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盤上ノ箱庭ヨリ -Are you ready to exist?-  作者: 安崎依代@「比翼」漫画①1/29発売決定!
5th.

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18/20

1

「本当に(りん)さんの力ってすごかったんですね……!」


 支度を整え、店を出たのが11時半過ぎ。


 閑散とした街の中を、疾太(はやた)(ゆい)(ひめ)に連れられて歩いていた。


 ちなみに店内にいた時に疾太がこぼした心の声とは180度真逆の台詞(セリフ)が飛んでいるが、社交辞令などではなく、正真正銘、疾太が心の底から上げている感嘆の声である。


「まさか建物ひとつ、丸ごと消してしまうなんて思ってもいませんでした」

「だから、お前は何度言ったら分かるの? 建物自体は消えていないの。きちんとあそこにあるのよ」


 興奮をそのまま声に出す疾太に答えているのは、姫の険のある声だった。結はと言うと、無言のまま疾太の前をスタスタと歩いている。


 ──結さんって、自分以外に答える人間がいると、ほんっとに口開かないんだな……


 そのことに気付いたのはついさっきだった。いきなり何も答えてくれなくなったから、てっきり意味もなく機嫌が悪くなったのかと思っていたのだが、ケンケンと結に突っかかる姫の発言を聞くに、どうやら結にとってはこれが『普通』であるらしい。


「鈴の能力は『(マボロシ)』。(そう)(げつ)の建物を能力でぼかして外から見えないようにしているだけで、建物は消えることなくあの場所あるし、()(らい)達は間違いなくあの中にいるわ」


 対して姫はツンケンとトゲのある物言いながらも、疾太とそれなりの会話を続けてくれている。物言いはキツいが、もしかしたら面倒見がいい性格をしているのかもしれない。


「蒼月の正確な位置を知り、かつ、結みたいに作られた幻を払う能力を持っている人間が攻撃を仕掛ければ、ダメージを与えることも可能なのよ」

「つまり鈴さんは、能力で蒼月が攻撃を受けないように援助しているってことですか?」

「まぁ、そんなところね」

「でも、鈴さんは今回、招盤(しょうばん)を受けてないんですよね? ルール違反にはならないんですか?」

「はぁ?」


 そんな姫に甘えて疾太は質問を重ねていたのだが、今回の問いには険のある声に加えてサングラスで隠されていても不機嫌だと分かる鋭い視線まで飛んできてしまった。過去一厳しい反応に、疾太は反射的に首を(すく)めてしまう。


「お前、結から戦盤について、何も説明を受けていないの?」

「え、はぁ……まぁ……?」

「戦盤で戦う人間は、特殊な能力を持つ。戦うと序列が上がる。序列を有利に上げるためにチームを組む」


 そんな疾太を(かば)うつもりではないのだろうが、不意に結が気のない声を上げた。反射的に疾太が結へ視線を投げれば、結はチラリと無気力な視線を疾太へ向ける。


「序列トップに立てば『カミサマ』に対面できて、何でも願いを叶えてもらえる。プレイヤーは、ゲームに関係していないNPCを攻撃してはいけない。……こんなもんでしょ? 説明したよ」

「全っ然足りないわよっ!! どうして結はそう、毎回毎回言葉足らずなのよっ!!」


 結の視線は疾太へ向いていたが、結の発言に答えたのは姫だ。その反応が結には分かっていたのか、ヒステリックな姫の声がキンッと響き渡るよりも早く、結は両耳を手でふさぐとしれっとあさっての方向を見やる。


 結の無表情がイチミリもブレることがなかった辺りを見るに、結と姫の会話は終始こんな感じなのかもしれない。


「……戦盤っていうのは、基本的に招盤されたプレイヤーが戦う場ではあるけれど、他のプレイヤーが乱入してはならないというルールはないのよ」


 そんな結に苛立ちを存分に込めた視線を投げてから、姫は溜め息とともに語りだした。先程よりも若干落ち着いた声音には、微かに(あきら)めが混じっているような気もする。


 ──やっぱり、普段からこんな感じなんだろうなぁ、この二人。


 思わず疾太は、姫に対してそんな同情じみた感想を胸中で呟いてしまった。


「逆に、招盤されたプレイヤーが参戦しないのは、明確なルール違反よ。何かしらのペナルティーが科されるらしいけれど、ほとんどのプレイヤーが素直に招盤に応じるから、どんなペナルティーが科されるのかは分からないっていうのが実情ね」


 姫の説明に(いわ)く。


 招磐を受けた人間は、必ず己が招かれた戦盤に参加しなければならない。だがその場にいさえすれば、戦闘行為を行うか否かは任意であるのだという。


 そして戦盤は、招盤を受けていない人間の参戦を拒絶しない。招かれていようがいまいが、戦盤が展開されている範囲に立ち入ることも、正規招盤者に混ざって戦闘行為に及ぶことも黙認されている。


 非正規招盤者がわざわざ招かれていない戦盤に乱入する理由は、招盤された同じグループの仲間を助けるためだったり、自分の序列を少しでも上げるためだったり、ただの戦闘狂だったりと様々。


「戦盤における絶対のルールはふたつだけ」


 ひとつは招盤を受けたら必ず参戦すること。


 もうひとつはNPCを殺さないこと。


 このふたつが守られていれば、大概のことは黙認される。


「つまり、今回の鈴さんの行動は、招盤された僕達を援護するためのものだし、そもそも僕達が招盤されていなくても、能力を使うことは、ルール違反にはならない?」

「そういうことよ」


 言葉に険はあるが、姫の説明は相変わらず分かりやすかった。ようやく説明された戦盤の詳細を、疾太は必死に咀嚼して脳内に叩き込む。


 そんな疾太の努力を察してくれているのか、姫はチラリと疾太へ視線を向けると言葉を継ぎ足した。


「ちなみに、戦盤の外での戦闘も、特には禁止されていないわ。戦盤が発生していない時にも、乱闘騒ぎや暗殺には十分に注意することね」


 姫が説明をしている間も、結と姫の足は止まらない。


 打ち合わせをしていたようには見えなかったのに、二人は店を出てから特に目的地を話し合うこともなく、ともに迷うこともなく歩を進めている。


 高飛車でワガママな印象が強い姫が素直に結の先導に従っているということは、もしかしたら第五区で招盤された時に最初に(おもむ)く、スタート地点のような場所があるのかもしれない。


「ただ、戦盤の外と中なら中の方が、正式に招盤されているかいないかで言えばいた方が、そこでの戦果が序列に反映されやすい」


『だから戦盤が現れやすい時間帯に外で狩りをしようとするプレイヤーは、あまりいないわね』と、姫は気のない声で続けた。NPCが溢れている上に世間一般の司法の目がある中でハイリスク・ローリターンの生産性のないことをするプレイヤーはそういない、というのがその根拠であるらしい。


 ──その辺りのことは、確か結さんからも聞いたような……


 そんなことを考えた瞬間、目の前の景色に見覚えがあることに気付いた疾太は、思わず(ほう)けた声を上げていた。


「あ……」


 そこはあの日、結がこの街の説明をするために疾太を連れていったマンションだった。


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