた女性たちは王宮の大広間の蝋燭より多いらしい。
でも、月を溶かしたような淡い金の髪にアクアマリンの瞳、妖精のように可憐なルルティア様と寄り添う仲睦まじい姿は周りの心をきゅんきゅんさせている。しがない令嬢の私もその1人です、永遠の推しカップルです。
おっとりと笑うルルティア様をエイミー殿下はきっとにらみつける。
「私たちは真実の愛でいつも結ばれているのよ。それに証拠だってあるんだから」
エイミー殿下が押し付けた手紙を読むうちに頬を赤く染めたルルティア様は、熱を冷ますようにかわいらしく手を頬に当てて呟いた。
「まあ、情熱的なお手紙。こんなにも愛されているなんて殿下は幸せですわね」
「これでわかったでしょう。ぐずぐず言わないでさっさと別れてちょうだい」
ルルティア様の肯定ともとれる言葉に令嬢たちがざわめく。中には、突撃しかけて友人にとり押さえられている勇敢な方もいる。
でも、相手は一応王女。下手に口答えしたら厄介なことになるし。どうやって事をおさめようか。
はらはらしながら見守っているとルルティア様はにっこりと微笑んだ。
「殿下のお話はわかりましたわ。ただ、婚約のことは私では決められませんので。父とクラウド様にお伝えしますわ」
「王女の私が良いって言ってるのだから良いのよ」
んなわけあるか~いっ!! エイミー殿下の気分で婚約者をころころ変えられるんだったら、婚約者を放って殿下に侍ってる浮気男どもは「王女殿下にさしあげます」とまとめて婚約破棄されとるわい。
つい方言でつっこむとルルティア様も困ったように首をかしげる。
「まあ、そうなのですか。でも、私クラウド様に頼まれて手助けをしているのです。私が急にいなくなるとクラウド様もレーゼン侯爵家の皆さんも困るかと思いますわ」
「何よ、ごねたって無駄よ」
「まあ、そんなつもりではありませんわ。でも、クラウド様やレーゼン家の方々は『とても助かる』と喜んでいますので……」
「それぐらい私がやってあげるわよっ。さっさと言いなさいっ」
挑発されたと思ったのかエイミー殿下は顔を真っ赤にして叫ぶ。ルルティア様はほっそりした手首につけたレーゼン様にからのプレゼントだという金色のブレスレットを撫でながらおっとりと話し出した。
「まあ、ありがとうございます。クラウド様はとても忙しい方ですから私も少しでもお力になろうと思って始めたのです。
クラウド様は健康にとても気を遣われていて、夜明けとともに起きた後には毎日欠かさずレーゼン家の方々と一緒にトレーニングを行っています。ですから、定期的に体調に合わせたお茶を作って送っていますの。レーゼン家に招かれた時には一緒に起きてできたてを用意しますわ。
そうそう、クラウド様は領地でとれたレモンを絞った果実水がお好きですけれど、特にお疲れの時にははちみつを入れると喜ばれますわ。このはちみつは我が家で作っている物で、お茶はもちろんのことお肉やサラダのソースにも合う自慢の品ですの。クラウド様はこのはちみつがとりわけお気に入りで、ジェラードジェラートにはちみつをかけたものを差し入れるとそれはもう喜んで……」
「ちょっとっ、いきなりそんなに言われてもついていけないわよっ!」
「まあ、申し訳ありません。楽しくなってつい余計なことまで口走ってしまいましたわ、お許しくださいまし。クラウド様は毎朝のトレーニングの後に身体を休めるためのお茶を用意すると喜ばれますわ」
「ふぅん、何かと思ったらそんな簡単なことなの。そんなの毎朝どころか好きな時に用意してあげるわよ」
「まあ、そうなのですね。興味を持っていただいてうれしいですわ。では、あとでクラウド様がお気に入りのレシピを届けますわね」
エイミー殿下は飽き性で有名だ。そんな彼女が他人の体調にあわせたお茶なんて手間のかかるものを用意できるだろうか。いや、あの口ぶりだと王家に忠実な使用人たちにやらせるつもりかな。さすがわがま……愛され王女、あくどいな。
ふんぞり返るエイミー殿下にルルティア様はにこにこ笑って続ける。
「トレーニングが終わったら朝食の時間ですが。新しい1日の始まりに活気をとりいれるためにとそれぞれ自慢の話を語りますの。
私には子猫の頃から一緒にいる猫のココがいるのですが、クラウド様は初めて会った時からそれはもうとてもかわいがってくださっているのです。でも、ココは家の者以外には人見知りしする子なので、クラウド様が来るといつも隠れてしまって。がっかりされるクラウド様のために、家の全員でココがクラウド様と仲良くなれるようにあれこれと知恵を出し合いましたのよ、今でも笑い話ですわ。それからは皆が自慢の家族の話をするようになりましたの。
そうそう、クラウド様は手先が器用なのでココにたびたびおもちゃを作ってくださるのです。この間はココが入って遊べる箱をプレゼントしてくださって、今ではすっかり気に入って居場所にしていますの。ふふふっ、今度クラウド様が我が家に遊びに来る時が楽しみですわ。
……あら、また長くなってしまって申し訳ございません。とにかくレーゼン家に集まった時には朝の時間に話をすることが習慣になっていますの。いろんな子たちの話を聞けて楽しいですのよ」
「ふふん、任せなさい。社交界一の華とたたえられるこの私が流行を知らない田舎者たちに正しい貴族の暮らしとはどんなものかを教えてあげようじゃない。アマレット伯爵家もこの私の生活を支えるための援助金を出す栄誉を与えるわ。光栄に思いなさい」
うわ、いつも同じ令息たちを侍らせてちやほやされているだけなのに自分で社交界一の華(笑)を名乗るとか。しかも、しれっとルルティア様に生活資金をたかっているし。さすが貴族の頂点に立つ王族、図々しさでは間違いなく社交界一だわ。
そのおっとりした姿から”月明かりの君”と讃えられているルルティア様はただ微笑んで続ける。
「まあ、エミリー殿下のお話を聞けるなんて光栄ですわ。そうそう、レーゼン家に行った時には一緒に領地をまわりますの。
クラウド様は子どもたちの間で流行っている木材を傘のような形に削ったおもちゃを大きなお皿の中で回してぶつけあう遊びが気に入っていて、放っておくと時間を忘れて夢中になるので困りますわ。
それに、クラウド様の友人でお酒造りの職人のアーロンさんにも困ったものです。あの方、クラウド様を見かけると自慢のお酒を賭けてカードゲームを挑んでくるのです。負けるとクラウド様に一晩中酒場で吟遊詩人をさせるので翌日声が枯れてしまって大変なのです。
魔道具研究者のシャーリーさんとジョンさん夫婦の工房はすばらしいですわ。2人が作った魔導灯は夜道や人気のない道を明るく照らしてくれるので、安全に……」
「もういいわっ。何かと思って聞いてあげていたらつまらない話ばかりじゃないっ。本当に愛しあっている私がいればクラウドは幸せなのよ!」
ルルティア様の丁寧な話からは、無口・無表情なレーゼン様の意外と愉快なお人柄や生活ぶりが知られて私はとても面白いけれど。エイミー殿下は好きな人の話なのにまったく興味がないみたいだ。
さっきからの不自然なやりとりといい、エイミー殿下が一方的にレーゼン様の顔に目を付けて欲しがっているだけではないだろうか。
ルルティア様の話を興味津々で聞いていた令嬢たちもそう思ったのか、エイミー殿下を見ながら「またいつもの性質の悪いお遊びですわね」とこそこそささやきあっている。ルルティア様も困ったように一旦口を閉ざしたが微笑んで続ける。
「まあ、それは失礼いたしました。では、大事なお話をお伝えしますね」
「だから、もういいって……」
「ですが、クラウド様の大事なお話なのです。どうか聞いてくださいませんか」
目をうるうるさせて必死にお願いするルルティア様に胸がきゅんきゅんする。何だこのあざとかわいい生き物は、うちのお猫様がおねだりする時だけ見せるへそ天なみにかわいいぞ。
一般人とはだいぶ感覚がずれているエイミー殿下にもかわいいは正義な精神が伝わったのか不満げな顔をしつつもうなずく。喜んだルルティア様は笑顔で続ける。
「ありがとうございます。実は、クラウド様には、その、大事な秘密があるのです」
「秘密?」
「ええ、家の者しか知らない秘密ですの」
得意げなルルティア様に好奇の視線が集まる。あの社交界では鉄面皮・鋼鉄のハート・不動の肉体の人間離れしているレーゼン様に秘密だと? 不機嫌だったエイミー殿下も目をかっぴらいて食いつく。
「早く言いなさいよ」
「はい。実は、クラウド様は…………第三騎士団長様のようなたくましい身体になるために筋肉を鍛えているのです」
「「「はあ!?(ええっ!?)」」」
すっとんきょんすっとんきょうな声を上げたエイミー殿下と一緒に聞き耳を立てていた方々からも声がもれる。私もだ。
第三騎士団は王都とその周辺を警備する精鋭揃いで、騎士団長様は歩く城壁と呼ばれる全身鍛えあげたムッキムキでバッキバキな身体をした最強の騎士様だ。鋭い目つきと近くにいるだけで圧を感じる存在感の強さで苦手にされている令嬢方もいるけれど、私は駿馬のようなしなやかな躍動感やどこか愛嬌と色香のある笑顔が素敵なイケオジ様だと思う。会うといつも優しく対応してくださって王都民たちからの人気も絶大だ。
ルルティア様も心なしかうきうきと話し出す。
「クラウド様は日々を健やかに過ごすためには身体のケアが大事だといつもおっしゃっていて、その一環として筋肉を鍛え始めたのです。やっているうちにとても気に入ったらしく時間ができると身体を鍛えて健やかに育っていく筋肉を愛でているのです。時には同じ目標を掲げる仲間たちとそれはもう褒め称えあってとても楽しそうで。私、その仲の良さに妬いてしまいますわ」
「うっ……そうなの」
突然の熱い語りにドン引きしながらもエイミー殿下がうなずくと、ルルティア様は感極まったように手を組み、思わず手を差し伸べたくなるような切ない顔をした。
「ええ、ええ。そうなのですっ。クラウド様ったら最近はいつもそのことばかりなのです。
素晴らしい筋肉のためにと鉄を仕込んだ靴で走り回って、毎朝仲間たちで狩ってきたムキムキチキンのお肉を山盛り食べて、少しでも時間ができると指だけで逆立ち腕立て伏せや鉄アレイ上げなどのトレーニングをしてっ。それでいて、きちんとスキンケアもしていて艶やかではりのある思わず触りたくなるようなそれはもう美しい筋肉を育てているのですっ。それにそれにっ」
ルルティア様は目を潤ませてふるふる震える。か、かわいいっ~~~。
「離れにサウナを作ってからというもの、時々第三騎士団長を含めた同志たちを呼んで殿方たちだけで秘密の時間を楽しんでいるのですっ!! サウナを堪能するクラウド様たちはそれはもう盛り上がっていて楽しそうなのですっ!! 磨き上げた筋肉もつっやつやのぴっかぴかになっていて思わず拝みたくなるぐらいなのですっ!!
でもっ、でもっ、私だって仲間なのにっ。クラウド様は『ルルには刺激が強すぎるから』と意地悪して追い払うのですっ。私、悔しくてたまりませんわっ。決して殿方たちのくつろいだ姿を見たいなどと邪な思いではなく、いえちょっぴりは気になりますがっ。憧れの皆様と楽しくお喋りしたいだけですのにっ。ひどいですわーっ!!!」
ルルティア様の魂の叫びに令嬢たちからも「それはひどいですわっ、皆で集まって断固抗議ですわ!!」「ルル様っ、もっとお話を聞かせてくださいましっ」「酸いも甘いも知り尽くした渋い団長様と麗しくも未熟な男性たちが秘密の部屋での裸の付き合い……閃いたわ。紙とペンを持ってきて」と応援の声が上がる。
一部、物騒な言葉が聞こえた気がするが、彼女もルルティア様の味方だから大丈夫だろう、たぶん。
エイミー殿下はというとぶるぶる震えている。そういえば、第三団長様は国王陛下の歳の離れた弟で陛下に容赦なく意見を突きつけるので貴族たちに頼りにされている。その子どもたちにも、ね。
「~~っ、わかったわよ!! クラウドと叔父さまの気持ち悪い趣味も受け入れてあげるわよっ。これで良いんでしょっ」
「まあっ、エイミー殿下にもこの気持ちをわかっていただけるなんてとてもうれしいですわっ。お優しい殿下と殿下の愛する方にも女神様の祝福がありますように」
「はあ!? 何の話よっ!?」
何で愛を司る女神様が出てくるんだろう? エイミー殿下ににらみつけられたルルティア様はクラウド様の愛がこもった金のブレスレットを撫でながら困ったようにもじもじする。ん? あの紋章は女神様の……。
「実はその、クラウド様は婚約する時に私を生涯の婚約者で伴侶にすると女神様に誓いを立ててくださったのです。クラウド様が誓いを破るとは思えませんし、失礼ですが今までのお話を聞いているとエイミー殿下のおっしゃる”クラウド様”と私のクラウド様は別の方だと思いますわ」
「違うわよっ!! 私と愛しあっているのはクラウド・レーゼン様よ!! この手紙が証拠よ!! 何よっ、私に逆らおうって言うの!?」
ルルティア様はやはりもじもじしていたが、エイミー殿下に脅されて困ったように口を開いた。
「殿下にはとても申し訳ありませんが、やはりそれはおかしいかと思いますわ。
クラウド様は例えば私に黙って他の女性と付き合うなど、私を裏切って女神様との誓いを破るとすぐに罰が下ってお相手ともどもフノウになるとおっしゃっていましたわ。そして、女神様を怒らせた罪人として生涯顔にその文字がそれはもう大きく、しかもどこにいても見えるように刻まれると。
クラウド様からは昨日お手紙をもらいましたがいつもと変わらずお元気だと書いてありました。ですから、人違いですわ」
困り顔のルルティア様から放たれた恐ろしい言葉に意味を知る令嬢たちの顔が青ざめる。きょとんとしている方はルルティア様と一緒でそのまま純粋でいてください。
さすが女神様、不貞を犯すような下半身の弱い人間にはオーバーキルな罰だ。これでクラウド様を物理的に襲おうとする肉食系もいなくなるだろう。
エイミー殿下も意味がわかる方だったらしく顔を真っ赤にしてぶるぶると震えている。それに気づいていないルルティア様は無邪気な笑顔でトドメを刺した。
「私のクラウド様も素敵な方ですが、あの情熱的なお手紙の方も心から殿下を愛しているようでうらやましいですわ。その方とお幸せに」
「な……」
「な?」
「何でそれを一番に言わないのよーーーーーっ!!!」
エイミー殿下の絶叫は雲1つない青空に響き渡り、その敗北の叫びはこの日のお茶会に参加した令嬢たち全員の記憶に永遠に残りました。その後、主催者の方が失恋(?)のショックで呆然とする殿下を丁重に運び出し、お茶会も終了しました。
その後、エイミー殿下はお気に入りの令息たちともども社交界に姿を現さなくなり、しばらくしてからそのうちのお1人で婚約者と婚約を解消した方と結婚されました。
あのお茶会に参加していていた方いわく、彼はエイミー殿下に恋い焦がれて正体がバレないように名前を隠してたびたび恋文を出していて、それを読んだエイミー殿下がなぜかレーゼン様と勘違いしたそうです。ルルティア様はとんだとばっちりでしたが「殿下の恋が叶って良かったですわ」とにこにこ笑っています。皆幸せでめでたしめでたしですわね。
そして、私はというと恐れ多くもあの日の脳内ツッコミが漏れていたらしく、すぐ近くにいたご令嬢たちと仲良くなり”ルル様とレーゼン様を見守る会”に入会させていただきました。
私、全力でルル様たちの幸せを応援しますわ!!
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「……ぐっ。はははっ、はははははっ」
今日はレーゼン侯爵家で開かれる楽しいお茶会の日なのですがっ。クラウド様にこの間のエミリー殿下と会った時の話をすると笑いが止まらなくなりましたっ。もうっ、私はとっっっても困ったのに失礼な人ですわっ。
「もうっ、私は本気で困ったのに。笑うなんてひどいわっ」
「す、すまん、ルル。でも、君の話を聞いてその時のことを想像したら……ぐふっ」
一度笑い出すとなかなか止まらないクラウドはがんばって笑いをこらえようとしましたが、結局耐えきれずにむせました。その子どものような姿にほだされかけますが、気の毒なエミリー殿下の名誉のためにもやっぱり釘を刺しておかなければと思い直します。
「私はともかくエミリー殿下に失礼よ。殿下はあの情熱的なお手紙の相手に恋をしていて、悩んだ末に人違いとはいえ婚約者の私に『彼と結ばれたい』と正直な想いを打ち明けられたのよ。あんなに大勢の人の前で告白されるなんてとても勇気がいったでしょうに、すごい方だわ。きっとそれだけ愛しているのね」
「はははっ、確かに君の言う通りあの王女殿下は大した方だよ。真実の愛の彼とまともに会ったことすらない私を間違えて、よりにもよって人前でまったくの無関係の君に騒ぎたてて大恥をかいたけれど、何だかんだでお相手と無事に結ばれたのだからね。この先ずっと社交界に語り継がれる伝説になるだろうね」
クラウドは目尻に涙を浮かべて笑いながら勇敢なエイミー殿下を褒めますが、小心者の私はあの日の自分の行いのことを思い出すと恥ずかしさと情けなさでクローゼットに隠れたくなります。
私、ルルティアとクラウドが婚約したのは両家の事業提携のためです。でも、レーゼン家の皆様もクラウドも最初からとても優しくてすぐに仲良くなり、今では家族として過ごしています。
ですから、これまでクラウドにも私にもほとんど会ったことがないエイミー殿下が想い人を人違いして、大勢の方々の前で私にその切ない恋心を打ち明けられた時にはそれはもう驚いてしまって。どうやって殿下に恥をかかせないように誤解を解こうか困り果てました。
悩んだ末に私なりに考えてクラウドのことをお話して「人違いです」とやんわりと気づいてもらうつもりだったのですが、うまくいかず……。
優しいエミリー殿下が熱心に聞いてくださるのがうれしくて楽しくて、ついつい調子にのってクラウドの趣味も言ってしまいました。エミリー殿下は楽しそうにうなずいてくださっていましたが、後から考えると人前で私の悩みまで思いっきりさらけ出してしまうなんて。ううっ、恥ずかしい……。
それに何より、エミリー殿下にそ、その……。フ、フノウなんて淑女として言ってはいけない恥ずかしい言葉を口にしてしまって殿下にとんでもない顔をされて……。ううっ、バカな自分が恨めしいですわ……。
「はははっ、そんなに気にすることはないさ。むしろ、王女殿下はルルのおかげで結婚できたし、すべてがうまくいって感謝していると思うよ」
あの後、エミリー殿下は主催者の方に連れられて退出し公の場には姿を見せなくなりました。しばらくしてからあの手紙の方と結婚されたと聞きました。お優しい殿下が毎日を健やかに過ごせるように心から幸せをお祈り申し上げますわ。
「それにルルががんばって宣伝してくれがおかげで理想の筋肉を目指す仲間が増えていっているんだ。王女殿下も私も幸せになれて良いことづくめだよ、ありがとう、ルル。君の理想の身体になるように励むよ」
「まあっ、それは素敵っ……。クラウドの役に立てて良かったわ」
私を慰めるようにクラウドは笑ってシャツからのぞく腕を曲げて美しい筋肉を見せてくれました。ああ、艶やかさと生命力と力強さを兼ね揃えた理想の筋肉。見るだけで心が元気になるわ、幸せ~。
私は幼い頃は身体が弱くて、健康に気をつけて毎日静かに過ごしていました。
そんな私に楽しみを教えてくれたのが代々王家に仕える騎士の家の令嬢で、今でも大親友のメイドです。
いつも明るく活き活きとした彼女は「今のルル様はお身体に力をたくわえるスピードが人よりもゆっくりなのですわ。しっかりと栄養と睡眠をとって力をつけていけば元気に過ごせるようになります」と励ましてくれました。そして、私の体調が良いときには私を軽々と抱き上げて庭や家中を歩き回っていろんなお話をしてくれました。
私に添い寝する猫のココのように温かく私を守ってくれるしっかりとした身体と、家の外の美しく広い世界を照らす太陽のような明るい声は今でも私の憧れです。
彼女の言うとおり、成長した私は体調を崩さずに日々を過ごせるようにはなりました。しかし、とても悲しいことに彼女のような身体を目指してトレーニングをしても筋肉が痛くなることはあっても、彼女のような美しく力強い理想の筋肉がつくことはありませんでした。
その話を聞いた優しいクラウドは私の代わりに日々熱心にトレーニングに励み、私の理想の身体を作りあげていっています。最近ではあの人間を超えた尊すぎるまさに究極の肉体美を極めた第三騎士団長様たちと一緒にトレーニングをしていて、すくすくと尊い身体に育っていっています。
ああ、今日もクラウドが素敵。
……でももし、クラウドがあの御方のように神話の英雄のごとくまぶしい肉体になってしまったら、私、大丈夫でしょうか? あのお茶会で仲良くなった方々が言っていた「オシガトウトスギテショウテン」という喜びが限界を突破して正気でいられないという、とても困った状態になってしまわないでしょうか?
その時のことを考えるとちょっぴり不安ですが。まあ、クラウドだったらいくらでも恥ずかしい本音を見せても大丈夫でしょう。
私の愛する婚約者様は世界で一番かっこ良くて優しい方ですもの。
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今日も私の婚約者のルルはかわいい。
私は子どもの頃からこの無駄にキラキラ光る髪と顔に勝手なイメージを抱いて群がってくる不愉快な人間たちに悩まされてきた。
その苦痛から助けてくれたのがルルだった。
見た目も中身も子猫のようにふわふわとした私のルルティアは鍛え上げ生命力に溢れた身体が大好きだ。私がトレーニングで身体に筋肉をつけるとそれはもう喜び、一緒に成長を祝ってくれる。そんなかわいいルルのためならいくらでもがんばれる。
それになよなよとした顔の私を気に入って寄って来る連中は、私が筋骨隆々とした第三騎士団長を師とあおいで彼のような身体を目指していると気づくと勝手に失望して離れていく。良いことづくめだ。
あの思い込みの激しい王女殿下も私の顔を狙っていたようだが。ルルが熱心に私の自慢話をして撃退したと聞いてつい笑ってしまった。
おかげで、私の趣味の話は社交界に広まり、気の合わない連中はいなくなり代わりに同じ志を持つ仲間が増えた。彼らのおかげでルルのためにより素晴らしい筋肉を鍛える方法を教えてもらえ、愛するルルが喜ぶ話もできる。とても幸せだ。
私の愛する婚約者は今日も世界で一番愛らしく、最高の女性だ。




